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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅵ・人質と月光と女海賊
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④ヒルデガード

 ガシャンと大きな音を立てて跳ね橋が接続された。その衝撃が足もとから伝わる。

 あたしは少しの不安を感じたけど、ディオンは口もとに笑みを浮かべていた。階段からゼノンとファーガスさんとマルロ、パルウゥス以外のみんなも続々と上がって来る。

 そうして――。


 跳ね橋を堂々と渡ってこちらに来たのは三人。

 船長らしい長髪の人物と、腹心っぽい二人。一人はゴツゴツとした巨体。もう一人はがっしりとはしてるけど均整の取れた体つき。その二人に比べると、船長って細身だな。海賊を束ねるんだからそれなりの人物なんだろうけど。

 カツン、カツン、と音を鳴らして歩み寄る。ん? この音、ヒール?


 近づいて来るにつれ、船長らしき人の姿があたしの目にもはっきりと映った。

 長身だけど、更にヒールの高い靴を履いてる。細身なのもうなずけた。だって、その人は女性だった。


 よく日に焼けた赤茶けた髪と肌。腕まくりをしてむき出しの腕は細くても筋肉質。無駄な贅肉はない。でも、くびれた腰と大きく膨らんだ胸は女性らしいな。

 細身のパンツと大きく胸もとの開いたシャツ。その上に黒いベストの前を開いて軽く着込んでる。

 その姿は『女性』のひと言で片づけてしまうにはあんまりにも精悍だった。


 ぽかんと口を開けて眺めてたあたしの隣でディオンが動いた。

 颯爽と彼女に近づくと、親しげに右手を差し出す。


「久し振りだな、ヒルデ」

「ああ、まったくだ」


 と、彼女――ヒルデさん? もディオンの差し出した手を握った。そうして、そのままゆるく抱き合うようにして肩を叩き合う。……ディオンの表情も柔らかいし、なんか仲よし。ディオンよりは年上っぽいけど。ちょっとくっつきすぎ。


「元気そうで何よりだ、ディオン」


 ちょっと前まで全然元気じゃなかったし。今だってまだ無理はしてると思う。

 でもディオンはそんなこと気づかれたくないんだと思う。まあな、なんて答えてる。


「二年振りくらいか? いい男になったじゃないか」


 ヒルデさんがそんなこと言う。あー、面白くない。

 ディオンはクスリと笑った。


「あんたに助けてもらってばっかりだった頃からすれば、多少はマシになったかもな」


 そこで、いつの間にかあたしのそばに来ていたゼノンがこっそりと教えてくれた。


「彼女はヒルデガード=カペラ。父親が先代の船長で、その後を引き継いだんだ。ディオンが右も左もわからない頃に色々と教えてくれた、言わば恩人だよ」


 ふーん。海賊の先輩ってこと?

 美人ではあるけど、彼女自身の魅力はそう簡単な美醜なんかじゃないような気がする。力強い輝きが内側から溢れてる。人の上に立つ資質を持つ人だ。


 あたしが彼女をじっと見ていたせいかも知れないけど、彼女もあたしに気づいたみたいだった。その途端、面白そうな嬉しそうな顔をした。そうしてディオンに言う。


「おや、あの娘は? エセルならまだしも、お前が女の子を船に乗せるなんてね」


 おーい、なんか言われてるよエセル。操舵を握ってるからエセルは動けないけど、なんか睨んでる気がしないでもない。


「随分若いじゃないか」


 そんなことを言いながらヒルデさんはあたしの方にカツンカツンと歩み寄る。あたしはちょっと緊張しながらも目はそらさなかった。

 ディオンは嫌そうにぼそりと言う。


「そいつはただの下働きだ」


 エピストレ語を習ってるのはヒルデさんにも内緒? だからディオンもそんなことしか言えなかったみたい。

 ヒルデさんは聞いてるのか聞いていないのか、不敵な笑みをあたしに向けて、さっきディオンがしたのと同じようにあたしに手を差し出した。


「ヒルデガードだ」


 あたしはその手を取る。硬い豆がたくさんある骨ばった手だった。いろんな経験を経て来た手だなって思えたから、あたしはヒルデさんに笑顔を向けた。


「ミリザ=ティポットです」


 すると、ヒルデさんは手をぐいっと引いてあたしを抱き締めると、耳もとで言った。


「柔らかい体だ。少なくとも戦うために鍛えた体じゃないね。あんたはディオンの情婦か何かかい?」


 ま、女の身でただ一人船に乗ってたらそういう風に思われるのが普通だよね。

 だからあたしは冷静に笑顔で答えた。


「違います。残念ながら」


 なんて言うと怒るかも知れないけど、まあいいや。

 すると、あたしから体を離したヒルデさんは再び不敵にニヤリと笑った。


「そうか。まあいい」


 え?

 その次の瞬間、ヒルデさんは再びあたしを抱きすくめた。……っていうのはちょっと違う。

 あたしの首に力強い腕を巻きつけ、こめかみに銃口を押しつけたんだ。

 状況が飲み込めなくて、あたしはぽかんと口を開けてしまった。

 

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