私とお兄ちゃん 俺とちぃ
出会いは100年ほど前。と言うか、私が生まれた時からの付き合いの彼。
天使と悪魔を両親に持つ私。
両親はその禁忌によりどちらの種族からも追い出され、寧ろその命すら狙われいた……らしい。
その危機を救って下さったのが当時の龍神族の王であり、今はその座を退かれた龍神王様。
彼はその龍神王様と人間の女性との間に生まれた、龍族の男性。
何故龍神王様と人間の女性がと疑問に思ったものだけど、それも色々なドラマがあったみたい。
まぁ、そんな訳で私の周りには物凄い恋愛関係のお話しがあって、色々聞かせて貰っていたのだけど。
私は物凄く平和に楽しく暮らせて貰う事が出来た。
龍神族と天使や悪魔との関係性は両親のせいで悪化したらしいけど、その問題も一応の解決をしているらしい。
まだまだ子供の私には早いからって教えてくれないけど、私も100歳なんだけどな。
龍神王のお爺ちゃんだって、また生まれ変わった奥さんを2度ほど見つけ出して来ているのに。
だから、大人になりたくてお兄ちゃんに結婚してって言ったのだけど、盛大に噴出されて笑い飛ばされてしまった。
うう、折角勇気を出して言ったのに酷いよ。
「ほら、ちぃ、元気出せ。俺が悪かったからさ」
困り顔で言ってくるお兄ちゃんだけど、許してあげないもん。
たった30歳くらい歳上の癖にー、そんな違いないじゃんか。
「私ちぃじゃないもん。鈴華って名前がちゃんとあるもん」
「いや、ほら、俺の中ではちぃはちぃだからさ。
じゃなくて、いい加減機嫌直せって。だいたいお前まだまだ子供じゃんか」
「むきぃー! もう子供じゃないもん!」
そりゃぁ、私より後に出来た龍族の子達より成長は遅いけど、2000年たってやっと成人する龍神族の子達よりは早いもん!
私の成人のお祭りの義だって、後たった40年後だよ?
そう思うのに、私の反応に苦笑いを浮かべるお兄ちゃん。
「その反応が子供っぽいんだって」
「だってぇ! 折角婚約者なのに酷い!
ちゅーだってしてくんないしさー」
「だから、ちぃにはまだ早いって」
不満を言っても全く相手にしてくれないお兄ちゃん。
なんか、こうやって膝の上に乗せてくれているのは良いんだけど、これって昔から同じだもん。
それに、ちゅーは皆もっと小さい頃からやってるよ?
こんな年齢までちゅーすらしてないの、私くらいなのに。
友達にすらびっくりされるんだよ、龍族の人って物凄く情熱的で大変だって言ってたから。
何が大変なのかは、なんでか教えてくれないんだけど。
「そうそう、皆言ってたんだけど、大事にしすぎて逃げられないようにとか言われているだからね、お兄ちゃん。
なんか、私人気あるって聞いてるよ! 誰も告白してくんないけど。
ああ、でも私があまりにお兄ちゃんラブ過ぎて、付け入る隙がなさすぎるからって言ってたなー。
うーん、なんかよく分かんなくなってきちゃった。お兄ちゃん分かる?」
私の言葉に頭を抱えるお兄ちゃん。
この話題をすると、いっつも頭抱えるんだけど、何でだろう?
「因みに、それを言った方が良いって言ったのってお前の父か? それとも母か?」
「二人共!」
「あのバカップルめ! いい加減タガが外れ過ぎだろう!
あー、くそっ、これさえなければ最高の恩人なのに」
プルプルと震えるお兄ちゃん。
えっと、何か悪い事を言ったのかな?
そう思っていると、わしゃわしゃと頭を撫でてくれる。
それが気持ちよくて、つい表情が緩んじゃった。
「――けよ」
「うん? なーに、お兄ちゃん?」
「いや、何でもねーよ。
ほら、うりうりー」
「きゃー!」
ちょっと乱暴になって、でも決して痛くない撫で方についつい声が出ちゃう。
まぁ、今でも十分幸せだし、やっぱりもうちょっと大きくなってからで良いかも。
かれこれ100年以上の付き合いになる、最近膝の上で無邪気で残酷な事をのたまうようになった少女。
俺がどれほど我慢しているか、こいつは全く気付いて居ないに違いない。
と言うか、天使族も悪魔族も成長が遅すぎるんだよ。
龍神族より早いのは本当に救いだが、それでも人の10倍の年月がかかるとか……俺ら龍族は人の血が半分入っているせいか、寿命は天使や悪魔と差がないのに成長だけは人の倍程度と早いからな。
俺がちぃに結婚しようとか言われて、嬉しいやら恥ずかしい思いをせねばいけなかったのは、この成長の差のせいだ。
その癖、俺が丸くなったからと皆でちぃにいらん事を吹き込む始末。
多分それは、きちんと色んな知識を勉強しているのに、何故か恋愛関係だけは鈍いを通り越すちぃの反応を楽しんでいるのもあるのだろうけど。
俺がもう暴れないと知ってて、俺の反応を見て楽しむのもきっとあると睨んでいる。
流石に面と向かって言う者達は少ないけど。
折角ちぃを膝の上に乗せて幸せを満喫する予定だったのに、ついそんな野暮な事を考えてしまった。
文句を言ってても仕方ねーし、ちぃの頭でも撫でるか。
そう思って下を向いたら、同じタイミングで上を見上げたちぃ。
それが嬉しくて一瞬固まってしまったら、またとんでもない事を言い出した。
「お兄ちゃん、ねー、結婚しようよー」
「ダメだ、ちぃにはまだ早い」
即答してしまったと思う。
もう幾度となく繰り返したやり取りのせいで、反射で言い返してしまった。
予想通り頬を膨らませて機嫌を曲げてしまうちぃ。
膝の上から逃げたしたりしないから、ちぃに万が一嫌われれば発狂する自信のある俺でも余裕を持って対応できるが。
頼むから冗談でも逃げ出さないでくれよ。
「ほら、ちぃ、元気出せ。俺が悪かったからさ」
ほんの数分程度だが、相変わらず頬を膨らませるちぃの姿にそうやって白旗を上げる俺。
膨れっ面のまま見上げてくるが、それ凶悪的に可愛いだけだぞ。
どうせ無意識でやってんだろうけど、ガリガリ理性が削られるのを自覚する
「私ちぃじゃないもん。鈴華って名前がちゃんとあるもん」
お前の事を名前で呼んだら、辛うじて堪えている線が切れる自信がある。
そう思うものの、まさかそれを言う訳にはいかない。
「いや、ほら、俺の中ではちぃはちぃだからさ。
じゃなくて、いい加減機嫌直せって。だいたいお前まだまだ子供じゃんか」
「むきぃー! もう子供じゃないもん!」
感情を素直に表現するちぃ。
こう言う子供っぽい部分のお陰でまだ理性が保てている部分もある。
俺の為にも変な事は教えてませんからと、天使であるあいつの母親が言っていたが。
実は教えようとしたのだけど、ちぃの鈍さもあり、俺の反応も面白いからが真実だと思っている。
天使族ゆえ聞いたら答えてくれるだろうけど、聞いてもない事も丁寧懇切に教えようとするから聞けないけど。
「その反応が子供っぽいんだって」
「だってぇ! 折角婚約者なのに酷い!
ちゅーだってしてくんないしさー」
「だから、ちぃにはまだ早いって」
ナチュラルにとんでもない事を言うちぃに、苦笑いしか浮かんで来ない。
龍族相手にそんなセリフは危険だ。
我慢している自分を褒めてやりたい。
確かに相手が成人する前までは意地でも我慢する龍族は多いし、キスなんてしてしまったら絶対歯止めが効かなくなる事だろう。
実はそうやって恋人や婚約者がいるのに何も出来ずに嘆いている龍族は少なくない。
俺もちぃと婚約してからは、その会にお世話になっている。
友と呼べる奴らすら出来たが……、ちぃやちぃの両親には一生掛けても返しきれないほどの恩を感じている。
あまりに強い力を得たが故に、龍族どころか龍神族にすら腫れ物のように扱われていたからな。
今思えば、どれだけ子供だったんだと言う話だ。
とは言え、たった20歳の時点で並の龍神族すら圧倒してしまう力を持っていたら、普通の対応は難しいだろうと今では分かるのだけど。
「そうそう、皆言ってたんだけど、大事にしすぎて逃げられないようにとか言われているだからね、お兄ちゃん。
なんか、私人気あるって聞いてるよ! 誰も告白してくんないけど。
ああ、でも私があまりにお兄ちゃんラブ過ぎて、付け入る隙がなさすぎるからって言ってたなー。
うーん、なんかよく分かんなくなってきちゃった。お兄ちゃん分かる?」
考えを巡らせていた俺に、のんきにまた爆弾をぶつけてくるちぃ。
しかも最後に俺に聞いてくる辺り、絶対に誰かに言ってみたらと勧められたと見る。
と言うか、俺が婚約者なのに逃がす訳がないだろう。
お前に他に好きな者が出来たと聞いても、素直に聞ける自信はないくらいだぞ。
それにだ、お前が人気があるのは当然だ、あの両親の娘なんだからな。
そうでなくとも、魅力がありすぎて、仮に下界に降りたらお前の宗教が即出来るぞ。冗談抜きに。
最後に、お前が俺を好いていてくれるのは事実だろうが、間違いなく俺の愛の方が深くて重たいからな。
それを知って引かれても、返品させる気がないくらいにこじらせちゃっている自信もある。
っと、つい現実逃避をしようとしてしまったぜ。
「因みに、それを言った方が良いって言ったのってお前の父か? それとも母か?」
「二人共!」
「あのバカップルめ! いい加減タガが外れ過ぎだろう!
あー、くそっ、これさえなければ最高の恩人なのに」
あえて聞いてみれば、幾つかの予想の内にズバリヒット。
文句を言いに行っても、娘と共に貴方も幸せになってねなんて俺を泣かせに掛かる言葉を、心から言ってくるし。
何が俺に恩義を返したいだ。
俺の方があんたらに恩を貰ってばっかりだよ、畜生。
気恥かしさのあまりに、ちぃの頭を撫で付ける。
幸せそうな顔になるちぃに、今なら小声で呟けば聞かれないだろうと口から零す。
万が一聞かれたとしたら……寧ろ聞かれたいのかもな、俺は。
「結婚したら身も心も今まで以上に預けるし、俺も貰うから覚悟しとけよ」
「うん? なーに、お兄ちゃん?」
予想通り聞こえてなかったようで、安心するような残念なような。
そんな気持ちを誤魔化すため、ほんの少しだけ撫でる力を強める。
「いや、何でもねーよ。
ほら、うりうりー」
「きゃー!」
無邪気に喜ぶちぃを見つつ、いざその時になったらどんな反応をするのか僅かばかり不安が持ち上がってくる。
って言っても、こいつならあっけらかんと受け入れてくれそうな気もするし。
とにかく、今はいずれ来る未来よりこの瞬間の幸せを感じるとしよう。