4
次に目を開けたときは、病院のベットの上であった。
周りには医師と母、父が私を見つめていた。
母と父は私が目を開けたのを見て泣きながら喜んだ。
意識が完全に回復した私は、母に何が起きたのか聞いた。
安堵の溜息を吐きながら母は説明した。
あの日、私は倒れてすぐに緊急入院し、1週間も生死の境をさまよっていたのだと説明した。
1週間、私は驚きはしなかった。
虚ろな目で呆然と母を見つめた。母は笑顔で涙を流しながら私に抱きついた。
日が経ち・・・徐々に体も回復した私は、隣で林檎の皮を剥いている母に鈴正くんが今どうしているのか聞いた。
咄嗟に林檎の皮を剥く動きが止まり、母は暗い顔になった。
「鈴正くん…今ね。また病気の発作が出てきて、別の病院に入院してるの」
「大丈夫なの?また、すぐに会える?」
「すぐに会えるかは・・・わからないわ。でも…また会えるわよ」
すぐに私は、母が嘘を言っているがわかった。
嘘をつく時、母は私の顔を見て話さない。それは長年の入院生活でわかっていた。
「本当の事を教えて、お母さん」
その言葉に母は、唖然とした。戸惑いの顔を私に見せ、私は母を見つめ続けた。
母は顔を一瞬伏せ、平気な顔をしながらも涙目で話した。
「ごめんね。お母さん、嘘が下手で…」
「本当の事を言うね。守は強い子だから、きっと受け止められるよね」
「鈴正くんね。亡くなったの。守が倒れてから、すぐに鈴正くんも発作を起こして倒れたの」
信じられなかった。だが、軍曹の言葉が頭を過ぎった。
(鈴正は自分を犠牲にして、君を助けるように言った。)
私の目から一筋の涙が流れでた。鈴正くんは、私の命を助ける為に自分の命を犠牲にした。
私を助けてくれた。涙が止まらない。
散々、あの世の狭間や地獄で一生分の涙を流したはずなのに止まらない。
目を見開き、無表情で涙を流す私を母は優しく抱き寄せて背中を摩った。
一時期は何時死んでも可笑しくはなかった私の体は、普通の人と同じ様に暮らせるレベルに回復していた。
そして、私は鈴正くんの墓石の前に立っている。
「鈴正くん。ありがとう、助けてくれて」
「鈴正くんが言っていた軍曹さん。私にも見えたよ」
私は墓石の前に置かれた鈴正くんの写真を見ながら手を合わせた。
涼しい風が吹き抜け、母が私を呼んだ。
「バイバイ、鈴正くん。また、くるからね」
「行こう、軍曹さん」
母の近くにより、私は母の手を握った。
「鈴正くんと何を話したの?」
「ないしょ」
「あら、その年で親に隠し事するの?生意気ねぇ」
「そんな、生意気な子には3時のおやつは抜きにしようかな~」
「えぇー」
「うそうそ、早く帰って二人でプリン食べよ」
母が私を見つめながら微笑み、私も母を見つめながら微笑んだ。
そして私は、もう一人の手をつないでいる人物にも微笑みを見せた。
黒い軍服を纏い、ヘルメットを被り、赤いレンズが特徴のガスマスクをした。
軍曹さんに…。
夕日に照らされながら、私達3人は家に向かって歩いていった。
それから5年の歳月が過ぎ、私は高校生になった。
地元の安国高校に入学した私は彼らに出会った。
共に笑い、共に悲しみ、共に助け合った。大切な仲間達に…
そして、その仲間達と共に私はあの日を迎える事になるのだ。
あの惨劇の日に…。




