仮谷詩織
俺は2年A組で、彼女とは別のクラスだが顔は知っている。なんせ端正な顔立ち、スレンダーな体型、成績もそこそこ優秀で、運動もできる。男子からの人気も高い。しかし、同性友達は多いのに男性は一切寄せ付けない。まさに高嶺の花と呼ぶにふさわしい女性だ。
「ごっ、ごめんなさい!じ、実は俺も傘盗まれたっぽくてつい…」
俊はビクビクしながらそう言って、彼女の所まで駆け寄り傘を返した。
「え?なんで…?」
なぜか彼女は、驚いた表情でこうつぶやいた。
当然、俺も自然にえっ?という表情になる。
しばらく2人の間に沈黙が続く。彼女はなにか考えているようだ。
「ねぇ、あんた私と同じ草宮高校よね。ウチの学校の図書室で見たことあるし。」
「うん。まあ同じ学校に通っているけど。」
「そう…。」
そして再び沈黙が続く。またなにか考えているみたいだ。
「しょうがないわね。傘一緒に入ってもいいわよ。家どっち方向?」
「ええっ!?いや、べ、別に大丈夫だから。」
「大丈夫なわけないじゃん。あんた傘持ってないんだし。で、家どっち?」
「あ、あっちです。てかホ、ホント傘盗ろうとしてゴメン!」
彼女と話してるだけで緊張するのに、罪意識で余計緊張する。
「私も家あっち方向なんだ。じゃ、男のあんたが傘持ってね。あと、できるだけ私が濡れないように!」
「は、はい…。」
まさかあの仮谷詩織と相合い傘できるなんて…。今日の俺は最高にツイてる!自転車は置いていくことになるけど明日取りにくればいいや。そんなことを思いながら俊は小さくガッツポーズした。