彼女との出会い
その日は朝から厚い雲が空を覆っていた。
そういえば、朝の天気予報では夕方から雨が降るって言ってたっけか。そんなことを思いながら、相馬俊《そうましゅん》は学校から家に帰宅していた。
時刻は午後4時20分。通学かばんから鍵を取り出し、閉まっている玄関の鍵を開ける。親は共働きなのでこの時間はまだ家に帰ってきていない。
自分の部屋に行き、通学かばんを置いたとき、ふと机の上に目がいった。
そこには1冊の本が置いてある。
「やばっ!図書館で借りた本返すの忘れてた!しかも返却日今日までじゃん!」
図書館の閉館時間は午後5時。現在午後4時35分。
しかも家から図書館まで3キロ程ある。歩きでは到底間に合わない。
しかし、外は今にも降ってきそうな曇り空。絶対雨が降らないとは言い切れない。
迷っていても時間は刻一刻と過ぎていく。仕方がないので、傘を持って自転車で行くことにした。
とにかく、閉館までに本を返しに行くのが最優先だ。俊は自転車にまたがり、図書館を目指して全速力でペダルをこいだ。
なんとか閉館時間までに間に合い、俊は本を返却して図書館を出る。すると、ポツポツと雨が降り出してきた。
本降りになる前に急いで帰らないと。俊がそう思ったのも束の間、雨は次第に強くなっていった。
「しょうがない…。自転車に乗りながら傘さして帰るか。」
そうブツブツ文句を垂れながら傘差しの方を見る。
しかし差しておいたはずの俊の傘がそこにはなく、他人の傘が1本だけしかなかった。
「あれっ!?俺の傘なくなってんじゃん!マジかよ…。」
俊はあきれながらそう言う。茫然ととしていても仕方ないので、俊は次の対策を考えていた。
濡れるの覚悟で自転車で帰るか。でもこの雨の強さで3キロの道のりはかなりキツイな。
途中のコンビニで傘を買うか。あそこまでだいたい1キロくらいだからそこまでは自転車で帰るか。
そんなことを考えていると、ふと先程の傘立てに目がいった。
しょうがない…。誰の傘か知らないけどこの傘を使っちゃおう。そう思い、俊はその傘を取る。
俊が傘を開いた瞬間、
「ねぇ!それ、私の傘なんだけど!!」
俊はビクッとしておそるおそる後ろを振り返った。するとそこには俊と同じ学校で2年B組の仮谷詩織《かりやしおり》が鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
俺は2年A組で、彼女とは別のクラスだが顔は知っている。なんせ端正な顔立ち、スレンダーな体型、成績もそこそこ優秀で、運動もできる。男子からの人気も高い。しかし、同性友達は多いのに男性は一切寄せ付けない。まさに高嶺の花と呼ぶにふさわしい女性だ。
「ごっ、ごめんなさい!じ、実は俺も傘盗まれたっぽくてつい…」
俊はビクビクしながらそう言って、彼女の所まで駆け寄り傘を返した。
「え?なんで…?」
なぜか彼女は、驚いた表情でこうつぶやいた。
当然、俺も自然にえっ?という表情になる。
しばらく2人の間に沈黙が続く。彼女はなにか考えているようだ。
「ねぇ、あんた私と同じ草宮高校よね。ウチの学校の図書室で見たことあるし。」
「うん。まあ同じ学校に通っているけど。」
「そう…。」
そして再び沈黙が続く。またなにか考えているみたいだ。
「しょうがないわね。傘一緒に入ってもいいわよ。家どっち方向?」
「ええっ!?いや、べ、別に大丈夫だから。」
「大丈夫なわけないじゃん。あんた傘持ってないんだし。で、家どっち?」
「あ、あっちです。てかホ、ホント傘盗ろうとしてゴメン!」
彼女と話してるだけで緊張するのに、罪意識で余計緊張する。
「私も家あっち方向なんだ。じゃ、男のあんたが傘持ってね。あと、できるだけ私が濡れないように!」
「は、はい…。」
まさかあの仮谷詩織と相合い傘できるなんて…。今日の俺は最高にツイてる!自転車は置いていくことになるけど明日取りにくればいいや。そんなことを思いながら俊は小さくガッツポーズした。