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一等星が消える夜~北海道上山村美蔵井地区・留守番バイトの末路~  作者: 暁 美雲(あかつき・みくも)


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7/10

07.


「一体どこに行ってたんだ! ここで大人しく待っててって言ったじゃないか!」

「すっ、すみませーーん」


と平謝りしたのは僕だけだ。

山道を走り、息も切れ切れで頭を下げる僕。

それに対して涼しい顔の隼人は、買ってきたビールをウキウキと冷蔵庫に仕舞っている。


「まったく。この後は勝手に出歩かないこと!」

「はい」


昼前と言うにはまだ早いんだから少しくらい出掛けてもいいじゃないか云々……という不満はバイトの立場で言えるわけがない。

「ああもう」と苛立ったような焦ったような顔をする山根さんは、後ろにいる男性から奪い取るようにして1枚の紙を手に取り、僕に渡す。


「これ、今日の流れを書いてあるから。これに従って行動すること。いいね?」

「はい」

「本当に頼むよ!」

「はい!」

「まずは、昼食はとった?」

「まだです」

「きちんと食べて。終わるまで食べられないから」

「はあ」


終わるまでって、バイトが終わるまで? 一体何時なんだろう。


「食べたら、次は禊。お風呂入って体を綺麗にして」

「えっ……み……そぎ……?」

「そうだよ。お祭りの前の儀式みたいなものだから、必ず。いいね?」

「はい……」


別に祭りに参加するわけでもなく、この家で留守番するだけなのに、禊なんてするの? 

僕が首を傾げる中、山根さんの説明は続く。


「そうしたら、これに着替えて」


そう言って、白装束が渡される。


「はあ」

「次に御神酒を飲んで」


すると山根さんの後ろにいる男性が、食卓の上にひょうたん型の白い徳利をゴトンと置く。


「あの僕、酒飲めないんですけど」

「えーっ! 20歳以上限定で募集したのに!」

「いや、年は20歳以上ですけど……僕、下戸なんです」

「そうなの!? えっと……どうしよう……風見君、どうする?」


そう言って、山根さんは僕をチラチラと見ながら、後ろにいる風見という男性とコソコソ何か相談している様子だ。そしてまもなく相談を終える。


「君には別のものを用意するから、それを飲んで! 儀式の一環だから、必ず飲んで!」

「は、はい!」


山根さんの鬼気迫るような勢いに押された僕は、キツツキにでもなったみたいに何度も頷きを返す。

御神酒ってそんなにも飲まなくちゃいけないものなの? 

困惑する中、山根さんの説明がさらに続く。


「そうしたら、夜になると子どもたちと一緒に大層偉い御方がここを訪ねる。その御方を玄関でお出迎えして。18時には玄関で正座して待ってること」


お出迎え。いよいよ留守番バイトらしくなってきた。そして来客対応ということだろう。


「はい」

「それで、『ローソク出ーせー、出ーせーよ』って言われたら、ローソクを渡して。はいこれ。君たちの分。一人1本ずつね」


そう言って、山根さんは20センチほどの長さのローソクを2本、僕に手渡す。


「えっ……お菓子じゃなくて、ローソクを渡すんですか?」

「そうだよ。だって、『ローソク出せ』って言ってるんだから、そのままだろう」


ちょっと苛立ったように言う山根さんに気圧され、僕は苦笑いしながら半歩後ずさりする。

おかしいな……ネットの記事では本当にローソクを渡すと、子どもたちに「空気読めよ」と不満タラタラな顔をされる、と見かけたのに。


「わ、わかりました。あの……大層偉い御方っていうのは、どういう……?」

「大層偉い御方は大層偉い御方だよ。いいかい、その御方の姿を絶対に見てはいけないよ。不敬に当たるからね。ずっと頭を下げていること」


何だか時代劇でお殿様に頭を下げる民衆のようだ。

「苦しゅうない。面を上げい」って言われるまで頭を下げ続ける、みたいな? 

見たらどうなるのかな。斬り殺される? そんなわけないか。

クスッと笑って顔を上げると、山根さんと風見さんがギロリと僕を睨んでいた。ヤバっ。


「頼むから真剣にやってよ!」

「はい! すみません!」

「まったく……。あとは、ここから出ずに居てくれればいい」

「えっ、やることってそれだけですか?」

「そうだよ」


禊と白装束と御神酒は予想外でびっくりしたけど、本当に破格のバイトだ。

すると山根さんが怖ず怖ずと隼人を見る。


「君は……もしよかったら山を下りるかい?」


それは希望を聞いているというより、さも「山を下りてよ」と遠回しに指示されているかのようだ。


「雪一人を置いては行けませんよ。下りるなら雪も一緒に――」

「そっ、それは困――……そ、そうだよねー。よし、じゃあ……禊はしっかり。御神酒も多めに飲んで」

「は?」


何だろう、留守番バイトはやっぱり僕一人の方がよかったってことなのかな……。

こうして説明を終えると、山根さんは「また後で来るから」と言って去って行った。


「隼人、なんかごめんね……」

「雪が謝ることなんてないだろ。それに、あんなふうに言われると余計に雪を一人にはできないよな」

「隼人……」


すると隼人が僕の肩をバシバシと叩いて、爽やかな笑みを浮かべる。


「一緒にいるから心配すんな」

「う、うん」


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