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一等星が消える夜~北海道上山村美蔵井地区・留守番バイトの末路~  作者: 暁 美雲(あかつき・みくも)


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6/8

06.


その店・矢野商店は、田んぼだらけの通り沿いにひっそりと佇んでいた。

変色していて古めかしい『たばこ』や『酒』の看板が出ていて、壁には伸びた植物の蔓がはびこる。

こぢんまりとした古い建物だ。


「ちわっす」


相変わらず軽いノリで迷いなく店に入る隼人。『頭のイッちまった気味悪い婆さん』ということも、隼人には関係ない様子だ。

薄暗い店内は、商品が棚に所狭しと並べられていて、乱雑という言葉がぴったり。

そして猫を膝に乗せる80歳くらいのお婆さんが一人、古めかしい揺り椅子に座って僕たちを見ていた。


「何の用だい?」


店を開いておいて、そのセリフはいかがなものかと思うよ。

僕のそんな戸惑いは、根明な隼人には皆無らしい。


「なあ、ビール売ってる?」

「いつ仕入れたかわからないものなら売ってるよ」


だからね、店を開いておいて、そのセリフはいかがなものかと思うよ。

でも隼人は「ラッキー」とビールを物色し始める。

すごいよ隼人、君の明るさと素直さには脱帽だ。


「おっ、全然期限内じゃん。しかも北海道限定のやつ! 買ってこう。ばあちゃん、この瓶のやつ1本いくら?」

「5万円」

「マジか! 俺、学生でそんな金持ってないからさ、500円くらいにまけてくれない?」

「しょうがないね。420円にまけてやるよ」

「ばあちゃん優しい。ありがとうな」


違うよ隼人。たぶんそれ、最初から420円なんだって。

でも隼人という人は、それをわかっていても同じ応対をするのだろう。

お人好しな隼人もかっこいい。


「あんたら、内地の人かい?」


探るような目で見るお婆さんが怖くて、僕は隼人の影に隠れる。

お婆さんと話すのは、隼人の方が相性が良さそうだ。


「内地って何?」

「めんどくさいねぇ。北海道の外から来たのかいって聞いてんだよ」

「そう、東京から来た」

「内地の人が、こんなところに何の用があってきたんだい?」

「うーん……安住の地を維持するため?」

「安住の地だって? そんなものはありゃしないよ。いつかは壊れるもんさ」


ヒッヒッヒッヒ、と悪そうな魔女みたいに笑うお婆さんが怖くて、僕はブルッと背筋を震わせる。

顔を見ているだけで怖い。

相手をするのは隼人に任せて、僕は店内を見回ってみることにした。

見知った男児向けキャラのウエハースチョコや女児向けキャラの棒付きチョコに混じって、見たことのないものも売っていた。カステラとかきびだんごとかグルグル渦巻いたかりんとうとか、レトロなパッケージのお菓子がある。


(何これ、買ってみようかな。賞味期限は……ああ、大丈――)

「ちょっとアンタ、盗んだら承知しないからね!」


僕はビクッと肩を跳ね上げる。


「ち、違っ……」


見ていただけなのに怒られるって、何なのこの店。


「あんたは一癖ありそうだからね。悪巧みするタイプだろうよ」

「そ、そんなことは……」

「欲張って後悔したって知らないよ」


見透かすような目で僕を見て、ヒヒッと笑うお婆さんにドキッと心臓が跳ねる。

隼人に嘘をついて連れてきたこの旅。全くもって否定できない。


「隼人、僕ちょっと外に出てる」

「おお、わかった」


居心地の悪さから店内を飛び出し、ほっと胸を撫で下ろす。

何だか息の詰まるような店内だった。


気を取り直して、僕は店の前を走る道路沿いまで足を進める。

見渡すと、道路の向こうに小さな古い道案内板が出ていた。

左矢印の上には『美蔵井(みくらい)』と書かれていて、そして、右矢印の上には――


「『蔵泉(くらすみ)』……?」


右へ向かうとその蔵泉地区という場所に着くらしい。

そこで僕は考える。

美蔵井の神社は住民以外は立ち入り禁止だと言われたから、恐らく祭りのことも詳しく調査をさせてもらえないだろう。

それならば隣の蔵泉を調査対象にすればいいのかも。

そして隼人と思い出作りだ。

我ながらいい考えじゃないか。



「雪、終わったぞ」


しばらくすると、隼人が店から出てきた。

手に持つビニール袋には、大きめのビール瓶二本と――


「これ、気にしてたみたいだから」


さっき僕が見ていて怒られた、カステラときびだんごとグルグル渦のかりんとうだ。ついでに男児向けキャラのウエハースや女児向けキャラの棒付きチョコも入っている。


「隼人、僕のために買ってくれたの?」

「ああ」


優しい笑みを浮かべる隼人。

あぁぁぁ、隼人のこういうところが――


「好きぃぃぃ……」


ハッと我に返る。

今、もしかしなくとも声に出して……。

ヤバイ、ヤバい、ヤバーーい!


「いっ、いいい今のは……」

「そうか、雪はそんなにそれが好きなのか」


そう言って隼人がまじまじと見つめるのは、僕が手にする女児向けキャラの棒付きチョコだ。


「あ……えーっと……」

「漫画やアニメが好きなのは知ってたけど、そういうのも守備範囲なんだな。覚えておくよ」

「あ……うん」


僕の複雑な気持ちが安易にバレなくてよかったけど、女児向けキャラが好きだと誤解された僕は、はたして痛手を負っていないのだろうか……。



「よし、戻るか」


自分の分のつまみもいくつか購入したらしい隼人は満足げだ。


「ねえ隼人、この先に蔵泉(くらすみ)っていう地区があるらしいよ。美蔵井の神社はダメって言われたし、バイト終わったらそっちで調査しようか?」

「ああ……それ、もう無いらしいぞ」

「えっ、無いって何!?」

「廃村……いや、廃地区って言うのか? そうらしい」

「えっ、どこからそんな話を聞いたの?」

「さっきの婆さん。民俗学の研究に来たって言ったら、話し始めた」


出た、コミュ力おばけ。あの怖いお婆さんから話まで聞き出してきたんだ。


「でも信憑性に欠けるんじゃない? 頭イッてるお婆さんなんでしょ?」

「まあ確かにおかしな話はしてたけど、頭はしっかりしてると思うぜ」

「どうして?」

「ほら、見てみろ。1万円を出して、電卓も使わずに釣りをくれたからな」


そう言って、隼人はポケットを探ってお札と小銭を見せる。

8,525円。購入点数を考えても、確かに電卓なしで計算したならキレッキレの頭だ。

でも適当かもしれないし……なんて、心の綺麗な隼人は思わないのだろう。


「そっか……。それで、おかしな話ってどんな――」


すると僕のポケットの中でスマホが震動する。


「あっ、ヤバッ……山根さんだ」

「早く戻ろうぜ」


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