04.
8月7日――
「暑っ……北海道の夏も結構暑いんだね」
昨日の曇り空とは打って変わって快晴。日差しが僕の白い肌をジリジリと焦がすかのようだ。
「だな。でもムシムシしてなくて俺は好きだぜ。あー、腹減った」
移動販売車が来るという広場へ向かう最中、気怠げな僕の隣を歩く隼人は朝から朗らかだ。
太陽と同じくらい眩しくて、隼人を見るだけで目がしょぼしょぼする。
あまり眠れなかった僕に対し、隼人はぐっすり眠れた模様。
ビビリな僕には、その肝の据わり方が羨ましい。
かっこいいな……。
「雪、食料調達したら、飯食って調査に行くか?」
「うん、そうだね。調査する場所は……」
と今日の予定をあれこれ考えていると、広場に止まる移動販売車が見えてきた。
すでに住民たちの列ができている。
車の側面には『カワイイマルシェ』と書かれていて、野菜や果物のかわいいイラストが見える。
そのわりに店番をする中年男性が強面の厳つい体型で、かわいらしさとは真逆なのがツボだ。
「おはようございます」
最後尾に並んでいる夫婦とみられる年配の男女に声をかけると、二人揃って振り返る。旦那さんの帽子には『日野林業(株)』と見える。
「おはよう。おや、あんたたち見かけない顔だね」
奥さんは覗き込むように僕たちを見る。訝しげな表情だ。
「ああ……僕たち、東京から来ているので」
「東京? 珍しいね。観光にでも来たのかい? だったらさっさと帰ったほうがいいよ。今夜は――」
すると「おい久子!」と隣にいる旦那さんが慌てた様子で止める。
「余計なことを言うんじゃない。その人たちは、土の家の……」
と、僕たちをチラチラ見ながら言う旦那さん。
声を潜めてはいるけれど、残念ながら聞こえている。
ところで、余計なことって何だろう。それに土の家って……。
すると久子さんがハッとした様子で僕たちに笑みを向ける。
「や、やだねぇ、こういう狭い場所だから、余所から来た人のことを変に警戒しちゃうのよ。ごめんね」
手をヒラヒラさせながら久子さんはウフフと笑う。ずいぶん引きつった顔だ。
「あの、ところで『土の家』って、土壁の古い家のことですか? 住人の方は遠くへ旅に行かれたとか」
僕がそう言うと、久子さんも旦那さんも、さらに引きつった笑みを浮かべる。
「そっ、そうそう、遠くに……ね」
「そうだな。遠いな」
ハハハッ、と乾いた笑いを浮かべる二人。何かおかしな空気だ。
するとキャッキャと騒ぐ子どもたちの声と共に、隼人が「おっと」と声を上げる。
見ると、小学校低学年くらいの女の子が隼人の足にぶつかった様子だ。
「ご、ごめんなさい……」
女の子は眉尻を下げ、今にも泣き出しそうな顔で肩を縮こませている。
怒られると思っているのだろうか。
でも相手は隼人。そんな心配はないよと言ってあげたい。
「大丈夫か? 怪我はしていないか?」
しゃがんで女の子の心配をする隼人は、陽だまりのような温かな笑みを浮かべている。
女の子もパッと顔を綻ばせた。
「うん。ぶつかってごめんなさい」
「平気だ。気をつけろよ」
「うん!」
バイバイ、と隼人が爽やかな笑顔で手を振って女の子を見送る。
何とも微笑ましい光景に、僕の頬が緩む。
さすが隼人、子どもにも優しい。
「隼人は大丈夫?」
「おお。俺は頑丈だからな」
確かに腕なんて鉄柱みたいに硬そうだ。
すると、僕のすぐそばを子どもたちが走り抜ける。
そして何気なく辺りを見回して気づく。
「美蔵井って、ずいぶん子どもが多いんですね」
田舎というと、高齢化が進んで過疎化するイメージだが……広場だけでも20人くらい子どもがいる。
「そうなのよ。ここは『子どもたちがスクスク育つ場所』だからね」
そういえば、バス停すぐの田んぼにそんな看板があった。
「美蔵井は、世帯数はどのくらいなんですか?」
「10世帯だよ」
10しかない、と言うべきか、こんな山奥に10もあるんだ、と言うべきか。
「へーえー、それなのに子どもがこんなに……」
「今ここに来ていない子もいるから、もうちょっと多いよ」
「えーっ! それはまたずいぶん……。あの、『子どもたちがスクスク育つ』と言われる所以はどういうところなのでしょう?」
早速、活動実績記録用のネタになるか!?
「あー……そうね……ここの守り神様が、子ども好きだから……かね」
「子ども好き? 子宝とか子授かりとかではなくてですか?」
すると久子さんがキョロリと視線を上に向け、アハハと笑う。
「あら、どうだったかしら? ねえあなた」
「さあ、俺は知らねぇな」
何だか様子が変な気が……。
「あっ、移動販売、私たちの番だから失礼するわね。あら、おはよう川合さん。今日はまた一段といいものが揃ってるわね――」
日野さんご夫婦は、まるで逃げるかのように移動販売車へ向かい、厳つい店主と話し始めた。
すると隼人がプッと笑う。
「『カワイイマルシェ』ってそういう……」
「『カワイさんのイイもの揃えたマルシェ』っていう意味だろうね」
隼人も『かわいい』だと思っていたらしい。
「ギャップ萌え狙いかと……」
「隼人笑いすぎ。失礼じゃないか」
そういう僕も、頬が緩んでいるのだが。
それにしても――
「子ども好きの神様、か。万灯御霊供養祭にも関わりそうだし……隼人、あとで神社を見に行こうよ」
「おお、いいぜ」




