14.
(……あれ? 僕は……何して……)
「ああやっぱり」
「土砂崩れの原因はこれですね」
山根さんと風見さんの声?
ゆっくりと目を開けると、霞がかかったようなモノクロの視界に映るのは、山根さんと風見さんのつむじ。
そして玄関の土間に無造作に転がるスマホ。ヴェルテクスG3号機のカバーが掛かっていて、僕のと隼人のと、二つ見える。
高いところから見ている景色なのが、どこか不思議だ。
「あーあ、若者定住作戦、失敗ってことか」
「のようですね」
「あわよくば子孫を残してくれれば土の家も安泰だし、いい考えだと思ったんだけどな」
「やはりバイトではダメですかね」
風見さんの言葉に、山根さんはハハッと軽い調子で笑う。
「ダメかもね。移住者を探せれば一番だけど……なかなかね」
「まあ難しいですよね。早いうちに来年に向けて手を打ちましょう」
「ああ。まずは土砂崩れへの対応からだね」
「そうですね」
何の憂いも滲まない二人の表情に、不信感ばかりが募っていく。
(ねえ待ってよ、隼人は? 隼人はどこにいるの?)
そう声を上げても、二人は何の反応も示さない。二人に僕の声は届いていない様子だ。
そしてなおも二人の会話が聞こえてくる。
「土砂崩れのおかげで、彼らの姿が見えないことも誤魔化せて丁度いいですね」
「そうだね。土砂に埋もれて行方不明、ってことで片付けられる。僕はね、ちゃんと彼らに『頼むから真剣にやってよ』って忠告したんだよ?」
「山根さんは最善を尽くしたと思いますよ」
「だよね? 僕、悪くないよね?」
「ええ」
(何だよそれ! 忠告? 最善? ふざけるな!)
すると懐を探った風見さんが、取り出したハンカチ越しに二つのスマホを拾い上げる。
「早いうちにスマホを土砂に埋めておきますか」
「そうだね」
そう言って、二人は玄関を出て行く。
(えっ? 何言ってるの? 待ってよ! それ返して!)
追いかけたいのに、僕は透明な壁に阻まれて玄関の先へは出られなかった。
「あーあ、来年もバイトになるようなら、募集人数は一人って書かないとな」
「友達なんて連れてこられたら面倒ですからね」
「なんかさ、もう少し効率よく土の守人を探せないものかね」
「うーん、それはなかなか――。――、――」
(ねえ! 誰か! 誰か助けて!)
――ガチャン。
鍵の開く音?
ぼんやりと目を開くと、玄関ドアから人が入ってくる。
僕は……あれ?
僕は、何をしている……?
「中にあるものは自由に使ってもらって構わないよ」
「ありがとうございます」
男性二人の声。
片方は……知っている声?
よくわからない。
「山根さん、コンビニってどこですか?」
「やだなぁ、土岐君。そんなの、こんな辺鄙な場所にあると思う?」
「えー、ないんですか?」
「残念ながら無いよ」
「一番近い店ってどこです?」
「今来た山道を下りたところに、商店が一軒あるよ。でも16時で閉まる」
……何だろう。
似たような会話をどこかで聞いた気がするのに……頭の中に霞がかかったかのように思い出せない。
「さて、移動で疲れているだろう? 今夜はとりあえずここでゆっくりして。明日のバイトのことは、また明日説明するね」
バイト。
何だったっけ……。
知っている気がするのに、思い出せない。
でも僕はもう、陰らせたくはない。
『君』は『一等星』だから……。
……君? 誰?
よくわからない。
でも一つだけわかる。
(土岐君……だっけ? ねえ逃げて! ここは危ないから、早く逃げて!)
必死に声を張り上げても、土岐君は無反応。
ダメだ、彼には僕の声が聞こえていないみたいだ。
でも知らせなくちゃ。
何とかして知らせなくちゃ。
僕は宙を泳ぐようにして床に下りる。
そして、強く、強く、床を踏みしめる。
鳴らせ、鳴らせ!
ダメだ、もっと強く、強く、強く、強く!
――キシッ。
〈一等星が消える夜~北海道上山村美蔵井地区・留守番バイトの末路~ 了〉
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