12.
僕はふらつく足に鞭打って、壁を這うように居間へ向かう。
そして隼人のスマホを握りしめ、彼の元へと戻った。
「ごめん、隼人……指、貸して」
スマホのロックを外すと、暗闇の中で液晶の白い光が僕の目に容赦なく突き刺さる。
目を細めながら画面を見ると、まさにその古い地図が目に映った。
「何だ……これ……」
僕は震える手で、地図を画面いっぱいに広げた。
「神山……? 祟り神……飴……呑み?」
喉がヒュッと狭まった。
子どもたちが呼んだ『アメノミ様』。地図に書かれた『飴呑み』。
『村半分の大人たちを喰らったらしいぜ。飴食うみたいに丸ごとパクッといって、ちょっと味わったら丸飲みだってよ』
飴を食べるように人を喰らう化け物。
(まさかさっきのが……それ?)
僕はゴクリと唾を飲み込むと、自分の予想が外れることを願いながら再び古い地図に目を凝らす。
(あらまし……だから、地図って言うより計画書みたいなもの? 神山……未喰ライ集落……喰ライ済消滅集落……未喰ライ……えっ? みくらい……?)
頭の中で音が重なっていく。
(それなら喰ライ済消滅集落は……くらいずみ……くら……すみ……!?)
赤い×印が付いた喰ライ済消滅集落が蔵泉地区だとしたら、まさかここは……美蔵井は――
(未喰ライ……まだ喰われていない……これから喰われる場所……?)
ブルッと背筋に寒気が走り、心臓が聞いたこともないほど爆音を鳴らす。
拍動と共に揺れる視界には、未喰ライ集落に描かれた10個の奇妙な紋章のようなものが見える。
(あれ……? 10? 10……!)
『10世帯だよ』という久子さんの言葉が脳内を占拠するように重く響き渡る。
そして地図の左上に書かれた文字を順に辿る。
(雨、日、気、生、風、土……山、川、石、木?)
ドクン、ドクン、と拍動を重ねるたび、僕の中で一つ一つパズルが組み上がっていく。
『祟り神が愛した自然物をもって守人を定め――』
10個とも自然界にあるものだ。
そして――
『その人たちは、土の家の……』
久子さんの旦那さんが僕たちを見てそう言っていた。
(僕たちがいたのは土の家ってことだ。じゃあほかは、雨の家……日の家ってこと……?)
次第に古い地図の上をたどる僕の指がワナワナと震える。
か細い記憶の糸が太さを増していった。
だって気づいてしまったんだ。
さくらちゃんは『雨』宮、久子さんたちご夫婦は『日』野、そして僕は『土』井。
(もしかして、名字が関係してる? えっ、まさかそんな……あっ、でも『山』根さん、『風』見さん……もしかして移動販売車のおじさんも美蔵井の住人? カワイ……『川』合?)
もし仮にそうなのだとしたら、僕たちがここでしてることって……
「やっぱり留守番なんかじゃない。僕たちは――」
僕は地図の左上に書かれた文字を指さす。
「――『守人』ってこと?」
祟り神を祀り、御霊を供養する守人。
そうなることで、この地の人たちは祟り神に喰われずに生きてきたのだとしたら……。
「なんで僕たちがこんなことに巻き込まれて――……えっ? まっ、待って……」
血の凍るような戦慄が走った。
『僕たち』じゃない。
もしもそうだとしたら一人だけ……一人だけ、明らかにこの『守人』から外れる人物がいる。
「本上……隼人……!」




