表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一等星が消える夜~北海道上山村美蔵井地区・留守番バイトの末路~  作者: 暁 美雲(あかつき・みくも)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/14

10.


「俺もわけわかんなくて全部覚えてるわけではないんだけどな、あの婆さんが言うにはさ――」


隼人はお婆さんに、なぜ人の少ないところで店をやっているのか聞いたらしい。

すると美蔵井の隣に並ぶ山を指差し、「故郷をなるべく離れたくないのさ」と答えたようだ。

そこが蔵泉らしい。

そして蔵泉には古くからの伝承があり、それを後世に伝える役割を担っているのだという。


――いにしえの昔、山の神に捧げられた人柱がいた。

それはまだ幼い男児で、身寄りの無かったその少年は、村の大人たちに唆され、山の中に独り取り残されたのだった。

命が尽き、身が朽ち果てても彼のそばには誰もおらず、彼と最期まで共にあったのは、多くの自然物だけ。

彼を照らし、潤し、慰め、身を包んだそれらを、彼は愛し、自らを溶け込ませた。

そして人への憎しみを湛えて生まれた祟り神は――


「命の尽きた8月7日に毎年姿を現し、村人に厄災を与えた」

「やっ、厄災って?」

「洪水、山火事、土砂崩れに、不作とか、いろいろだってよ。で、村半分の大人たちを喰らったらしいぜ。飴食うみたいに丸ごとパクッといって、ちょっと味わったら丸飲みだってよ」

「ひぃッ、待って何それストップ! 飴食べるならかわいいけど、食べるのって人でしょ!? 人を丸飲みって……無理無理無~理~!」


涙目で耳を塞ぐ僕を、隼人はニシシと白い歯を見せて笑う。


「あとちょっとで終わるって。それで――」


あまりに強大な力を持つ祟り神だったため、多くの巫覡(ふげき)が集められ、祈祷が行われた。

その結果、神降ろしに成功し、その神意が伝えられた。


(われ)()く者無ければ見過ぐさん』


そこで巫覡たちは御霊慰めの儀式を執り行った。

御霊を鎮めるために、祟り神が愛した自然物をもって守人(もりと)を定め、8月7日の夜だけは、村に下りて自由に過ごせるよう約束を交わした。


「その祟り神は大人が介入することは酷く嫌ったらしくてな。大人には、当時貴重だったローソクを用意させて、自由に遊ぶ子どもたちの足元を照らさせたんだってよ。大人は一切邪魔をせずにただ見守るだけ。何かすれば喰われる。子どもには手を出さない祟り神らしくて、婆さんはその時生き残った蔵泉の子どもの子孫なんだってよ」

「えぇぇ!? ねえ、それって本当の話? しかも8月7日って今日じゃないか! ローソク!?」

「ちょうどさっき貰ったな」


ハハハッと隼人が呑気に笑う中、僕は山根さんから貰った2本のローソクを怖ず怖ずと見つめる。

蔵泉の話だとは言っても、同じローソクが登場するというのは何とも不気味だ。


「で、でもさ、その祟り神ってどこに行ったわけ? 蔵泉は廃地区になったくらいだから、もう祟る対象がいないことになるじゃないか」

「いや、それがさ、蔵泉は村の一部でしかないらしいんだ。ああそうだ、婆さんが古い地図を出してきて……ほら、これ見てみろよ」


と、隼人が僕にスマホを見せてくれようとしたその時、玄関ドアを叩く音が聞こえる。


「おーい、準備できてる?」


山根さんの声だ。

招き入れると、僕たちと同じ白装束姿の山根さんは、食卓上の徳利を二つ手にして残量を確認する。


「全部飲んだみたいだね」

「はい」


と堂々と返事をした僕は、徳利の三分の一くらいしか甘酒を口にしていない。

あとは隼人に飲んでもらったのだが、それは秘密だ。

それから僕たちは山根さんが指示するとおり、ローソクを準備して玄関で座って待つことになった。

すると山根さんが隼人をじっと見つめて徐ろに話し始める。


「禊もしたみたいだし、御神酒も飲んだし、まあ……君も似たようなものだから平気だと思うよ。『本城』君でしょ? 本に『城』。それか、广(まだれ)の『庄』で『本庄』かな?」

「いいえ。本に『上』で本上っす」

「えぇぇっ!?」


途端に山根さんは額に汗を浮かべて何かをブツブツ言い始めた。

すると玄関先から風見さんが「山根さん、そろそろ時間ですよ」と呼ぶ声が聞こえた。


「ほ、本上君は……とにかく大人しく! 大人しくしてて。それと、帰りも大層偉い御方が通るから、そのまま玄関で正座して待機してること。いいね?」


それだけ言い放って、山根さんは早足で去って行った。

隼人と僕は顔を見合わせる。


「何だろう?」

「さあな。とりあえず、バイトはバイトの役割を果たさないとな」

「そうだね。……あ、そうだ! お菓子も玄関に置いておこうっと。子どもたちに、ローソクと一緒に渡すんだ」


不審に思いつつも準備を整えると、僕たちは玄関で『大層偉い御方』を待ち続ける。

このバイトが終わったら、隼人と星空を見に行こう。

幸い今夜は晴れ。

絶好の星見日和だ。


それから10分ほど経った頃だ。


「あー……眠っ……」


隼人が眠気を訴え始めた。


「酒飲みすぎだろ」

「かもな」


そうは言ったものの、隼人って酔って眠くなることなんてあったっけ? 

それから誰も来ないまま、さらに5分ほど経った頃だろうか、僕もだんだん頭がぼんやりしてきた。

ちょっと眠くて目を擦る。


「あー、暇すぎて僕も眠く――……隼人?」


隣に座る隼人を見ると、座ったままウトウトしている。


「隼人、お客さん来るんだから起きて」

「んーー……」


と返事をするそばから、土下座でもするかのように前に体が折れ、パタリと横倒れになってしまった。


「えっ……隼人、ちょっと!」


いくら体を揺すっても、スヤスヤと眠り続ける隼人。

これは何かおかしい気がする。

それに、何となく自分でも感じている異様な眠気。

こんなの普段感じたことなんてない。


「うっ……何だ……これ……」


次第に目の前が霞み、視界が狭まる。

瞼が重い……。

すると――


「ローソク出ーせー、出ーせーよ」


ぼんやりする頭の中に、子どもたちの元気な声がこだまする。

そうだ、頭を下げないと。偉い人を見てはいけないんだ。

そう思って頭を下げると、眠気が強くて床に倒れ込んでしまいそうだ。

このまま眠ってしまいたい。

どうしてこんなに眠いんだ……。

その時、玄関ドアがガラガラと開いて子どもの声がする。


「出ーさーないと、かっちゃくぞ」


そうだ、バイト中だ。

ローソクを渡さなくちゃ。

東京限定のお菓子も用意したのに……。

でも眠気で体がだるくて思うように動かない。

這うようにローソクに手を伸ばすものの、あと少しで空を切る。


「あれぇ、このお兄ちゃんたち寝てる~」

「変なの。かっちゃいたら起きるかな?」


クスクス笑う無邪気な子どもたちの声。


「あ、でもローソクあるよ」

「ほんとだ。じゃあもらっちゃおうか。……あれ、でも1本足りないね」


えっ、足りない? 

だって一人1本ずつ、隼人と僕で2本じゃないの? 

すると突然、玄関に灯っていた明かりが不規則に点滅し、やがてパタリと消える。

そして暗闇の中、ヒタ、ヒタ、ヒタと湿った足音が近づいてきた。


「子らよ、何事か?」


その声は、頭の隅々に刻み付けられるような重々しい声。

辺りの淀んだ空気が、湿り気とカビ臭さを増していく。

姿を見なくとも感じ取れる、その存在の異様さ。

ぶるりと身震いした僕の体は、そのまま凍り付いたように固まって動けなくなってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ