01.
君は誰よりも輝く一等星。
僕を照らす眩しい光。
君の顔が皺だらけになろうが、白髪だらけになろうが、腰が曲がろうが、君が君である限り、どんな姿になろうとも、僕のこの気持ちは変わらない。
だからどうか、情けなく声が震える僕を許してほしい。
「ぼっ、僕は……ッ……君のことが――」
どんな君でも僕は――
――――――
初夏――
「大変だよ、隼人!」
僕が部室のドアをバンと開けるなりそう言うと、中にいた隼人は漫画を手に、チョコチップクッキーを口に、足をテーブルに乗せ、目を丸くして僕を見る。
「雪、どうし――」
「あーーっ! だから! お菓子食べながら漫画読まないでってば!」
「あぁ、ちゃんと手は拭いて――」
「5巻だね。今、何話読んでるの?」
「えーっと……26話」
「サトルとジェイドがバトルを終えて、互いの健闘を称え合うシーン!」
「すげぇな、ちょうどそこ読んでたわ」
「王者のジェイドに最初は名前すら覚えてもらえてなくて視界にも入ってなかったサトルがついに挑戦権を得て結果負けてしまうけれどジェイドが『良いバトルだったよサトル』って名前を呼ぶシーンが感動的なのに視界の端にチョコチップクッキーの破片とかシミとかが見えたら滲んだ涙も綺麗さっぱり消え去るほど台無しじゃないか!」
しまった、息継ぎを忘れた。
おかげでゼェハァと呼吸が乱れる。
そんな不器用な僕を見て、隼人はいつもどおり大らかに笑う。
「わかったって。悪かった。で、話は何なんだ?」
「あっ!」
そうだ、漫画愛に熱中しすぎて脱線してた。
僕の人生に関わるほど大事な話なのに……。
僕は今から心の汚れたヒールと化す。
一世一代の大芝居で隼人を欺くんだ……。
僕は咳払いをすると、隼人に真面目な顔で告げる。
「大変だよ隼人。ここが……民研3が奪われる」
民研3――民俗学研究サークル第三支部。
東京都内の某大学で、僕と隼人の二人だけが所属するサークルだ。
第一と第二はなく、「第三ナントカみたいな番号が付いてる方がかっこよくないか?」という隼人の厨二病的一言で即採用された。それに3は僕たちにゆかりある数字だ。
その活動拠点であるこの場所に、使用許可剥奪の危機が迫っていた。
「……は? 奪われるって何でだよ。ここは……漫画読み放題の、俺たちの安住の地なんだぞ!」
民俗学研究サークルとは名ばかり。
僕が趣味で集めている漫画を大量に持ち込み、『漫画で民俗学を研究する』という名目で、ただ単に僕と隼人のたまり場と化している。
「僕が……僕がいけないんだ……ッ……」
手で顔を覆って悲嘆に暮れる僕を見ると、隼人が近づいてきて僕の肩をトントンと宥めるように叩く。
「どうしたんだ? 落ち着いて話してみろ」
手の内側にある僕の顔は、ニヤリと口角を上げていた。
「あのね、去年1年の活動実績がないって学生課から言われて……」
「何を言ってるんだ。そんなもん、ずっとないだろう」
「うん。でも実は、2年までは僕が一人で資料を作って提出してたんだ。でも3年の終わり頃は……」
「……あっ! お前インターンと就活!」
「うん、ちょっと忙しくて忘れちゃって……ごめん!」
「いいや、俺こそ任せきりにして悪い。2年までのこと、全然知らなかった」
まったく、ちゃんと言えよな、と申し訳なさそうな優しい声で僕の背中をポンポンと叩く隼人。
よし、これで下準備は整った。
「そ、それで!」
「ん?」
「夏休み明けまでは活動実績記録の提出を待ってもらったんだ。だから……夏休みに、調査を兼ねて一緒に出かけない? 活動実績記録、作成のための旅!」
「……まあ、しょーがねーな。卒業まで、ここを維持するためだ」
僕は密かにガッツポーズをする。
よし、計画どおりだ。
そして僕はスマホと一緒に、棚に並ぶ漫画の一冊を手に取って隼人のそばに立つ。
「それでね、こんなのを見つけたんだ!」
僕は隼人にスマホの画面を見せた。
「20歳以上限定……留守番アルバイト?」
「うん」
「北海道の伝統行事が行われている場所でね、8月7日、神社のお祭りの夜に、対象の家で留守番をしてほしいんだって。お祭りで家を空けるからかな……来客対応が仕事みたい。行ったついでにお祭りのことも調査できるから、僕たちにぴったりだと思わない? しかも交通費も出てバイト代も入るんだって」
すると隼人が不審そうな視線を画面に向ける。
「なんか……1日だけのバイトで3万って破格すぎないか?」
「まあね。でも交通の便の悪さとか人手不足とかを鑑みれば、こんなものなんじゃない? もし怪しそうなら、隼人は強いし僕は逃げ足速いし」
「逃げんのかよ」
隼人は笑いながら僕の肩にペチンとツッコミを入れる。
手が大きくて力が強いから、貧弱な僕の体は起き上がり小法師になったみたいにぐらりとふらつく。
「一軒家の留守番らしいから、責任持ってやってほしいってことで破格なんじゃないかな。もしくは、持ち主が資産家なのかも」
「なるほどな……。でもわざわざ北海道まで行かなくてもいいんじゃないか? もっと近場でも……」
「ほら、卒業旅行にもなるし! せっかくだから記念に行こうよ! それにほら、この漫画の舞台の近くなんだ。一度行ってみたかったんだよね」
手にする漫画を開いて見せながら、僕は人生一押せ押せムードで勧める。
何せ僕にとっては、隼人と二人でゆっくり過ごせる最大のチャンス。
どうにか理由を付けて、行く方向へもっていきたいのだ。
そして隼人という人は非常に優しい人。
肯定的にものを見る、根明な人。
だから――
「まあいっか。いいぜ。行くか、北海道」
勝算はあった。
ニカッと白い歯を覗かせて、輝くような笑顔を浮かべる爽やかな隼人。
僕はその笑顔を見て内心ほっと胸をなで下ろす。
「うん。じゃあ申し込んでおくね」
「おお。……にしても、もうバイトまで見つけてるなんてな。雪、一人で背負い込みすぎじゃないか?」
「だ、大丈夫だよ。このバイトだって、急いで探してたまたま見つけただけだし」
嘘だ。
本当は1ヶ月も前からこのバイトに目を付け、何なら隼人との旅行を決行すべく、3月のサークル活動実績記録はわざと出さなかったのだから。
でも人のいい隼人は、そんなことを疑ったりしない。
「そうか。いやあ、夏の北海道。涼しくて良さそうだな」
「でしょ?」
騙すみたいな形でごめんね、隼人。
もう最後だから……卒業したら離ればなれになるから……今回だけは僕の我が儘を許してほしい。
初めましての方も、すでにお知り合いの方も、ご覧いただきありがとうございます。
約3万字のお話。
完結までお付き合いいただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願い申し上げます(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾




