勇者は、現れなかった
適当に思い付いた話です
少年の頬には、生まれつき歪な痣があった。
意味のない線が絡み合ったような、不気味な模様。
村の子供たちは石を投げ、大人たちは目を逸らした。
「災いを呼ぶ顔だ」
少年は隠さなかった。
隠しても、何も変わらないと知っていたからだ。
怒りもしなかった。
期待もしなかった。
ただ、覚えていた。
――その日も。
魔物が村を襲ったのは、夕暮れだった。
悲鳴と炎が広がる。
逃げ惑う村人たち。
少年は広場の隅に立っていた。
そのとき、頬の痣が熱を帯びる。
痛みはなかった。
ただ、形が整っていく。
歪だった線は収束し、やがて六芒星を描いた。
光が走る。
「勇者……」
誰かが呟く。
魔物の群れが止まり、少年を恐れるように距離を取る。
力の使い方を、少年は理解していた。
振るえば、村は救える。
「勇者様! 助けてくれ!」
血にまみれた男が、少年の足に縋りつく。
その手を、少年は見下ろした。
その手で、石を投げた。
その口で、呪いの子と呼んだ。
少年は、何も言わない。
視線を横に向ける。
少女が立っていた。
別の村から、口減らしで捨てられた子。
優しくはなかった。
ただ、石を投げなかった。
少年を、化け物と呼ばなかった。
少女は何も言わない。
ただ、こちらを見ている。
「……行こう」
少年は少女の手を取った。
「待て! 勇者だろう!? 俺たちを救え!」
背後で叫び声が上がる。
少年は振り返らない。
「僕は、あなたたちの勇者じゃない」
六芒星が、強く光る。
次の瞬間、魔物たちは少年から興味を失ったように、再び村へと向き直った。
悲鳴が夜に溶ける。
少年は歩いた。
少女と並んで。
振り返らなかった。
◆
勇者は現れなかった、と歴史は記す。
魔物は増え、国は次々と滅びた。
救いの光は、ついに灯らなかった。
世界は、ゆっくりと荒れていった。
森の奥、小さな小屋。
二人は生きている。
火を囲み、静かに食事をする。
外では遠く、魔物の遠吠えが聞こえる。
少年の頬には、もう痣はない。
六芒星も、歪な模様も。
少女が問う。
「後悔してる?」
少年は少しだけ考える。
炎が揺れる。
「……してない」
それだけだった。
世界は救われなかった。
けれど少年は、自分を裏切らなかった。
夜空には星がある。
勇者は、現れなかった。
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