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赤い月とふたりの舟 ~嫌いなあなたと不思議な国~  作者: 五十鈴 りく


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24✤使い魔

 しばらくして雨は上がった。

 それでも夜間だから暗かったはずが、不意に柔らかな光が雪のように降ってくる。


「……何これ」


 蝋燭の火のような、仄かに赤い光だ。


 その光によって、互いの顔が見える。

 そうするとやはり気まずい。気まずいのは私だけかもしれないが、とっさにロドリックの顔から目を背けた。

 それでも、ロドリックが私に向ける目が切ない。その表情が脳裏に焼きついて戸惑う。


「この世界の自然現象か? 害がなければいいけど」


 ロドリックがポツリと言った時、彼から目を背けていた私に声がかかった。


「おねーさん!」

「えっ?」


 ロドリックが女性と間違われるはずはないから、私のことだろう。


「おねーさん、魔法使いだね!」


 元気で甲高く、その声は子供のようだった。けれど、姿が見えない。


「誰? 私は魔法使いと言っていいのかわからないの。素質はあるのかもしれないけど」


 すると――。


「うん! あると思うよ!」


 そう言って木の枝からぶら下がってきたのは、私の脚よりも太い、螺鈿のような光沢を持つ白蛇だった。


「――っ‼」


 そう来るとはまったくもって心構えがなく、不覚にも悲鳴を上げて自分からロドリックに抱きついてしまった。嬉しそうに顔をゆるめたロドリックを理不尽にも睨んでから私は一人で立った。

 それでも、ロドリックは私を庇うように私を後ろに押しやって蛇と話す。


「お前、ただの蛇じゃないよな?」


 蛇は誇らしげに身をくねらせる。


「まあね! 僕は魔法使いの使い魔さ。今は野良だけどね」

「使い魔って、月の精?」


 私がロドリックの背中から問いかけると、蛇の声が一段明るくなって返る。


「そうだよ! ぼくたちは月と魔法使いを繋いで手伝いをするんだ。前の御主人とはちょーっと喧嘩別れになっちゃったけど、やっぱ野良だと社会では爪弾きだからさ、どうしよっかなぁと思ってたところ。おねーさん、可愛いね!」

「……ありがとう」


 蛇に褒められても嬉しくないとは言えない。

 それでも蛇はご機嫌だった。


「ぼくをおねーさんの使い魔にしてよ! ぼく、素直だしよく働くよ?」

「で、でも、私、魔法使いとしては何もできないから」

「おねーさんは力の使い方を知らないだけだよ。その辺りもぼくが導けることもあるんじゃない?」


 そうなのだろうか。でも、こんなに大きな蛇は困る。

 私が真剣に困っているのを感じたのか、ロドリックが口を挟んだ。


「俺たちはこの世界の人間じゃなくて、もとの世界に帰るために旅をしてるんだ。でかい蛇は連れていけない」


 これを言ったら、蛇は何故かケタケタと笑った。


「蛇? 馬鹿言っちゃいけないよ。こんなのがぼくの本当の姿のわけないじゃないか。便宜上、今はこれになっただけだよ」


 木に登りたかったから蛇になっただけだというのか。


「じゃあ、本当の姿はどんなの?」

「本当の姿は人間の目に見えないよ。だから何かの形になっている必要があって。使い魔にしてくれるなら、おねーさんが望む姿になるよ」


 それを聞いてほっとした。せめてもう少し小さくなってほしい。

 ベリスの使い魔がドーベルマンだったのも、本当の姿ではなかったようだ。


「どうすればいいの?」


 尋ねてみると、ロドリックが警戒したようだった。蛇の話を信じるのは危険だと言いたいのだろうか。

 ただし、蛇はあまりロドリックを脅威には感じていない気がする。


「おねーさんの名前は?」

「ミシェルよ」

「わかった。ミシェルがぼくに名前をくれたら、それが契約になるよ」


 この子に名前をつけてあげればいいと言う。どうしようかと考えていると、ロドリックが振り返った。


「こいつ得体が知れないし、やめておいた方がよくないか?」


 それを聞き、蛇は尻尾の先でロドリックの横っ面をどついた。


「邪魔するなよ。お前に言ってないし」


 ロドリックはイラッとして蛇を睨んでいた。

 蛇は人を惑わすというけれど、この姿は本来のものではない。

 信じてもいいのだろうか。


 私はどうしたわけか、この子に与えるべき名を思いついた。

 今の私にはこの子の力が必要だと、直感的に感じたのかもしれない。これが何の導きであれ。


「サディアス」


 私が与えた名が契約となる。それは本当なのだろう。

 目の前の大蛇が光を放ち始めた。


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