表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い月とふたりの舟 ~嫌いなあなたと不思議な国~  作者: 五十鈴 りく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/29

22✤期待

 ――ベリスの屋敷ではない場所へ来た。

 さっきまで見えていた風景とまったく違うのだから、違う場所なのだと思う。


 ただし、またしてもどこだかわからない。草が生えていて、木が生えていて、岩があって。わかるのはそれくらいだ。

 月が照らして見せてくれるこの場所は、自然のど真ん中だった。


「またどこかに移動したけど、ミシェルがやったのか?」


 隣のロドリックが複雑そうな面持ちで問いかけてくる。


「……わからないけど、あの屋敷から逃げたいって願ったの」


 私に魔法使いの素質があったとしても、使い魔も月石というものも持ち合わせていない。それで魔法を使えるのは王くらいのものだと聞いたばかりだ。


 それで私に魔法が使えるというのなら、私は一体なんなのだろう。

 あまり深く考えたくはない。


 ロドリックを見上げると困惑しきっていた。ここでならもう話してもいいだろうか。


「ベリスは、口ではああいったけど、あなたのことを帰してくれる気なんてなかったのよ。王でもなかったらそんな力はないのに、あなたを私から引き離すために嘘をついたの。死んでも構わないから、どこかに捨ててくるって……っ」


 一気にそれを言うと、ロドリックは驚いたふうに私を見た。

 殺されるかもしれないとまでは考えていなかったのだろう。


「ミシェルにも危害を加えようとしたのか?」

「私は王の客人だから、丁重に送り届けるって。命が危なかったのはあなただけよ」


 それを聞くなり、ロドリックはほぅっと気の抜けたような息を吐いた。


「危なかったのは俺だけのに、あんなことまでして報せに来たんだ?」

「えっ?」

「放っておいてもミシェルは困らなかったんじゃないのか?」


 耳を疑うようなことを言われた。放っておいても困らないと。


「何を言っているの?」


 放っておいたら、このわけのわからない世界で死ぬだけだったのに。

 ロドリックの表情が妙に硬い。

 まさか、まだついてこなくていいと言ったことを根に持っているのだろうか。


「だって、俺が死んでもミシェルはそんなに悲しくないだろ?」


 諦めたような、少し切ない目が私に向いている。

 この表情の意味はなんだろう。心がひどく乱される。それが腹立たしい。


「拗ねた子供みたいなこと言わないで」


 引っぱたいてやりたいような気持ちだったけれど、殺されかかった彼をこの上殴るのはあんまりだろう。

 それでも、ロドリックは殺されそうになったことに傷ついているのとは違った。


「ミシェルは相手が誰だろうと見捨てたりできないことくらいわかってる。でも……」


 でも、とそこで言葉を切る。

 その続きを言うのに力を蓄えるみたいな間が、私にはもどかしかった。

 ついでに言うなら、ここは寒い。だから、早くしてほしかった。


「あんなことまでして必死に俺のこと助けようとしてくれたんだって思ったら、期待したくなる。つまり、すごく嬉しいんだけど」


 表情が硬いと思ったら、ふやけそうになっているのを堪えているだけだった。


「……それはっ」


 そんなにも言いにくそうに、ちょっと頬を染めながら今言わなくていい。

 緊迫感が飛んで、私の全身の力が抜けていきそうだ。


「この状況で、それこそ何を言っているの?」


 がっくりとうなだれる。ロドリックがとぼけたことを言うせいだ。

 この草原の只中でしなくてはいけない話は今後のことだ。ここからどうするかと、それを話したいのに。

 それでもロドリックにとってはこれが大事な話なのだろうか。


「いや、ミシェルのそういうまっすぐなところが好きだって話」


 自分が『死ねばいいと思うほど嫌い』な対象から外れていて嬉しいのだろうか。

 ――死ねばいいなんて、思ったことはないのに。

 自分を嫌う私を嫌えなかったと言った。私は、私を嫌っているロドリックを嫌ったのに。


 今、なんと答えるのが正解なのだろう。

 ロドリックの目が私に向いていて、何か言葉を求めているのがわかった。


 それでも私は、返す言葉を選べなかった。この場をどう凌げばいいのか、心臓がいつもの強さを返上して縮んでしまったような気になった。


「私は……」


 私は、なんだろう。何を言う気でいるのだろう。

 ただ、ロドリックの視線から逃れるのが難しかった。


 その時、暗い空からパラリと雨が降ってきた。風に押された雨雲が月を隠してしまう。

 そうなると、本当に暗い。こんな場所で視界まで閉ざされたら最悪だ。


「雨だ。木陰に入るぞ」

「え、ええ」


 そうは言うけれど、木はすぐそばには生えていない。どうにか駆け出すけれど、暗いせいもあって急げない。風も強かった。

 ロドリックは私を気にして先に行かない。一緒に濡れてしまう。


「先に行ってくれても――」


 そう言いかけた時、ひと際強い風が吹いてロドリックが急に私に被さった。何事かと思えば、ロドリックに何かがぶつかったのがわかった。折れた木の枝だ。まだ青い葉を擦らせながらへし折れた枝が風に飛ばされていく。

 これは、本来なら私が受けるはずだった痛みだろう。


「……急ごう」


 痛くなかったはずはないのに、痛いと言わない。私の手を引いて進む。

 私はこの時ばかりは素直にロドリックに従った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ