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赤い月とふたりの舟 ~嫌いなあなたと不思議な国~  作者: 五十鈴 りく


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16✤成長

 昼夜のズレを直すため、朝まで待ってから宿で軽めの朝食を食べた。食欲なんてなかったけれど、今食べないと今度いつ食事ができるかわからない状況だと思い直し、無理やり飲み込む。


 ここの朝食はロドリックには物足りなかったのかもしれないが、完全な朝食なんて小さな宿に求めてはいけない。


 宿から外へ出ると、空は晴れ渡っていた。

 この不思議な世界にも雨は降るのだろうか。


「領主館はどっち?」

「町で一番高いところにある建物だって」


 ぐるりと周囲を見回すと、塔のようなものが見える。あれは領主館の一部だろうか。

 そちらを目指し、先になってさっさと歩き出す。

 私はロドリックを必要以上に立てるつもりはなかった。


 女性なら男性の後ろを歩くべきだろうけれど、生憎と私は兄様を背に庇いながら前に立っていた。

 男性を敬うのに慣れていない。

 だから、こんな令嬢らしからぬ私にロドリックが執着する理由も今いち理解できない。


「肩で風を切って歩くのはいいけどな、ここがどこだかちゃんとわかってるんだろうな?」


 ちょっと呆れたような響きで言われ、私は苛立ちながら振り返った。


「どこって、スターレット王国のチップチェイスの町とやらでしょう?」


 そうしたら、ロドリックは苦々しい表情でため息をついた。


「そういう名称の土地だって知っただけだ。ここは俺たちの世界とは違う。何がどんな原理で起こるのか予測がつかない場所だってこと。だから、そんなふうに一人でズカズカ歩いていくのは危ない」


 ――それは正論だけれど、ロドリックに言われると反発心が湧いてしまう。

 もういい加減に敵視するのはやめなくてはならないのに、長年の癖が抜けない。


「そうね。気をつけるわ」


 口では言いつつも、顔はムッとしている。その自覚もあったのだけれど。


 そうして領主館を目指して歩き始め、しばらく経った頃、きっと行き先が同じだろうという人々が何組かいた。

 何故だか若い女性ばかりだった。どちらかと言えば豊満な美人ばかりで、私がとても貧相に思えた。


 彼女たちは私を値踏みするように見て、それからロドリックにも目を向けた。


「あら、男連れなの? それでは入れてもらえないんじゃない?」


 なんの話だかわからなかったので、私は浅黒い肌をしたその美人に問いかける。


「私たちは領主様にお訊きしたいことがあって訪ねるところなのですが?」

「訊きたいことって? 領主のベリス様が若い女性をお探しだから来たのではないの?」


 若い女性。

 とても漠然とした話だが、ロドリックは露骨に嫌な顔をした。


「若い女性を集めているって、目的はなんです?」


 すると、その女性はどこか媚びを含んだような目でロドリックに微笑んだ。肉厚な唇は、同性から見てもドキドキしてしまう。


「領主様は独身だもの。わかるでしょう?」


 奥方探しであればいいけれど、単に一夜の相手だったらどうしようか。

 こんなに美人がたくさんいれば細身の私に食指は動かないだろうけれど。


 ――と思うのは私だけだったのか、ロドリックが急に足を止めた。


「やっぱりミシェルは宿で待ってた方がいい」

「……話を聞くだけでしょう? それくらい大丈夫よ」

「いや、ミシェルが気に入られたら困るから」

「こんなに美人がそろっていて私を選んだりしないわよ」


 平然と返したら、ロドリックは瞬きを繰り返した。なんだろうか、このリアクションは。

 急に怒ったような表情になる。


「そんなわけないだろ。どれだけ俺が、ミシェルに変な虫がつかないか心配してきたと思ってるんだ」


 ぎょっとするようなことを言われた。

 ムスッと不機嫌に私を睨んでいただけではなかったのか。


「知らないわよ、そんなの! あなた、私のことを散々貧乏令嬢だとか言ったじゃない。誰も私のことなんて狙ってなかったわよ」

「それは結婚とか家が絡んだらの話だ。ミシェルのことを目で追ってる男がどれだけいたか俺の方がよくわかってる」

「だからなんなの? 私とあなたは無関係なんだから、そんな心配しなくてもいいでしょ」


 ロドリックが変なことを言い出すから、つい戸惑ってきつく返してしまう。

 それでも、ロドリックはボソボソと言った。


「ミシェルは自分の魅力を知らないだけだってこと。もうちょっと気をつけた方がいい」

「…………」


 私が黙ったら、ロドリックは何故か楽しそうに声を立てて笑った。


「照れると黙る癖は子供の頃と一緒だな」


 この男は、謝りたいと言いつつもまだ喧嘩を売ってくる。


「私が成長していないって言いたいの?」

「してないわけないだろ。すごく綺麗になった。だから俺の心配事も増えたのにな」


 こんな慣れないことを言われて、私はひたすら返答に困る。

 ロドリックは本気で言っているのだろうか。


 私が固まっていても、ロドリックはへらりと笑った。


「本音が言えるってすっごい楽だな」


 これまでのあれはすべて本音ではなかったと。

 それにしても真逆すぎる。

 私の方がついていけない。


 疲れを感じてロドリックを置いてさっさと先に進んだら、慌ててついてきた。


「領主様には話を聞くだけよ。余計なことはいいから、あなたもふざけてないで」

「いや、少しもふざけてないんだけど」


 睨んだのに、また笑って返された。

 ここで黙ってはいけない。いけないけれど、言い返せないでプイッと顔を背けてしまう。

 そうしたら、ロドリックは満足そうに隣に並んだ。


「ミシェルを守るには手の届くところにいてくれないと困るから、あんまり俺から離れないように」


 守ると言うけれど、私の心臓が少しも休まらないのはどうしてくれる。


 顔を背けて口を利かない私の隣をロドリックはゆっくりと歩く。私の背は、彼の肩にまでしか届かない。

 改めて、こんなにも身長差があったのだと思わされた。肩幅も広い背中も何もかも、どうしても落ち着かない。


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― 新着の感想 ―
ロドリックのキャラがあまりに変わり過ぎてて、 「こやつ、ミシェルに優しくしまくって、何かと自分の都合がいいように進められるようにしているだけでは?」 と、疑心暗鬼満タンの私ですwww 完全に五十鈴さ…
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