14✤真相
子供の頃の失態を恥ずかしく思ったのか。
それにしても、ロドリックのこんな表情は見たことがなかっただけに戸惑うけれど。
「あなたが私を嫌ったから、私もあなたを避けたの。当然でしょう?」
今になってこの話をすることになるとは皮肉なものだ。
それなのに、ロドリックはこちらが調子を崩すほど項垂れた。
「違う……」
「何が? 自分はそんなこと言ってないっていうの?」
「そうじゃない。言った。それは……覚えている」
そうつぶやいて赤みのある金髪を手で乱し、深々とため息をついている。
やっと顔を上げた時、そこに皮肉ないつもの彼はいなかった。こんなにまっすぐな目を向けられたのはいつ以来だろう。
私の方が目を逸らしそうになった。それをどうにか踏み止まる。
「あれは、嫌ってるから言ったんじゃない」
「どういうこと?」
それならば、友人だったはずの私を貶めるようなことを言う理由がどこにあるのだ。
唾を飲み込むロドリックの喉が動く。そこに緊張が見えた。
「……あいつが、ミシェルのことを『可愛い』って言ったから。焦ってとっさにあんなことを言った。あんまりミシェルに近づかないでほしくて。先に好きになったのは俺だから、俺よりも……親しくならないでほしいって」
今度は私が、目が零れ落ちそうなくらいに見開く番だった。
この人は、一体何を口走っているのだろう。
「卑怯だって後になって思ったけど、自分の気持ちを素直に認められないくらいはガキだった」
本当に、赤い顔をして何を言っている。
やめてほしい。もう聞きたくない。
それなのに、ロドリックはやめない。
「でも、ツケはちゃんと払うようになってたんだな。急に無視されるようになって、理由がわからないまま勝手にあれこれ想像してて……。そうか、俺のせいか……」
私はこのロドリックの言動に見合う説明を探した。
そして、最もそれらしいものを見つけた。
「わかったわ。あなた、ロドリックの偽物ね?」
「は?」
「ロドリックがこんなこと言うわけないもの。この世界に来たのは私だけで、本物のロドリックは皆と一緒に元の世界にいるんでしょう? あなたはロドリックじゃないんだわ」
「……これは相当根が深いな」
私たち兄弟に散々絡んできたその顔でしょんぼりしてももう遅い。
可哀想だなんて思わない。
「ふざけないで。兄様にまでつらく当たって、どうしてあなたのことが今更信じられるっていうの?」
これを言ったら、傷ついたのかもしれない。伏し目がちにつぶやかれた。
「悪かった。お前の兄貴には思うところなんてなかったんだが、俺のことを完全に無視するお前が兄貴に突っかかった時だけ俺のことをちゃんと見て、喧嘩腰でも話してくれたから……」
「呆れた」
短く言い放った私のこの言葉にも傷ついたらしい。小さな子供に戻ったみたいに情けない顔をしている。
この様子を社交場の令嬢たちに見せてやりたいくらいだ。
「どうやったら前みたいに笑ってくれるのかわからなくて。俺には笑いかけないのに、キリアンとか他のヤツとは楽しそうにしてるし……。お前の兄貴には悪かったけど」
兄様もこんな理由で絡まれていたとは思っていないだろう。
なりだけ立派になったのに、中身は成長していないのか。
「兄様にちゃんと謝って」
そう言って睨んだら、ロドリックはうんと言ってうなずいた。本当に子供みたいだ。
全部吐き出したせいなのかロドリックからは険が取れ、戸惑いを滲ませながらも不意に微笑む。
それは私以外の令嬢を虜にするには十分なものだったかもしれない。
「じゃあ絶対に帰らないとな。謝って、一からやり直したい」
私がロドリックに微笑みかけることがなかったように、彼が私に笑顔を向ける瞬間もなかったのだ。
だから慣れないし、落ち着かない。
「帰るけど、なかったことにしようなんて虫のいいことを言わないで」
傷ついた私の心は痛みを忘れていない。
この時のロドリックをまだ完全には信じきれなかった。
また掌を返したように意地悪な彼に戻るとも思えたから。
「なかったことにはしようなんて思ってない。……でも、どうして避けられたのか理由がわかってよかった。いや、俺が悪かったのによかったなんて言っちゃいけないんだけど、理由がわからないまま対処できなかったことを思えば前に進めた気がする」
まっすぐに目を見てはっきりと物を言った。
子供の頃のロドリックは常にそうだったかもしれない。
だから、正直なはずの彼の発言が本心ではないなんて気づけなかった。
ロドリックがそういう嘘をつかない人柄だと信じていたからこそ、私はあんなにも心を痛めたのだから。
これ以上会話を続けたくなくて、私はシーツに潜った。それでもロドリックは口を閉じようとしない。
「これからは謝罪の意味も込めてミシェルのことを守る」
今、どんな顔をしてこれを言っているのか、見たくない。知らない。
けれど、本当はどこかで腑に落ちた。
口では皮肉なことを言いながら、ロドリックは私を助けてくれていたと。




