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彼女の怒りの矛先

作者: 時刻時
掲載日:2026/01/04

誰がどう見ても、彼女は怒っている。


本日の授業が終わり、帰宅部である僕と一緒に帰っているはずの彼女は

僕より5歩ぐらい先で背を向けて歩いていた。


彼女の背中からは般若ほどではないが、放出されているオーラに明らかな熱が感じとれる。

近くの塀を歩いていた猫は踵を返して逃げていき、道行く人たちも彼女の機嫌を損なわないように慎重に横を通っていく。


そんな彼女のボーイフレンドである僕はオーラをもろに受けているため

自然と手のひらに汗が流れているのを感じ取れた。


一体何故こうなったんだ。

今日は特段何もない、普通の1日であったはずだろ。

しかし誰がどう見ても、彼女は確かに怒っている。


何故か震えていないはずなのに震えを感じる僕の足は

それでも彼女と同じ速度で、後ろを追いかけ続ける。

この調子だと彼女の家までは、あと5分もしないうちに着いてしまうだろう。


僕は足の震えが背中にも感じ始めたのを自覚したため、より一層考える。

彼女はなんで怒っているのだろう。



今朝は口うるさいアラームくんと母親の声に起こされた所から始まる。


いつも通り、ギリギリで起きることを勝手に家訓にしている自分は

いつも通り、慌ただしく身支度をしてから玄関で待っている彼女に合流する。


食べかけの食パンを咀嚼しながら彼女と話し、学校へ向かう。

この時は彼女からは熱いオーラを感じなかった。


学校で上履きに履き替えて、彼女とは一旦別れて自分のクラスへ向かう。

教室に入るときには、別クラスにした神様と先生に対して呪詛を唱えることをは忘れない。


授業中は可も不可もなく、滞りなく消化されていく。

真面目に授業を聞くし、ノートもしっかりとる。

昨日彼女とビデオ通話しながらやった宿題も提出した。


お昼休み。少し同じくクラスの友達とだべってから彼女と一緒にご飯を食べる。

母が作ったお弁当はいつも通りだ。

彼女のハンバーグを少し拝借。美味。


食後は彼女との会話に興じる。少し先に控えている体育祭や文化祭について話した。

今年は自分が文化委員になったこと、彼女は体育が苦手など。

ここでも彼女は普通だったはずだ。


食後の運動である体育もそつなくこなし、眠気との闘いも勝利した上で放課後になった。

掃除当番もしっかり遂行して、下駄箱で待ってくれている彼女のもとへ向かう。

ここでも彼女はいつも通り、だったように思っている。



帰宅途中、彼女から漏れ出ている熱いオーラを感じた。



さて、ここで問題です。

彼女は何に怒っているのでしょうか。


答えは彼女しかわからないですが、聞くわけにもいきません。


僕の頭と連動するかのように、少し足が重くなる。

もうかばんの持ち手はべしょべしょだ。


とりあえず目の前の彼女が家につくまでには何かしらのアクションしないといけないのはわかる。

そのためには自分で考えるしかない。

僕は必至に細胞を活性化させる。


怒っているのには、理由がある。

問題はその理由が何かわからないと先に進めないことだ。


真っ先に思いつくのが、僕が彼女にとって良くないことをした。

けど僕はいったい何をしたんだんだ

今日一日はいつも通りのことしか起きていなく、喧嘩になりそうな出来事は起きていない。


そういえば、今日掃除当番があったから集合が少し遅れたよな。それか。

でもたかが10分ぐらい遅れただけだし、こんなに怒るようなことではないと思うけど。


あるいは遅れるのはいいけど、事前に連絡はした方がよかったかも。

カップラーメンもたかが3分だけど、待っているときは10分ぐらいに感じるし

彼女は30分ぐらい待ったように感じているかも。


連絡といえば、文化委員のことも相談していないな。

事前に相談したら一緒に文化委員になることもできたのに。


待てよ。その時、彼女が体育は苦手といったとき、僕は笑ったな。

それが彼女を傷つけることになったかもしれない。

僕もスポーツ全般は得意だけど水泳だけは金槌で苦手だし、苦手な人の気持ちはわかる。


もしくは、その前の昼ご飯の時に彼女のハンバーグもらったけど、僕はお礼や美味しいって言っていないかも。

そう感謝が伝えられないのは彼氏ではなく、人として良くない。


やっば、遅れるといえば昼ご飯も集合遅れてるやん。

1回だけならともかくツーアウトなのが原因か。


あとはなんだ、そうなるといつも自分が朝ギリギリなのも怒っているのか。

その積み重ねならツーアウトどころではない。もうスリーアウトでゲームセットだ。


そんなこと言い出したら、昨日一緒にやった宿題も怪しく感じてきた。

夜遅くまで付き合わせたわけではないけど、宿題ぐらい自分でやれって話しだしな。


あとは自分でも自覚できない、僕のことに怒っているとか。

確かにいつも朝慌ててるから、寝ぐせとか酷いときあるし。


って今気づいたけど、最近ひげが生えてきたから朝剃るつもりで忘れていた。

そんなに目立たないけど、よく見ればわかるし。


もしくは実は僕に怒っているわけではなく別のことに怒っているとか。

そうなるともうわからないし、聞くしかないけど。

どう切り出せばいいかわからない。

どしんたんはなしきこか、なんて口にした日には明日はない。


ここまで考えて、考えて、考え抜いたけど、本当に何に怒っているのかわからない。

というか僕結構いろいろやっちゃってるんだな。

今回の件とは関係なく、全部ちゃんと反省しないといけない。


けど今は、直面しているこの問題の解決が先である。

もう彼女の家はすぐそこだ。既に家の一部分は視界に入っている。

けど僕はまだ、僕が何をすればいいかわからない。


僕の目の前にいる彼女の背中を少し見る。

オーラもあるが、少し揺らぎのようなものも感じる。

何とか歩を進める。


正直これまで考えた中では集合の遅れが一番可能性高いし、それでいってみるか。

けど、本当にそれでいいの。だって全部仕方ないことだったし。

けど、朝のは言い訳の仕様がないな。起きれないのは完全に僕に問題がある。

けど、今日に限ったことじゃないよな。それはもうお約束のようなもんだし。


お約束。


「あ」


僕は急いで彼女に駆け寄り、彼女の手をとる。

湿った僕の手が滑らないようにしっかりと握る。


「ごめん」「本当に」


そろそろ来るであろう季節を感じる冷たい風に、僕は少し震えを感じた。


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