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第87話:The First Day



◇◇◇



魂の記録空間


《アーカ・メモリア》が発動した瞬間――


永瑠の意識は、静かな白い世界へと引き寄せられた。


果てしなく続く蒼白の雪原。


風だけが優しく吹き、無数の記憶の欠片が雪のように舞っている。


永瑠は小さく呟いた。


「……ここは?」


その声に応えるように、一人の少年が振り返る。


蒼真だった。


「俺の……いや。」


少し照れくさそうに笑う。


「ウィンターの記憶の中だ。」


その瞬間。


風がふわりと舞う。


雪煙の向こうから、一人の青年が歩いてくる。


淡銀の髪。


氷のように澄んだ青い瞳。


ウィンターだった。


「……蒼真。」


蒼真は笑う。


「お前の後悔――


終わらせてやったぜ。」


ウィンターは静かに目を閉じる。


「ああ……。」


「もう、思い残すことはない。」


ゆっくりと目を開き、穏やかに微笑んだ。


「ありがとう。」


その瞬間。


永瑠の胸から、一粒の光が浮かび上がる。


小さな灯火はやがて眩い輝きとなり、一人の少女の姿を映し出した。


アリア。


ウィンターの瞳が揺れる。


「……アリア。」


アリアは優しく笑った。


「待たせちゃったね。」


ウィンターは涙を浮かべながら首を振る。


「いや。


俺が待たせた。」


二人は静かに手を重ねる。


長い輪廻。


幾度もの別れ。


ようやく、その手は届いた。


ウィンターは蒼真へ振り返る。


「ありがとう。」


「君のおかげで……


俺も前へ進める。」


蒼真は照れくさそうに笑った。


「今度は幸せになれよ。」


「ああ。」


そして、アリアへ手を差し伸べる。


「……共に行こう。」


「うん。」


二人の身体は蒼白い光となり、


雪原を優しく照らしながら空へ昇っていく。


寄り添う二つの光。


やがて一筋の流星となり、


静かに夜空へ溶けていった。


雪だけが静かに降り続く。


誰かの後悔が終わり、


誰かの新しい人生が始まるように。



◇◇◇


地獄の朝は、突然に


AM 6:02――蒼真の部屋。


蒼真がゆっくり目を開ける。


目の前2センチ。


永瑠が無表情で覗き込んでいた。


永瑠 「……起きた。」


蒼真 「ひぃぃぃっ!!?」


(近い近い近い!! なんで毎回距離感おかしいんだ!?)


永瑠 「心拍、正常。 寝息、正常。 体温36.4。」


蒼真 「ノアの真似すんなぁぁぁ!!」


永瑠 「昨日は興奮してたから。」


蒼真 「俺を何だと思ってる!?」


永瑠 「弱い人間。」


蒼真 「否定できねぇ!!」


ガラッ。


ノア 「お二人とも。 学校へ行きますよ。」


蒼真 「……学校?」


ノア 「はい。 期末試験があります。」


蒼真・永瑠 「「現実って厳しい!!!」」



◇◇◇


神楽高校は今日も平和(?)


校門をくぐる。


世界を救った翌日とは思えない光景だった。


購買へ全力疾走する生徒。


廊下でほうきを剣にする男子。


机に魔法陣を落書きする犯人。


担任が怒鳴る。


「誰だーー!! 机に魔法陣描いたのは!!」


蒼真


(世界意思より先生の方が怖ぇ……。)


思わず笑みがこぼれる。


世界は、


ちゃんと日常に戻っていた。



◇◇◇


世界一過酷な戦場


昼休み。


購買。


「メロンパン残り一個!!」


その瞬間。


男子全員が走った。


蒼真


「永瑠のメロンパンは……


俺が守る!!」


ドン!!


ガッ!!


バッ!!


異世界より激しい人混み。


蒼真


(世界救うより難しくない!?)


なんとか最後の一個を掴み取る。


永瑠


「……すごい。」


蒼真


「命懸けだからな。」



◇◇◇


変わらない人たち


ノアが廊下を歩く。


男子たちは今日も見惚れる。


ノア


「皆さん。 今日も健康ですね。」


男子


「ありがとう!!」


「理由は分からないけど元気出た!!」


永瑠は小さくため息をつく。


「……相変わらず。」


蒼真は笑う。


こんな騒がしい毎日も、


悪くないと思えた。



◇◇◇


日常への帰還


放課後。


夕日に染まる教室。


机の上には、


蒼真が命懸け(購買)で勝ち取ったプリンが二つ。


永瑠が静かに微笑む。


「……半分こ。」


蒼真も笑う。


「いや、今日は一人一個。」


永瑠は少し考えて、


小さく笑った。


「……それもいい。」


二人は静かにプリンを食べる。


窓の外では、


冬の最後の雪が静かに溶けていた。


蒼真


「長かったな。」


永瑠


「うん。」


「でも……」


「終わってしまった。」


蒼真


「終わりじゃない。」


「ここからだろ。」


永瑠は驚いたように蒼真を見る。


そして、


今までで一番自然な笑顔を見せた。


「……おかえり。」


蒼真も笑う。


「ただいま。」


その時。


バン!!


ノア


「ズルいです!! プリン会議に私がいません!!」


蒼真


「あったよ。」


ノア


「やったー!」


三人の笑い声が、


夕暮れの教室に響いた。



◇◇◇


エピローグ


永遠の呪いは終わった。


世界を縛った宿命も終わった。


けれど、


人生は終わらない。


笑う日がある。


泣く日もある。


迷う日もある。


それでも人は歩いていく。


誰かと出会い、


誰かを守り、


誰かを愛するために。


限りある命だからこそ、


その一瞬は、何よりも美しい。


今日という日は、終わりではない。


すべては、この一日から始まる。




Crimson END




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