第83話:終撃と静寂
◇◇◇
#1 界の外側で
光が、音を消し去った。
世界が反転し、上下左右の概念が溶け落ちる。
蒼真・永瑠・ルシェルの三者は、空間の裏側へと吸い込まれていた。
永瑠は息を呑む。
永瑠:
「ここ……どこ……?」
蒼真が静かに答える。
蒼真:
「空間の……裏側だ。
界裂の“先”……!」
その蒼真の右手で、焔生が白く燃える。
もはや“刀”というより“世界の断面”そのものだった。
ルシェルが六翼を広げ、虚空を押し返すように立っている。
ルシェル:
「……界技を完全発動させるとはな。
その器……本物だ、蒼真。」
蒼真は一歩踏み出す。
その足跡が“空間”に刻まれた瞬間、
世界が細かくヒビ割れた。
永瑠が震えながら叫ぶ。
永瑠:
「蒼真!! これ以上は……!」
蒼真は振り返らない。
蒼真:
「永瑠。
もう一度だけ……俺の背中、見ててくれ。」
永瑠の喉が詰まる。
その一言だけで、涙があふれた。
◇◇◇
#2 界徹、着弾
蒼真は焔生を肩に担ぎ――
世界を踏み砕くように跳んだ。
ルシェルの未来予知が“無音で崩壊”する。
ルシェル:
「……見えない……!?
ならば――!」
ルシェルが六翼を展開し、
“過去再来”を発動。
三秒分の“過去の自分の影”を重ね、
蒼真を迎撃しようとする。
だが――
その瞬間。
蒼真の足元で空間が斜めに裂け、
蒼真は一瞬で“ルシェルの影の外側”へ跳んだ。
蒼真(低く呟く):
「もう……逃がさねぇ。」
刃が振り下ろされる。
蒼真:
「界――徹ッ!!!!」
白光が世界を切断し、
空間そのものが“無音で崩落”していく。
六翼は一枚ずつ剥がれ、
ルシェルの胸部――
“核”が露出した。
ルシェルが初めて顔を歪める。
ルシェル:
「ここまで……か……」
蒼真の刃が核へ届く――
ザクッ。
その一閃で、六翼は砕け、
ルシェルの肉体が空中で停止した。
◇◇◇
#3 不死の残滓
ルシェルの身体は血も出さない。
ただ静かに、
黒霧がほどけていく。
永瑠:
「父さん……」
ルシェルはゆっくり永瑠へ顔を向けた。
そこに“敵の瞳”はなかった。
ルシェル:
「お前は……」
永瑠の肩が震える。
永瑠:
「あなたは……何故……」
ルシェルは首を横に振り、
永瑠の頬に触れようとして、触れられない。
影の手が、溶けていた。
ルシェル:
「生きろ。永瑠。
この世界で初めて……
私は“父親”になれた。」
永瑠は泣き叫びながら手を伸ばす。
永瑠:
「父さん……」
ルシェルの足元から、
黒霧が“白銀の光”へと変わる。
その光は、静寂へと還っていく魂の光。
◇◇◇
#4 蒼真、落下
蒼真はルシェルの核を斬ったことで、
限界を超えていた。
足元の空間が大きく揺れ、
蒼真は膝をつく。
永瑠が叫んだ。
永瑠:
「蒼真!!」
蒼真は息を荒げ、永瑠の方へ手を伸ばす。
蒼真:
「……守れた……
永瑠の……未来……」
永瑠は泣きながら蒼真を抱きしめる。
永瑠:
「バカ……!!
また無茶して……!!
死んじゃうかと思った……!!」
その腕の中で、蒼真の意識が落ちていく。
永瑠は震えながら叫ぶ。
永瑠:
「蒼真!!!目を開けて!!!!」
蒼真の意識が完全に落ちる前、かすかに微笑んだ。
蒼真:
「……聞いてるよ……
永瑠……」
そして、蒼真は永瑠の胸へ倒れ込む。
永瑠は涙に濡れた瞳で、
まだ光の残る空間を見上げ、小さく呟いた。
永瑠:
「……ありがとう……」
黒霧の残滓が静かに消えた。
くりむぞん えんど 番外編
ナレーション
そう……!!
完全にルシェルが空気を読んだのである。(爆)
【第78~80話の裏で起きていた真実】
ルシェル(心の声)
「……おいおい、ちょっと待て。」
「今、永瑠が『生きたい!!』って叫んで、 蒼真が『遅くなってごめんな!』って泣いてる……。」
「……これ、俺が割って入るタイミングじゃねぇだろ。」
「時間固定も、最終固定も全部準備してたのに……。」
「こんな感動シーンへ俺が突っ込んだら、 読者全員に──」
『ルシェル、空気読めなくて草』
「……って言われる。」
「いや、むしろ殺される……。」
──というわけで、静かに待機。
神楽タワー上部
ノア 「ルシェルさん、出番はまだですか?」
ノアは隣で体育座りをしていた。
ルシェルは遠くの二人を眺めながら苦笑する。
「……あぁ。」
「まぁ、今日はこれでいいか。」
【ルシェル本人の弁明】
「俺はただ、世界を固定したかっただけなんだ。」
「でも、あの二人が数億年ぶりに再会して、 泣きながら抱き合ってるのを見たら……。」
「さすがに"最終固定"を発動させる気は失せるだろ。」
「俺だって一応……。」
「……人の心はあるんだぞ。」
(ボソ……。)
ナレーション
第80話で完全に空気だったのは、
ルシェルが史上最高に空気を読んだ瞬間だったのである。
ルシェル……
お前……
最高の敵だった。
ノアは何も言わず、冷えたプリンを差し出す。
ルシェル
「……あ。」
「ありがとう……。」
「グスン。」
涙を流しながらプリンをひと口。
ノアは小さく敬礼した。
ナレーション
プリンは冷えている。
でも──
ルシェルの心は、少しだけ温かくなった。




