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第19話

「一つ、意見を聞きたい」

 

 状況の変わった教室の中で、木理矢が作業の手を止め、瞭の前に立った。

 

「なんじゃ?」

 

「もしも、全員が白い紙を顔に貼り付けたら。つまり、全員の容姿が無になったら、点数はどうなると思う?」

 

「面白い仮説じゃな」

 

 木理矢の意見に感心しながら、瞭は顎に手を当て頭をひねる。

 

「仮説一。全員が同じ顔と見なされて全員同点となる。仮説二。顔の大きさや鼻の高さと言った凹凸で点数がつく。仮説三。直前に認識された容姿で点数がつく。ってところじゃな」

 

「概ね、俺と同じ仮説だ。違うのは、俺の中に仮説三はない」

 

「ほう。それはどうしてじゃ?」

 

「仮説三が正しければ、顔の何割が隠れた時点で、直前に認識された容姿を判定に使用するというロジックが必要になるはずだ」

 

「そうじゃな」

 

「であれば、常時、顔を隠そうとしているものがないかを監視しているはずだ。その場合、お前がさっき行った、写真で顔を隠すという行為も検知され、南風子の元々の点数が反映されているはずだ。だが、死んだ南風子の点数は、写真に映る女の点数だった。顔を隠す行為は、検知されていない」

 

「顔を隠す行為は検知されたが、検知された後にあのブスの顔が写真の女の顔だと再認識された可能性はないんか?」

 

「なくはないが、普通なら大幅な点数の変動があると、再認識された点数の誤りと疑うように作る。顔を隠す行為を検知したがるくらい凝るやつなら、なおさらだ。よって俺は、純粋に授業終了時点の容姿を評価しているだけで、仮説三のような細かな設定はしていないと判断した」

 

「言われてみればそうじゃな」

 

 顔をマーキーで塗りつぶしていた生徒たちは、いつの間にか手を止めて、瞭と木理矢に注目をしていた。

 どちらも頭脳によって、デスゲーム中に提案をした者同士。

 デスゲームのルールが覆る可能性のある会話に、生徒たちは耳を傾けた。

 

 木理矢はあえて、全員に聞こえるような声で言う。

 

「そこで提案だ。ここにいる全員に白い紙を顔に貼りつけ、結果を待ちたい」

 

「ほう。その目的は?」

 

「仮説一を正とした、全員同点によるAIの誤作動を狙う」

 

「全員同点になれば、誤作動が起きる根拠はなんじゃ?」

 

「今まで、男子の点数も、女子の点数も、重複したことがないからだ」

 

 木理矢の言葉で、生徒たちが過去の点数を思い出す。

 が、誰もが自分が安全圏に入るため、自分と自分に近しい人間の点数しか意識を向けていなかった。

 誰もが、全ての男子、全ての女子の点数が重複していないと確信を持てなかった。

 ルッキズムデスゲームを、文字通りゲーム感覚で見ていた瞭を除いて。

 

「言われてみれば、そうじゃのお。男子の中にも女子の中にも、同点になったやつはおらんかったのお。あまり気にしとらんかったが。なら、AIが誤作動したらどうなるんじゃ?」

 

「理想は、AIの機能が停止して終わり。最悪は全員が撃ち殺されて終わりだ。だが、その可能性は低いと考えている」

 

「何故じゃ?」

 

「重複するが、点数が一度も重複していないからだ。AIによって行われている以上、確率的には一度くらい重複するだろう。だが、それをあえて避けている理由があるとすれば」

 

「なるほどのう。デスゲームのプログラムを作った人間が、意図的に重複を避けるようにしている理由。例えば、人間を撃つのに使っておるレーザーが、同時に二発までしか発射できないから、あえて同率一位を作れんようにしとると考えられるのお」

 

「俺も同意見だ。この予想が正しければ、全員が撃ち殺されることはない。悪くてせいぜい、ランダムに一人ずつ撃たれるだけだ」

 

「どうせ授業の終わりと共に二人が死ぬ。なら、ランダムに二人死ぬという最悪のリスクも、相対的に大きくはないという訳か」

 

 語られるのは、感情を置き去りにした純粋な生きるための施策。

 ルッキズムデスゲームの仕様の死角をついた生存戦略。

 木理矢の発言に、生徒たちの反応は様々だ。

 

 二軍以上の生徒からすれば、自分たちが死ぬ確率が高い状況を、ランダムという平等にまで引き戻すことができる。

 一方、自身の努力が介在できないという点に、二の足を踏む。

 

 三軍の生徒からすれば、何もしなければ二軍以上が死に、自分たちが死ぬことはないという状況を壊される。

 一方、二軍の生徒たちの顔を塗りつぶされるという作戦が続き、かつ三軍の生徒が真似をしても、髪形や輪郭だけで二軍よりも劣り続けられると断言できる材料はない。

 となれば、不利になるのはデスゲーム中に容姿を悪くする努力を怠り、どのように髪形を乱せばさらに点数が下げられるかを知らない三軍だ。

 

「いいじゃない! それ、やろうよ!」

 

 最初に手を挙げたのは、恋々だ。

 恋々は既に、自分の点数を下げることなど不可能だと思っていた。

 故に、自分だけが高い死ぬ可能性を持っている状況から全員が平等に死ぬ可能性を持つ状況に変わり、かつ上手くいけば全員が助かるという方法に飛びついた。

 全ては自分が生きるため。

 できれば皆がで生きるために。

 

「ぼくたちも、賛成……かな」

 

 木理矢のいる三軍の陰キャ組の二人、林平と森生も手を挙げる。

 陰キャ組で最も頭が良いのが木理矢であり、それ故、木理矢が大丈夫というならば大丈夫だろうという信頼の元、木理矢の意見に乗った。

 親友という立場も、後押しして。

 

 賛成三。

 無投票その他。

 反対ゼロ。

 

 変わり続ける状況に、生徒たちは悩んでいた。

 

 恋々という一軍の女子生徒が手を挙げた時、三軍の生徒たちは気持ちが反対方向に傾いた。

 一軍が賛成するということは、本来死ぬはずの一軍の生き残る確率が上がる提案、即ち三軍の死ぬ確率が上がる提案だと感じたからだ。

 しかし、直後に林平と森生という三軍の男子生徒が手を挙げたことで、三軍の生徒たちの気持ちが賛成方向に傾いた。

 理由は、恋々の時と真逆。

 

 結果、天秤はプラスマイナスゼロ。

 

「これはこれで、おもしろいのう。個人戦から、集団戦への切り替えという訳か」

 

 心が揺れ動く生徒たちの様子を、瞭は楽しげに見ていた。

 

 瞭にとっては、どちらに転んでも構わない。

 賛成になっても反対になっても、とっくに身の振り方を決め終えていた。

 故に、結末を見守った。

 

 木理矢もまた、提案者である自分がどちらかに肩入れすることで、木理矢にとって都合の良い裏があるのではと勘ぐられることを危惧して踏み込まなかった。

 すべては、生徒たちの意思へとゆだねた。

 

 秒針が、動く。

 時間が、進む。

 

「賛成、する」

 

「俺も」

 

「私も」

 

 昼休みが半分終わった十三時十分。

 一名を除いた生徒たち全員が、木理矢の提案に手を挙げた。

 

 積極的に賛成をする生徒もいれば、既に雰囲気が賛成に傾いていることに気づいた故の事なかれ主義的賛成をする生徒もいた。

 思いはどうあれ、賛成多数という結果は変わらない。

 

「後は、お前だけだ」

 

 木理矢は教室内全員の賛成票をもって、唯一意思表示をしていない瞭を見た。

 

 瞭はニヤニヤとした表情のまま木理矢を見て、その後に生徒たちの集まる方を見た。

 生徒たちの視線は、当然お前も賛成を選ぶだろうと、雄弁に語っていた。

 

 瞭は、待っていた瞬間がやって来たとばかりに、嬉々として口を開いた。

 

「こいつの提案には穴がある」

 

 嬉々として、場の空気をひっくり返した。

 

「全員が顔を隠したとき、確実に脱落を避けられるのは、直前で裏切って顔を隠すのをやめたやつじゃ。AIが人間の顔をベースに点数をつける以上、いくらなんでもブスとのっぺらぼうなら、ブスの点数の方が高くなるじゃろうな」

 

 瞭の言葉に、生徒たちの表情が固まる。

 自分が裏切れば確実に助かる、自分が裏切らなくても他人が裏切れば自分の死ぬ確率が上がる、そんな事実を認識して。

 生徒たちは無言で首を動かし、周囲の人間の様子を伺う。

 

 一致団結すれば勝てるゲームの弱点は、仲間への疑念。

 わざわざ疑念を落とした瞭に、木理矢は厳しい目を向ける。

 

「なんのつもりだ?」

 

「もし、全員が顔を隠す作戦で行くんじゃったら、わしは顔を出す。そうすりゃあ、わしは確実に生き残れるからのお」

 

「おい!」

 

 瞭の真意を確かめようと、木理矢が瞭に手を伸ばす。

 その手が届くよりも先に、力也の手が瞭の肩に乗った。

 

「どういうつもりだい?」

 

 力也の考えは、賛成。

 全員が生き残れる方法があるなら乗るべき、という立場だ。

 故に、木理矢の味方をし、瞭の敵となった。

 

 瞭は楽しそうに力也を見た後、力也の手を掴んで自身の肩から手を剝がす。

 

「わしは、ゲームがしたいだけじゃ」

 

 瞭はそう言いながら、近くにあった机の上に座った。

 

「わしに言うことを聞かせたいんなら、わしにゲームで勝ってみせろ」

 

そして、笑った。

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