表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

晩餐は空回る

 屋敷(やしき)の応接室らしき部屋へ通され、どうでもいい世間話を聞かされながら、色々と世話を焼かれる。派手派手な室内着を勧められたが、さすがに正体がバレるかと思って遠慮し、フードからターバン姿になるに(とど)めた。魔族が人間の晩餐(ばんさん)にお呼ばれした時の作法(さほう)なんて元々知ったこっちゃ無いし。

 そうこうする間に歓待(かんたい)の準備が整った様で、ダイニングへと通される。急ごしらえにしては豪華(ごうか)な料理の数々が並ぶ食卓。何より人間が造った人間用の料理というのが安心感が有る。

 町長とその奥方らしき女性が既に席に座っている。あの奥方が怒鳴り声の主だろうか、こちらも贅沢(ぜいたく)しているのが体型から分かる。顔付きはいかにもキツそうで、口うるさそうだ。

 と、反対の入り口から入って来るのは…ブランだ。ドレスアップとまではいかないが、さっき見た時とは見違える様に身支度(みじたく)が整えられている。こちらも(あわ)てて取り(つくろ)ったのだろう。事情も聞かされずに連れて来られたのだろうか、戸惑い気味でやって来た彼女は俺の方を見てあっと言う顔になる。そこで俺は、彼女の前に進み出て話し掛ける。

「あなたがブランさんだったんですね。」

「はい、そうです。貴方様は?」

俺は少し躊躇(ためら)う、しかしこれを伝えない訳には行かない。

「私は砦から来た使いの者です。チャーリー殿の遺言(ゆいごん)に従い、娘であるブランさんの現状を確認に参りました。」

「遺言…ですか⁈ それって…」

ブランの顔色が音が聞こえそうな程急激に変わる。

「はい。10日程前になります。生贄(いけにえ)としての役割を果たされました。」

(ひざ)からくず折れるブラン、うなだれて、何も言わなくなる。震える肩と、床を()らしていく涙に気付かなければ分からなかった程、声を殺して泣いているのだ。俺にはもう掛ける言葉が見つからない。(しばら)くは部屋全体の時間が止まったかの様だった。だがすぐに奥方に指示された召使(めしつか)いが2人程ブランに歩み寄り、介抱(かいほう)するかに見せて彼女を部屋から連れ出して行った、と言うかとっとと引っ込ませた。

御免(ごめん)なさい、あの子には気持ちを整理する時間が必要そうだったので、今は部屋で休ませる事にします。それはそれとして、晩餐(ばんさん)にいたしましょ。」

奥方に(うなが)され、町長が音頭(おんど)を取り、なし崩しな感じに晩餐(ばんさん)は始められる。ブランの悲しみなどすぐさま忘れ去られた。

 俺はと言えば、此処(ここ)に入って料理を見た時の"美味そうだな"と言う気持ちは何処(どこ)へやら、チャーリーの最期の瞬間の光景を思い出してしまって、元々無かった食欲が更に()え、ほとんど料理には手を付けなかった。

「人間用の料理はお気に()さんのかな?」などとズレた事を言いながら、それならばと町長はやたらと酒を(すす)めてくる。だから飲め無いっちゅうねん! それも気分では無いと遠慮して、最後にお茶を(もら)い、食事を()めさせていただいた。お茶はコーヒーと似ていたが、何だか薬みたいな苦さで、缶コーヒーが恋しいなあなどと思ってしまった。

 この時点でかなり遅い時間だったので、俺はもう休むと伝え、当てがわれた部屋に()させて(もら)った。

 部屋に入ったところで、これまで存在感を出さない様にしていたネビルブが口を開く。

「将軍様はあのチャーリーとかいう人間に随分と思い入れが有ったんですクワな。逃がそうとしていたのも本気だった様ですし、今またその娘にまで肩入れしようとなさる。」

「…………」

まあ、図星(ずぼし)で有る。返す言葉も無いとは正にこのこと。

「私としては……正直楽しゅうございますでクエ。(いや)な奴が(へこ)まされる場面に居合(いあ)わせる機会が随分多くなりましたんで、日々溜飲(りゅういん)が下がる思いでクエ。今回はあの小物の(くせ)に偉そうな町長夫妻を()らしめるおつもりでしょう? 私も何かお手伝いいたしましょうクワ?」

…こちらの心配を他所(よそ)に、案外(あんがい)ネビルブはノリノリだった。本当にこいつは(以下略)。

 お言葉に甘え、ネビルブに屋敷(やしき)内の様子をこっそり(うかが)って(もら)う。(あん)(じょう)俺の部屋は見張られており、そうするのに都合(つごう)が良い、逃げ場の無い配置になっている。そして町長達はと言えば、会議室らしき部屋に用心棒達と(こも)り、何やら密談(みつだん)をしている。まあ多分(ろく)な話では無いだろう。

 更にブランを探してもらったが、自室に(こも)って未だ泣いている様だった。自室と言っても物置を当てがわれているだけの様で、使っていない道具やガラクタが積まれている片隅(かたすみ)に、粗末(そまつ)な寝台が置かれているだけの部屋で、そんな部屋に不似合いな良い服を着たまま、今は声を上げて泣いているそうだ。

 念の為ネビルブにはブランの様子が見守れる所に()めていて(もら)い。俺は部屋の明かりを消して寝台に横になる。(なお)、魔神で有る俺の体は睡眠(すいみん)を必要としないし、明かりが無くてもある程度物が見える、と、言う訳で、完全に寝た振りを決め込むのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ