彼女が怒った
愛子が日本に戻るまであと2週間となった頃、愛子の仕事が完了した。
完了した、というのは研修期間が終了したって感じかな。要はもう日本に帰れってことなんだ。
公子が愛子の帰国日を知り俺達二人にディナーでも、とこの夜お誘いを受けたところだった。
俺はどうしても仕事がしたかったのだが、ジョンからも何度も何度も連絡が来たため遅れて登場することにした。
20分ほど遅れた頃だろうか、ジョンの住むマンションの前まで到着すると愛子がタバコを吸っている姿が見えた。
この時実は小さなケンカをして電話を切ってしまった後で、まさか愛子が待っていると思ってなかったし、何より茶色のブーツにミニスカート、薄着のカーディガンにあのアジアの顔がマッチしてしまった日にはどんなに気分が悪かろうと、どんなに愛子に切れていようが関係ない。
愛子の笑顔が目に入った瞬間、俺の怒りなんてどっかに吹っ飛んでしまうんだ。
そしてその夜は素敵なおもてなしを受け、楽しい時間も過ぎ俺達二人はまた冗談を言い合って笑い合った。
ジョンの家に聖書があったのでそれを愛子の目の前に差出し
「ジェイソンを本当に愛しているなら、聖書に手を置き誓いなさい。」
と冗談と半分本気で言うと愛子は笑って聖書に手を重ねて言った。
「誓います。」
「本当に神に誓いますか?」
「えぇ。神に誓います。」
どんどん俺の心が満たされていく。俺はまた調子に乗って
「あなたは神を信じますか?」
「えぇ信じます。」
「このキリストに誓えますか?」
「ただ私は仏教徒です。」
二人は吹き出して笑った。本当に天国にいるようで俺はこのじゃれ合いをただ続けていたかった。
しかし、何が起きてしまったのだろう。愛子は突然怒り出し、ジョンの家を後にして行ってしまったのだ。
俺は訳の分からないまま愛子を追いかけたがそこに彼女はもういない。電話をかけると愛子はもの凄く怒っていた。
「なんでそんなに怒ってるの?」
「今は話したくないわ。」
「本当に俺を置いていくなんてひどいよ。」
「あなたがそうさせたのよ。」
愛子の声は誰が聞いても分かるくらい怒っていた。俺は全く何をしてしまったのかさえ分からず、俺自身も愛子に対して怒りだしてしまった。
「なんで理由を言わないんだ。言ってくれよ。」
「私の愛を疑うなら一緒にいないで。」
「は?疑ってないよ!なんでそう言うこというの?」
「会うたびに『俺を愛してる?』って何度も聞かれて、『愛してるわ』と何度も答え、しまいには『いいや、君は俺を愛してない』って言われる気持ち分かる?
毎回よ!毎回!」
俺は身に覚えがあることを思い出した。正確に英語で説明させてもらうとこうだ。
俺:Do you love me?
愛子:I love you.
俺: Do you Really do?
愛子: I really do.
俺:Do you? Do you?
愛子:I do. I do.
俺:No you don't.
と、この綴りを毎回やっていたのは確かだった。しかも今さっきもジョンの家で聖書に近い合っていた後に同じ会話をしてしまったことも思い出した。
愛子は本気で怒っているようだ。
初めて愛子がFwords(悪い言葉)を俺に使い電話を切った。俺は動揺を隠せないまま愛子に何度も何度もかけ直した。数回かけ直したところで愛子は答えてくれたが未だ怒っている様子。
「愛子ごめん。俺は君に嫌な思いをさせる気はなかったんだ。」
「もう私は同じことを毎回聞かれることに疲れたの。」
「ごめん。ただ君の口からI love youを何度も聞きたくて・・・。子供過ぎたね。ごめん。」
もしかしたら愛子に嫌われてしまったのかもしれない。そう思うと胸が張り裂けそうになった。
愛子は大きくため息をついて俺に言った。
「ジェイソン。私が愛してると言ったときは信じて。
愛を疑われる程悲しいことはないわ。」
「まだ愛してる?」
「残念ながら私はあなたをもの凄く愛してるわ。あなたが思ってる以上にね。」
愛子の優しい声が俺の耳に響く。ワイキキの最も危険と呼ばれる道のど真ん中で俺は泣きそうだった。人前で何度も愛してるよを連呼したのは生まれて初めてだ。
愛子は俺にとって全てが新鮮で、全てが新しかった。