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思い出の角

あと2日で愛子に会える。

俺は仕事中に愛子のことばかりを考えて過ごしていた。この時ハワイはまだお昼12時ころ、日本は朝の7時だ。

愛子はいつも10時くらいにかけてくるから、まだ愛子が起きてくるまで時間があった。

やっと会えるんだ。そう思うとなんだかやけに普段と変わらないクヒオ通りが愛子との思い出でいっぱいに見えてきた。


一緒に歩いたこの道や愛子と止まないキスをした場所、愛子が切れて大喧嘩した場所や俺が大泣きして愛子に抱きしめられた場所など思い返してみれば長く付き合ってない僕たちだけど、こんなにも思い出があることに気付かされた。

この日は愛子が元住んでいたコンドミニアムの近くまで仕事で歩いて行った。

というのも俺の友達の一人が愛子の住まいの近くに住んでいたため帰り際に寄ろうとしたのだ。

そいつの家の角に差し掛かったころ、俺は目まぐるしくも夜中に酔っぱらって愛子を呼び出し、この家の角で膝まづいたことを思い出した。


あの日はトラブルがあったんだ。

仕事先で酔っぱらった男が俺に喧嘩を吹っ掛けてきて、俺は何度も止めたがあまりにも馬鹿にされたんで表に呼んだんだ。

男が表に来いって言ったってことは誰もが分かるだろう。俺はソイツを殴り、ソイツはあんなにはっぱ掛けてきたにも関わらず1発でダウン。

そしたら警察がやってきて俺はそこから一目散に逃げたって訳。案の定、意識を失ったソイツは捕まってたよ。これがアメリカなんだ。


何はともあれ、俺はそんな状態で愛子に電話をし外に呼び出した。

今思えば迷惑な話だ。この時すでに夜中の3時は過ぎていたのだから。

愛子はすっぴん眼鏡姿で黒いガウンを首に巻き、足首まであるタイトなロングスカートを吐いてきた。

一瞬前からお姫様が来るかと思ったんだ。


「もう!今何時だと思ってるの!?」


愛子は怒ってた。

だけど酔っ払っていたせいもあるが、俺は目の前で怒る愛子が愛しくて愛しくて仕方がなくなってきた。


「愛子~愛してるんだよ~。」


「私も愛してるけど、酔っぱらってるじゃない!」


「酔っ払ってなんかないよ~。」


誰がどう見ても酔っぱらいです。

俺は帰りたがる愛子の手を引っ張っては何度もしつこいくらい抱きしめてキスをした。

いつも通り愛子は「しすぎよ!」と離れようとしたが、この日の俺は愛子を愛してる率が100%を超えてしまい、俺自身も制御できなくなっていたのだ。

そして近くの俺の友達の家の角まできたあたりで愛子は俺から少し離れ言った。


「ジェイソン。今日は帰りなよ。タクシー呼んであげるからさ。」


「何で!帰って欲しいの?」


「だってベロベロじゃない・・・。」


「いやだよ!帰らない!愛子は俺を愛してないの!?」


今思えばしつこいガキだよなぁ。

特にこの時は酔っ払っていたから愛子からの愛が必要で必要で仕方がなかった。


「ねぇ!愛してる?

 永遠に愛してる!?」


「ええ。だから帰って。もう遅いから。」


「やだよ!なんで!

 俺がこんなに愛してるの知ってるの!?」


俺もやっきになり始めた。


「こんなにも人を好きになるなんて・・・愛子は知ってるの?

 俺は・・・俺は・・・」


すると俺は自然と片ひざを地面につけたのだ。

愛子は片手で口を抑え「何をしてるの?!」と言わんばかりの表情を見せた。

知ってる人は知ってると思うがアメリカではプロポーズをするとき、片ひざを地面につけてするんだ。ただ通常は婚約指輪を持ってるはずなんだけどね。


しかしさすがに俺も自分の行動に一気に酔いが覚めた。

ただ気持ちに嘘はない、って思ったし結婚指輪がないことだけが嫌だっただけなんだ。

だけど俺の口から出たのは


「愛子、俺がどれほど君を愛しているか分かってほしい。

 本当に本当に心の底から愛してるんだ。

 プロポーズは指輪を用意してからするよ。」


すると愛子はまたいつもの笑顔になった。

眼鏡越しの目が俺を優しく見つめ、膝まづく俺の頭を撫ぜて言った。


「愛してるわ。ジェイソン。

 あなたに出会えて私は幸せよ。」


「愛子・・・。」


そして感傷に浸っていると愛子は酔っ払ってる俺を立たせ大通りに連れて行った。そしてタクシーを道端に止め俺の背中を押してタクシーに俺を詰め込んで言った。


「明日の朝、今夜のこと忘れてないことを願うわ。」


と笑った。


「忘れないよ!」


そしてドアを閉めると愛子は笑顔で俺に手を振った。黒いガウンが見えなくなるまで俺は愛子を眼で追った。

愛子はタクシーが見えなくなるまで手を振っていた。


そんなことを不意に思い出していると、なんだか無償に愛子の声が聞きたくなり電話をかけようとダイヤルをした。

そして一回目のコールのときにキャッチが入った。愛子だ!


「愛子!今俺かけてるんだよ!」


「えぇ?あっ本当だ。あはは。同じタイミングね。」


俺と愛子は笑った。

こんなに遠くに離れていてもなんだか近くにいる気がして、嬉しくて笑った。

愛子に会えるまであと2日。どうか明日は喧嘩になりませんように。

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