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タイミング

遠距離も大分実感が湧き始めたのは2週間程経ってから。

喧嘩もするけど、いつも仲直りができたし俺達は結構うまくいってた。

ただいつも電話を1時間おきくらいにかけてくれてた愛子は、今は一日4回くらいしか電話をくれなくなった。

今までだって、俺がかけてって頼んでかけてもらってたから、今思えばこのころから電話をしたくなかったのかもしれない。

そんなことを微塵も思わず、毎日愛子の電話を待つ俺。

今は国際電話カードも買ったから俺からもかけてるし、結局かなりの回数の着信をいれてると思う。


ワイキキにいる奴らのほとんどが俺の知り合いで、ということはほとんどの奴らが愛子のことを知ってる。

俺と愛子はワイキキでは公認の仲ってことだ。

そうなると俺が電話をしてると通り過ぎる奴らが


「さびしいよ~帰ってきてくれよ~。」


と通り過ぎる度にからかってくる。

うざいと思いながらも嬉しく思ってしまう俺もいた。


そんなある日、不思議なことが起きた。

恋愛に大切なのはタイミング、そんな話をしていた矢先だった。

ハワイに俺が移ってから初めて、父さんから夜中に電話が入った。

俺は愛子と電話中で、一度電話を切ってから答えた。正直また母さんに何かあったんだと思ったんだ。

結局何もなく、普通の電話でただ俺のことが心配になってかけただけらしい。

拍子ぬけだったが愛子がこの後心配して何度も電話してくれたことに全く気付かないでいた。


「大丈夫だったの!?」


やっと気づいて出たら怒られるかと思ったけど愛子は本気で心配してくれていた。


「もぅ。待ってる間、すっごく怖かったんだから。」


俺も怖かった。また母さんの容体が悪くなったのかと思った。


「でもジェイソン。あなた幸せ者ね。」


「なんで?」


「だってこんなにもあなたのことを心配してくれてる人がいるんだもん。

 お父さんにお母さん、お姉さん方そして私。」


「本当だ。俺って幸せ者なんだね。」


俺は愛子の考え方が好きだ。

彼女はいつも物事を感謝に変える力を持ってる。


「でもなんでこんな不思議なことが起こったのかな?

 父さんが夜中に電話をよこすなんて、今までだって一度もないよ。」


本当に不思議に思った。なんでこの時期なんだろう、って。

すると愛子は電話越しでタバコを吸っていたのだろう、煙を吹く息が聞こえた。

そして言った。


「たぶん、そういう時が来たんじゃないかな?」


「そういう時?」


「何かが変わるとき、周りも自然と変わったりするじゃない?

 その時が来たんだよ。きっと。」


「俺が変わったの?」


まだ俺は愛子の言ってる事がよく分かっていなかった。


「う~ん。例えば・・・もし私たちが6ヶ月前に知り合ってデートをしても

 きっと私たちは恋には落ちてなかったんじゃないかな。

 タイミングが合ったから今こうやって愛し合えてるんだよ。」


「なるほど。」


「私達のタイミングが合って、今までお互い結婚を意識してなかったのに

 今じゃ本気で意識してるって事は、そういう時がきたんだと思うの。

 そして周りも同時に変わってくるんじゃないかな。」


「う~ん。」


「私たちが変わったように周りも変わってくるのよ。

 だからきっとお父さんがあなたを心配するような『時』がきたんじゃないかな。」


愛子はとても頭のいい女で、難しいことも俺に分かるように説明してくれた。

しかも第二ヶ国語の英語でだ。そこが俺が愛子を好きな理由の一つでもあった。

愛子は時間を神聖なものに変えてくれる。


「愛子はすごいね。」


「まあね。清純だから。あはは。」


「いや、それだけは認めないけどね。」


「何それ!」


どんな時間だって笑いが溢れる。

愛子ってすごいでしょ。はは。


と幸せな時間を過ごし俺はまた電話を切るときになって「20分後にかけて」と言った。

このあと、この幸せな時間が嘘だったかのように「タイミング」の罠にかかってしまう。


それは20分後。

俺は友達と話していて愛子の電話にまた気付かなかった。俺からかければいいって気持ちがどこかにあったのかもしれない。

そのまま帰り道も携帯をポケットに入れたままにしていた。

どれくらいたってからだろう、愛子から電話が入った。


「何回もかけたんだけど・・・。」


どうもまた愛子は怒ってるようだ。


「気付かなかったんだ。ごめ・・・」


その時、バッテリーが切れてしまった。

これはまずいと思い家に急いで帰ったが、今家にはもの凄い人数の奴らが泊っていて話もできない。

そこで俺は少しの時間充電し愛子に電話をした。


「今E-Mailを書いてたわ。」


愛子の第一声はこうだ。


「どうしてかけてって言っておいて電話に出ないの?」


「バッテリーが切れたんだよ!」


「違う。その前よ。20分後にかけてっていったのはあなたじゃない。」


「かけた?鳴らなかったよ?」


「かけたわ。10回もね。

 やっと出たと思ったら切られるし。」


「だから切ってないよ!

 充電が切れたんだよ!」


「どうして充電が切れた後も呼び出し音が聞こえるのよ。おかしいじゃない。」


「え?そんなの分からないよ。」


「じゃあ、私も分からないわ。」


どういう事だ。二人の話のつじつまが合わない。

俺はそんなに愛子が電話してきたことも知らないし、携帯もそんな着信履歴があったなんて表示してなかったぞ。

しかし愛子が嘘をつく訳もないし、俺もついてない。

しかも電源が切れた後もも呼び出し音が何回かけても鳴っていたらしい。


「本当に俺を信じて。嘘なんてついてないよ。」


この時既にハワイは朝の5時過ぎ。

そして愛子は胸に突き刺さる言葉を言った。


「分からないわ。

 だって最近この時間帯にあなたの充電がよく切れるからね。」


と、その時また電源が切れるとい始末。

その後俺は急いで充電をし直したが数人がリビングルームで寝ていたため音を立てないように静かにしていた。

1時間程たってやっと電話をしようとすると、今度はSIMカードの不調か電源すらつかない。

何度も取っては入れて取っては入れてを繰り返し、やっと愛子につながった。

このころはすでに朝の6時半。

俺の携帯に対しての怒りがほど頂点あたりまできていたので、やっと繋がったのにも関わらず、つい愛子にきつく言ってしまった。


「今、携帯にムカついてるから、変な疑ってるような質問はやめて。」


愛子は何か聞きたそうだったけど言葉を濁した。

俺の怒りは収まらない。


「もうマジで頭にくるよ!このクソ携帯が!」


「ジェイソン。もう寝れば?」


「嫌だよ!やっと繋がったんだから。あぁ!まじムカつく。」


俺がイライラしていると愛子は優しい声で言った。


「じゃあ良い事だけ考えてみようよ。」


「どうやって?!」


また強い口調で言ってしまった。

しかし愛子は気にせず優しい口調で続けた。


「想像してみて。毎晩私があなたの腕の中で寝て、毎朝あなたが私の腕の中で目を覚ますの。

 そして毎朝、毎晩キスをするの。

 考えただけで幸せになれない?」


もう言われた瞬間から俺は幸せになった。なんて単純なんだ。


「愛子・・・。

 君はお姫様だよ。」


「あはは。じゃあ奉仕してもらわなきゃ。」


また俺のムカついた心に光がさした。

その時はあまり考えてなかったけど、こうやって思い返すと俺はどれだけ愛子に我慢させてきてしまったのだろう。

俺は自分の意見だけを考えて、愛子の話に耳を傾けてあげれてなかった気がする。


そしてこの夜、またもや話の途中で携帯の電源が落ちるという事件が起きたが、もう俺達は大丈夫。

きっと愛子は安心して寝てくれたに違いない。

そして俺はまた携帯にムカついて、男4人で一つのリブングルームで寝るんだ。

携帯の画面に映る愛子の写真を思い出しながらブランケットを抱いて寝た。


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