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心の距離

二日酔いの次の日はもの凄く調子が悪い。

大抵の人は同じだと思うが、俺は人一倍気持ちが悪くなる。

なんでそんなことを言えるのかって言うと、実は胸のあたりに持病があり毎日薬を飲んでいた。

ものこの薬を一日でも欠かしてしまうと、朝から吐いたり寝込んだりとひどい状態になってしまうからだ。

それプラス二日酔いだと、もう死にそうになる。

じゃあ飲むなって?分かっているけどやめられないのが男って生き物なんです。


とにかく俺が目が覚めたのが夜の7時近く。もちろん携帯には愛子からの着信があった。

留守番電話にメッセージも入ってる。内容はこうだ。


『ジェイソン。今私はおじいちゃんちに来ているの。

 おじいちゃんにあなたのことを話す前に安心したくてあなたに電話をかけたんだけど

 昨日の夜から電話は通じないし、あなたが何をやってるかも分からないわ。』


愛子がもの凄く怒っていることが明確になった。

そして俺はそのまま、またグタグタと家で休んでいると愛子からまた電話が入った。


「ジェイソン。あなた何やってたの?」


「もの凄く酔っ払って帰ったのが6時半だったん。」


愛子は怒ってた。

電話を待っててもかかってこないし、メールもこないしと言いだしたので、携帯の充電が切れた事、国際カーゴがないから掛けられなかったこと、そしてパソコンに電源を入れても画面が表示されなかったことを一通り説明した。

しかし愛子の機嫌は収まらない。

そして俺は愛子は俺が浮気したと思ってるんだと思い、またついカッとなって


「ふざけたことなんかしてない!」


と言ってしまった。

しかし愛子に伝わったのは


「ふざけたこと言うな!」


と伝わってしまったのだ。

ここが言葉の壁。

そんなことに俺は気付かず、愛子は「もう分かった。」と言って電話を切った。

俺自身もむかむかしてしまい電話をかけ直しもしなかった。


それから1時間ほどたったころ愛子が電話をかけてきた。


「話しがあるの。」


始まりはこうだ。

たいていこういう始まりの時は別れだ。俺は多少ドキっとしたが今回の件では俺は折れるつもりがなかった。

そして愛子は言った。


「距離が欲しいの。」


はぁ?

俺はポカンとしてしまった。


「俺達はすでにハワイと日本という距離があるよ。」


「そうじゃないわよ。精神的な距離。」


「俺に電話をかけてない時、既に距離じゃないか!」


俺はむきになって反論した。


「あなたの事が分からなくなってしまったの。」


この言葉がさらに俺をカッとさせた。


「愛子は別れたいの?!」


返事がない。

強くもう一度聞いた。


「いいえ。」


愛子は涙声で言った。


「さっきあなたが何て言ったか覚えてる?

 『ふざけたこと言うな。』よ。

 そんなことを言われたら私はあなたに何も言えないわ。」


「そんなこと言ってないよ!」


「言ったわ。、私を馬鹿にしてるの?

 英語が分からないと思って話を変えないで。」


「本当にそんなこと言ってないよ!」


俺達はどんどん強く言い合いになった。

そして愛子はこれまでのストレスが爆発したように言った。


「今日はおじいちゃんにあなたを話す凄く大事な日だったのに

 あなたは電話にも出やしない。」


「だって二日酔いだったから。」


「どんな思いで一人で将来のことを祖父に話すか分かる!?」


「仕方ないだろ!年越しで大きなパーティーだったんだから。」


愛子の怒りはさらにエスカレートした。


「その上、心配かけてごめんねも言えないの!?」


カチンと来た。

そして俺はつい言っちゃったんだ。


「何に対して詫びればいいの?」


愛子はものすごくショックだったと思う。

しかしこの時の俺もムカっとしてしまいつい大きな声で言ってしまったのだ。

そして愛子は数秒黙り込み言った。


「もういいわ。」


無言が電話に走る。

俺の中でどんどん別れに対して怖さが湧き上がってきた。

これは別れなのか?愛子は別れを選ぶのか?

親にまで紹介し、本気で愛して結婚まで考えてた女とこんな喧嘩で別れるのか?

俺は怖さと不安で胸が押し潰されそうになった。


「ごめん。ごめんなさい。」


俺の口から自然とこぼれた。

愛子から返事がない。


「愛子・・・。心配かけてごめんなさい。」


「・・・分かった。私もごめんなさい。」


二人はお互いに謝った。

こんなことは今まで一度だってない。

女と喧嘩した場合、どんなに好きな女でも俺のやることに対して文句を言われるとカッとなって別れたり、喧嘩しても置いて帰ったりとひどいことをやってきた。

しかし愛子の場合は違った。

日本にいて、しかも本当に帰ってくるか分からない女にまるで縋るかのように謝った。

だって本気で嫌だったんだ。

愛子が俺から離れていくことがさ。

だったら喧嘩する前に気づけって感じだよな。俺はそんなに頭の回転がよくないんだ。


その夜はなんとか普通に戻り、愛子の機嫌も直り俺達は電話を切った。

そして、この次の日から愛子からの着信が急激に減ったんだ。

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