突然の知らせ
愛子が帰国まであと3日。
俺達二人はホテルを取って最後の3日間は一緒に過ごすことにした。愛子は荷造りをしルームシェアしていた日本人のお母さんに挨拶に行き、俺はそのあと手伝いに向かった。
ルームメイトの人はカルフォルニアに20年以上も住んでいた女性で名前は理子さん。いつも愛子が理子さんの話をしていたし俺も彼女に会うのは2回目だった。
理子さんは本当に愛子を自分の子供のように接してくれ話を聞いてくれたり、ご飯を作ってくれたりととてもいい人だ。
俺も愛子の第二のお母さんとして接していた。
愛子の荷物を全て運びホテルへと向かうと俺の気持ちが高まった。とうとう俺達二人だけの空間ができたんだ。
愛子がホテルのカウンターで予約を取っている時だった。俺の携帯が鳴った。父さんだ!
やっと愛子と父さんが話す機会ができた。俺は愛子に外にいるね、と合図をし電話に出た。
「父さん!よかった!愛子が帰国する前に二人に話してほしかったんだ!」
「ジェイソン。今はそんな気持ちになれないんだよ。」
「なんでだよ。愛子はもう帰っちゃうんだよ。今いるからちょっと待って。」
「母さんが癌で運ばれたんだ。」
俺の携帯を持つ手が震えた。母さんが癌・・・?
俺は父さんから事情を聞くと、なんと母さんはずいぶん前から体の不調を訴えていたらしい。そして今度の火曜日が大きな手術となるそうだ。
するとホテルの予約を終えた愛子が笑顔で俺に近づいてきた。俺は愛子を見ると小声で言った。
「母さんが癌だって・・・。」
愛子の表情が曇った。俺の肩に手を回し優しくさする。
でもどうしても父さんと愛子に話をさせたかったが、父さんはそのまま電話を切ってしまった。
「ごめん、愛子。父さんも今は話せる状態じゃないって。」
「いいのよ。そんなことよりあなたは大丈夫?」
「ああ。」
頭の中がグルグルだ。せっかく待ちに待った二人で過ごせる期間の始まりがまさかの知らせ。
愛子は俺の肩を抱き抱えながら部屋へと入った。
そこには大きなキングサイズのベットが一つと机とイスが二つ、シャワールームとトイレは中国製なのか中国を思い出させるような絵が描かれていた。
中に入るなり俺はベットに大の字で横たえた。仕事に行かなくては。だけど力が出ない。
「母さん死んじゃうの?」
「絶対そんなことないわ。」
母さんはまだ若いのになんでこんなことになってしまったのだろう。毎日電話をしていたが、少しもそんな素振りを見せなかった。
俺は連日続きの疲れのせいか、いろいろなことで頭がいっぱいになった。そして倒れこむように眠りに入り気づいたら夕方になってしまっていた。
愛子は一度お世話になった先輩のところに挨拶に行くね、といいホテルを出た。そのあと俺も少しの間だが仕事に出かけた。
叔父からも電話があり母さんの容体は良好で手術もそんなに大きくならないらしく、なんとか俺も安心ができた。
その夜、俺は愛子と外で待ち合わせをし最後だからと二人で飲みにでかけた。
行きつけのバーは今日もお客さんでいっぱいで愛子も疲れていたようだ。早くホテルに帰ろうと言った。
俺たちはいつもと違う道でまた冗談を言ったり面白ろおかしく話していると、愛子が突然こう言った。
「ねぇ。何か歌って。」
「俺は歌は苦手なんだ。愛子が歌ってよ。」
前に何度か愛子が歌をくちづさんでいるのを聞いたことがあるが、彼女の声はすごくいい。本気でもう一度聞きたいと思い道端で歌ってと頼んだ。
恥ずかしがる愛子がまた可愛いくて嫌々言う愛子の前に座り込んだ。
「ねぇ日本の歌でいいから歌ってよ。」
「恥ずかしいわ。」
「恥ずかしくないよ。俺のために歌って。」
すると愛子は小声で歌い始めた。もっと大きく、もっと大きく。愛子の声がワイキキ中に響くように。
彼女は短い歌を僕に送った。
「どういう意味の歌なの?」
愛子は照れたように俺の前に立ち言った。
「世界中にこんなにたくさんの人がいるのに、あなたと出会って恋に落ちて同じ気持ちになれたのに会えない。けど会いたい。って歌よ。」
なんて素敵な女性なんだろう。俺はため息をもらし愛子を抱きしめた。
「じゃああなたの番。」
「こんなとこで歌なんか恥ずかしくて歌えないよ。」
俺と愛子はまた笑い合った。
ホテルも用意してあるのに、俺達はまた夜中まで二人で道端で飽きるほど話をした。
愛子がいなくなるなんて考えられない。愛子がいなくなるなんて絶対に嫌だ。
だけど臆病な俺は「今すぐ結婚しよう」のこの一言がどうしても言えなかった。




