出会い
とことんついてない日は本当にやってくる。
結婚の約束までした彼女を待って、空港で早3時間待っている哀れな男が主人公だ。
両親の挨拶まで終わり、あとは彼女が俺の国までやってきて本格的に同棲生活が始まる予定だった。
自己紹介が遅れたが、俺はアメリカ生まれのアメリカ人。憧れの土地ハワイで暮らしている28歳の男で名前はジェイソン・コリン。
彼女は日本人、名前は「中村愛子」。
俺と愛子は俺の知り合いの奥さんの紹介でたまたま知り合った。
俺たちの関係はまだまだ新しくて、他人から見たら頭がおかしいのか?なんて思われてしまうけど、俺は本気で愛子という女に惚れて早くも結婚の約束までしていたのだが、
今は一人寂しく右手に手紙、左ポケットには用意した婚約指輪を仕込んで出国出口でたたずんでいた。
俺たちは1、2ヶ月程の遠距離恋愛をし、とうとう今日が愛子がまたハワイに戻ってくる日だった。
しかし愛子の到着時間からとうに3時間は経過し、未だに俺の携帯は鳴らない。
何かトラブルでもあったのかと既に数十回程空港に問い合わせたが、日本からの飛行機は無事に到着済みだった。
信じたくない。信じたくないが、本気で将来を考えた女にとんずらされたみたいだ。
持ってきたタバコはあと残り3本。
あまり吸いすぎたらまた愛子に怒られるな、なんて考えたものの愛子はもうここに戻ってこない。
なんてひどい終わり方だろう。
俺は重い腰を道路側にある石でできたベンチにおろし、残りのタバコに火をつけた。
握りしめた手紙はこれでもかってくらいグシャグシャになって、愛子がハワイを旅立ってから毎日毎日考えて書きぬいた長編ラブレターは悔しくも行き場をなくしたのだ。
愛子にとって俺の初めての印象は「軽い男」で、あまり俺には興味がなかったようだ。俺の愛子への印象は一言で言うとワオ、だった。
愛子は信じてはくれなかったけれど、初めて会ったときから俺は何か不思議な気持ちになったんだ。
その時の俺は不運にも携帯をなくし誰とも連絡がつかない状態で、普段から携帯に依存してない俺にとって
はあまり大きな事ではなかったのだけれども、今でも後悔してるのはあの時俺が愛子に電話をかけてあげれたら愛子はあんな辛い思いを
しなくて済んだのに、ってことだ。
初対面の時から2、3週間程たった頃、友人宅のパーティーに行った時たまたま愛子がまたそこにいた。
正直に言っちゃうと、そのパーティーに呼ばれる前に俺は友人からこういう電話をもらったんだ。
「お前日本人の女とやりたいか?」ってね。
俺も男だからつい「うん。」なんてまぬけな返答しちゃったけれど、誤解のないようにいっておくが俺は本気でそんな下心があって行ったわけじゃないんだ。
石段に座りながら待っている君を見た瞬間、俺の下心なんてどっか吹っ飛んで行っちゃったんだ。
愛子はかなりアメリカに慣れた様子で、俺が肩に手を回しても腰に手を回しても表情一つ変えずに俺の目を見て話しては、見たこともないような可愛い笑顔を俺に向けた。
もっと愛子の顔を見てたくて、君を両ひざに乗せて顔を近づけたらいつの間にかキスしちゃったんだ。
それでも君は表情一つ変えずにキスを受け入れて、周りがからかう中俺達は何度も何度もキスをした。
君にとっては「軽い男」とのキス、それだけだったかも知れないけれど、俺にとってあの瞬間は何かが始まった気がしたんだ。
一言断っておくけれど、俺は結構なイケメンだし頭もいい。
女を落とそうとしたことは一度もない。だって女の方からやってくるから後は持ち帰るってだけのこと。
俺の友達は俺のことを知ってるから、またジェイソンのやつ女捕まえてるよ、ぐらいに思ってたと思うけど、今回はまんまと愛子にやられてしまったんだ。
俺と違った顔だちをしたアジア人のこの女が、キスの後にくれた笑顔で俺の心を奪ってしまったんだ。
俺は友人もパーティーのことも気にせず愛子にキスをし続けると、とうとう愛子がキスを止めて
「ジェイソン、とりあえず飲もう。」
と黒く長い髪を肩耳にかけながら俺を見つめ言った。
俺はぐっと自分を抑えて愛子にビールを手渡した。
もう夜中の0時を過ぎて、20人くらいいる奴らのほとんどはベロンベロンに酔っぱらい訳の分からないことを口走り、愛子と知り合いの嫁(公子)は日本語で
会話を始めた。
俺はもっと愛子と話がしたくて何度も公子の旦那を呼びに行ったが、どうもこの二人は既に愛は冷めてしまっているようでジョンはまったく公子を気に止めていない。
会話の邪魔をしたい訳ではないが、目の前に移る愛子にどうしても気が行ってしまい無理やり会話に飛び込んだ。
「ねぇ、愛子はどれくらいハワイに滞在してるの?」
「1年ちょっとよ。」
「え!?そんな訳ないだろ!
学生とか?」
「いいえ、学校なんて行ったことないわよ。」
俺は目がテンになった。
だって愛子の英語はほぼ完ぺきで文章もそうだが、発音も上手かった。
「じゃあどうして君はそんなに英語が話せるの?!
1年なんて考えられないよ!」
「本当に?嬉しい。ありがとう。」
また俺の心のボルテージはあがった。
そのあと俺たちは数人の友人達と一緒に近くのCLUBに行くことになったが、このCLUBで俺は完全に愛子にはまってしまったのだ。
もともと音楽やダンスが好きな愛子は俺と一緒に飲んでは踊り、小さな体を音楽に乗せ会話を楽しみ、数えきれない程のキスをした。
CLUBの中は混んでいて知り合いや友人で溢れかえっていたが、俺はそいつらに目も向けず目の前のjapanese girlだけを見続けた。
「君は一人暮らしなの?」
「えぇ。」
「君の家に行っていい?」
いつもの誘い文句のように愛子を見つめ、そっと囁いた。愛子はニコっと微笑み俺の頬に手をかざして言った。
「ダメ。」
俺は予想外の反応に酔いも吹き飛びもう一度聞いた。
「え?どうして?
君と一緒に過ごしたいんだ。」
すると今度は俺の頭を撫でるように手をかざし、今度は白い歯を見せ笑顔で言った。
「ムリ。」
そして愛子は飛びきりの笑顔を残しCLUBを後にしたのだ。これが俺が愛子に惚れた夜の話だ。
この時ものすごく酔っ払っていたのは確かだし、軽い発言をしたことも認めるが愛子の対応には正直驚かされた。
携帯のない俺は愛子に電話をかける術もなく、何度か友人の携帯を借りてデートに誘ったが答えはいつも
「忙しいの。」で終わらされた。
女に困らない俺はこの時気持ちを切り替えて、いつもの軽いジェイソンへと戻り愛子との縁はほとんど途絶えてしまったのだ。




