表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

#2 異能


眼の前の光景に呆気を取られた僕は、ドライヤーいる?と、まったくいらなさそうな乾いたつやつやの髪をなびかせたルータに聞いていた。

「ドライヤーって何?」

予想外の返事で我に返る。そうだ、この子は常識が通用しない。

僕は、この突風に一つの可能性を感じていた。

逃したくない。

この子には、きっとある。

僕にもある異能の力が。



急いで入浴を済ませると、テレビの前にルータは居なかった。子供なんだし、と勝手に思って勧めたが、つまらなかったのだろうか。選択を間違えたと冷や汗が一瞬、すぐにルータの声が聞こえて、僕は内心ほっとした。

「待たせてごめ…」

ルータは出窓に置いたサボテンに、カップいっぱいの水をあげようとしていた。

「ちょ、ちょちょちょ」

「?」

「水」

「サボ丸が欲しいって」

あれ?どうしてサボテンの名前を?

寒くなってきて生育期を過ぎたからと乾燥気味に管理していた。

時々「サボ丸」と 呼んではいたけど…。

僕はあえて黙った。

何かサボテンと会話して、ニコニコと笑っている。傍から見れば、子供の可愛らしい行動だが、僕にとっては違う。

次は何だ。どんな力だ?僕の心でも読めるのか?

「ルータ君何か飲む?」

「水ほしい」

「いいよ。ちょっとおいで」

キッチンに招き入れる。コップを持たせるのを注視して見ると、ほんの少しだが、彼の手に吸い寄せられるように見えた。

「うわー!水もうまっ!」

それ以外、変哲も無い。

僕の知っている異能のある人間は、皆その能力を隠そうとする。けど彼は、ひけらかすつもりもなければ、隠すつもりもない様子だ。

「あ、そうだ。りんご食べるかい」

「食べる!」

今度は、カマをかける。

りんごを剥くと言っておきながら、取り出すのはバターナイフだ。それに力を込める。数回りんごの表面を撫でると、少しずつ変形して、僕の思う「ナイフ」の形になって。

それを知らん顔して使うのだ。

(…………見てすらない…)

僕の作戦は失敗に終わって、既製品のようにはいかない歪みのあるナイフで切られた不格好なりんごが出来上がった。



今度こそテレビに釘付けのルータ。それを廊下からこっそりと覗きながら、僕は通信機を起動する。

【やあ。随分遅くだね】

「…失礼します、ヴォーリントン少将」

かつて一度も使用したことのない、極秘の通信だ。

おそらく僕のような下っ端が、少将と個人的に繋がっているとは、誰も知らない。

【君からの連絡ということは、見つかったのだね?】

「はい。明日連れていきますが、衣服がボロボロなので…」

【揃えてから来なさい。あの頭の硬い大佐には私から伝えよう】

「ありがとうございます」

【護衛はいるかね】

「要りません。子供です」

【ほう…ああ、領収書を切ってくるのを忘れるな】

そう告げて、通信は途絶えた。

僕は、一番いいやり方を知らない。これが、正しいと信じて進むしかない。

「ルータ君…」

テレビを見ていると思っていた後ろ姿だったが、まわり込んで見れば、瞳を閉じてうつらうつらしていた。

(ごめん)

売るような真似をすることを、許してくれ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ