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英雄誕生

彼の体は蝕まれている。終生解けないとされている強力な呪いによって。

余りにも強すぎるせいか、他の呪いは受けないし、生きるのに必要な感覚が鋭敏になり、彼を死なせないように今のところはいかなる敵にも立ち向かえる力をくれる。

ただし力を振るえば振るうほど彼を蝕むのだ。どのように蝕むのかは彼が見せたがらないので不明だが、聞こえるだけであの苦しみようだ、当然のように辛く、惨いものだろう。

しかし王国や教皇は言った、彼こそ救国の力を賜った英雄だと。

とある事件で祝福が発覚した頃から齢十二までの短い間、ただの騎士見習いとしては余りにも過酷な教育を施し、彼の育ての親を質としてただ一人で旅立たせたのだ。

どうしてただ一人なのか、識るものは全てを理解していた、祝福と呼べど彼のこの力は明らかに死に至る呪いであり、介添えにあてられる人頭などありはしなかったのだ。

彼はただただ戦い続けた、はじめのうちは勇者を名乗る狂人としてふらりと現れとは魔を狩り落とし、知らぬ間に消える。消えるのは悶え苦しむ様を人に見せられないからだ。

たちまち王国内では噂になったがただの人間の手ではようとして足取りは追えず仕舞いだった。


一方で私は、幼馴染である彼が騎士見習いとして都に連れていかれたことだけは知っていた。

私も彼を追い、都へ伝手を頼りに僧侶の見習いとして向かった。勤めて3年も経ったら知らぬ間に放逐されるかのように勇者が旅立っていた。

私はどうにか伝手を頼り王へと文を書き、未熟ながらも王家の御印と教会の証文を携えて同行の願いを聞き届けてもらうことができた。

伝手を手繰るに腐心した割に案外あっさりと聞き届けてもらえたのは少し意外だったが…。

幼馴染である彼の行動は読みやすかった、噂では姿を消すところまでがセットだったが、案外さみしがり屋なので、魔物退治が済んだ歓喜の宴の裏でその喧騒を幸せそうに聞いていた。



俺の体は蝕まれている。奴らが祝福と言い張るこの呪いによって。

物心つく前に俺は呪いを受けているのを捨てられていたところを今の両親に拾われたらしい。

しかし、俺は実の親など見たこともなければ声すら覚えがない。

あの頃は楽しかったな…。


話が脇道にそれた気がする。

幼少のみぎり、馴染みの友達と低級魔族のさらに最底辺…ゴブリンの巣をつつきにいったその日、俺はうっかりゴブリンを殺害してしまったのだ。

それだけならまだよい、実際俺は殺す気などなかったのだが、友達とゴブリンを殺害したことを村で報告したらえらく褒められてしまった。

それに気をよくした俺たちはまたしてもゴブリンの巣に赴き、今度は巣に火を放ったのちに入り口をふさぎ、最後は火が消えてなお息があったものを叩きのばし、巣を丸ごと生き埋めにしてすべてを殺した。

村では英雄誕生だなんて言われて気をよくしていたのだがその晩に…

すやすやと寝入っていたところにむずむずとした感触が俺を起こした。

なんだこれは…暗くてよく見えないが俺の右の二の腕に何かが張り付いている。

寝ぼけ眼ながらも一気に引き剥がした。

ビリッ

え…?

「いたああああああああああああああああああ!!!!!!!」

俺は叫んだ、泣いた、途端に両親が飛び起きて、明かりをつけた。

俺の手には血まみれの欠片が握られていた。正体不明の鱗。

二の腕には欠片より少し小さい程度の傷があった。

翌朝、村の教会に行き、神父様に見てもらった。

どうやらこれは呪いの一種らしい。その場で解呪を試みたが余りにも強力でその場での解呪は不可能ということで都の神殿に送られた。

そこでは最初は解呪を試みたが、解呪はできないままだった。そのうち色々と試し尽くした後、神殿はこれは祝福であると宣った。

このようなものを生業としている彼らからすれば解呪できないなどというのは名折れであるし、解けぬが良い面もあるならば祝福ということにすればよいというのは確かに道理であるかもしれない。

こうして俺は試す間に現れた呪いの副作用、あるいは祝福の効用をもって国に売り渡された。

これが俺の祝福(呪い)の旅の始まりである。冗談ではなく本当に英雄が誕生してしまった。




行き会ってからは、少しは学のある私が王の御印と教会の証文のもとにラークの名を謳い、ラークは魔を屠り、私が人払いをして暗幕を垂れ、その中でラークが祝福を受け入れるようになり、英雄はふらりと現れ立ち消えるものではなくなった。

相変わらずラークは呪いを見せてはくれないが、それでもいい、私が彼の露を払うことで少しでも寂しくなければ良い。



ケイには、感謝している。

使命を帯びてからはただの一度も宴に混ざることはなかったし、少し寂しかった。

名乗りを上げても信じてもらえないので村の前に首級を置き捨ててそのまま逃げるように消えた。

宴だけは少しは見物していこうとしていたら、ケイに見つかった。

それからは俺の代わりに王家の御印と教会の証文をもって俺を証明して、暗幕も掛けてくれるので呪いのために逃げるような真似をしなくてもよくなった。

ただ、それでも見せられないな。

もはや鱗塗れだ、最近は大物を狩る事が増えて浸食が早い。

それも捲れば抑えられるが、耐え難い痛みを生ずるのであまりやりたくはないが、もはやリザードマンさながらの容姿になりかねないので最近は鱗をはがすことにしている。

お陰で常に装具を外せない。

こんな姿を見たら、きっとケイでも化け物というに違いない。

恐ろしいものは伏せておくに限るのだ。











オチだけはきめてあるので本当にライブ感

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