残業禁止のスタジオで…
こちらは百物語七十八話の作品になります。
山ン本怪談百物語↓
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まだ私が新人ディレクターだった時代のお話です。
当時、私は色々あって地方にあるスタジオで番組制作の準備をしていました。
「○○君、ここで働くのは初めてだよね?」
「はい、以前はSスタジオで働いていましたから…」
先輩だったDさんは、若手だった私に色々なことを教えてくれました。
「機材は必ずここへ置いておくこと。休憩は2階でやってくれ。食事は好きな時にやってもらってもかまわないよ」
この業界には厳しい人がたくさんいましたが、Dさんは本当にいい人でしたよ。
「それから…残業は絶対にやめておきなさい。仕方ない時もあるけど、地下の録音スタジオでの残業は特にやめたほうがいい…」
そんなことを教えてもらいながら、私は日々仕事に勤しんでいました。
ある日の事、私は大きな仕事を任せられたこともあって、スタジオで残業をするハメになってしまいました。
「あの録音テープどこへやったかなぁ。確か録音スタジオに置いてあるのを前に見たな」
2階の編集室で資料をまとめていた私は、地下の録音スタジオに録音されたテープを置いてきてしまったことに気がついたのです。
「先輩にはやめろって言われていたけど、少し入るくらい問題ないだろう」
テープを取りに行くくらいは大丈夫だと、当時の私は思っていました。
しかし、この判断が大きな「間違い」でした…
地下への階段を使い、真っ暗な廊下の奥にある録音スタジオを目指す。
「昼間でも不気味なのに、夜だともっと不気味だな…」
自分以外誰もいない静かな廊下を歩いていくと、録音スタジオと書かれた扉を見つける。録音スタジオは常に鍵がかかっており、仕事以外でスタッフが入ることは絶対にありえない場所でした。
「うわ、なんだこれ…」
扉の鍵を開けて録音スタジオへ入ると、奇妙な現象を目の当たりにしました。
録音スタジオの中はどういうわけか「霧」のようなものが漂っており、夏にもかかわらず肌寒いと感じてしまうほど温度が違ったのです。
「とりあえず空調をつけてみるか。電気も…あれ…?」
録音スタジオの明かりをつけようとしたが、どういうわけかスイッチを押しても周りは真っ暗のまま。
「…仕方ない。早くテープを持って帰ろう」
嫌な予感を感じた私は、すぐに用事を済ませて録音スタジオから出ようと思っていました。
(ここ…自分しかいないよな…誰かに見られているような感じがする…)
自分以外誰もいないはずの録音スタジオ。どういうわけか、たくさんの「視線」を感じてしまう。
「テープはどこへやったかなぁ…あれ…?」
テープを探していると、録音スタジオのオーディオが動いていることに気がつきました。
「おいおい、誰だよ。オーディオの電源がオンになったままじゃないか」
オーディオを確認してみると、電源のスイッチがオンになっており、テープが再生されていることに気がつきました。
「………コ………シテ……コ…テ………クレ…」
テープにはノイズが多く、どういう内容が録音されているのかわかりませんでした。
「なんだこれ…目的のテープ、これだよな…?」
オーディオのスイッチを切り、再生されていたテープを取り出すと、そこには「○○日収録」と書かれたシールが貼られていました。私が探していた録音テープだったのです。
「うっ!?な、なんだ…どこからか声が聞こえて…」
録音スタジオの中には自分しかいないはずなのに、どこからか声が聞こえてくる。
(アツ…アツイ…)
(シニタク…オカ…サン…)
(コッチ…コッチヘ…コイ…)
耳で聞いているというよりは、頭の中へ流れ込んでくるというのか。とにかくその声は、とても恐ろしい声でした。
「あ、あぁ…」
声は段々と増えていき、数十人もの人間が私を囲んで一方的に話しかけているような幻覚まで見えてきました。
(シネ…オマエ…シネ…)
(イコウ…ハヤク…)
(クルシイ…ラクニ…ハヤク…)
(ハヤク…ハヤク…)
(ハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤク…)
(((死ね)))
…
……
………
「おい、お前!何やってんだ!」
私が正気に戻ったのは、先輩のDさんの声を聞いたからです。
「あれ…俺は何を…うわっ!?」
正気に戻った私は、自分が今から何をしようとしたかを知って言葉を失いました。
私は録音スタジオの天井照明にどこからか持ってきたロープを括りつけ、そのまま「首吊り自殺」をしようとしていたのです。
「ここで残業するなって言っただろう!ここは昔、若手の女性スタッフが首吊り自殺しているんだよ…」
この録音スタジオは「曰く付き」の場所でした。
Dさんは仕事を終えて帰宅していたはずでしたが、夜中に忘れ物に気がついてスタジオへ戻ってきたそうです。そこで私のカバンや仕事道具が置いてあることに気がついて、私を探してこの録音スタジオへ訪れたというわけです。
Dさんの話によると、昔このスタジオで残業をしていた女性スタッフが首吊り自殺で亡くなっているそうです。他にも同じように首吊り自殺をしようとしたスタッフが2人。この2人は未遂で終わったそうですが、不気味に思ったスタッフたちは、残業をしてもこの録音スタジオへは絶対に1人で近寄らないとか…
「このスタジオができる前、この場所で大量の人骨が見つかったらしい。戦争中に亡くなった人たちをここに埋めてたんだとよ」
Dさんは私に向かってそう説明すると、すぐに家へ帰るように言いました。
私はすぐに荷物をまとめると、Dさんと一緒にスタジオを後にしました。
この事件があって以降、私は出来るだけ残業をしないよう心がけるようになりました。
残業は身体にも精神にも良くないものですが、こういう危険な現象に遭遇する可能性もあるので、私はおススメしませんよ…
作者の山ン本です。
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