1/1
第零話 絶望と謂わずして
■月●日
「おい、なんだよ、これ……?」
ある男は、絶望を露わにして言う。
「なんでっ……こんなこと、って……!」
ある女は、涙を流して嘆く。
「…………」
ある男は、何も言わぬまま棒立ちしている。
何故こんなことになったのか。
誰が悪くて、何が悪くて、何の所為で、どのことで、どうして、こうなったのか。
どうして。
どうして。
どうして。
どうしてこうなった?
その問いを何度繰り返そうとも、答えは返ってこない。
ただ、その場にいる全員が打ちひしがれて。
己の無力さに、世界の無慈悲に、置かれた状況に、その全てに打ちひしがれて。
夢だと。
紛れもない、途轍もない悪夢だと。
そう思いたくても。
これは紛れもない事実で。
「…………っ」
男の頬を一筋、涙が伝った。
誰も、どうすることも出来ない。
時を戻すことも、なかったことにすることも、ましてや全てを救うことなど。
できるわけが無い。できるはずがない。
ただ、皆が皆、己の無力さを嘆いた。
そこはまるで、炎のない、静寂の地獄のようで。
──之を絶望と謂わずして何と呼ぶ。