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古代帝国の闘姫達Mild  作者: cvhiryuu
第一部
8/44

リヴィウス・バルキスその2~脳筋奴隷は悩みの種~

 試合後のファン感謝祭でアーヴェと手合わせをするマルクス。

 其れを観察するリヴィウス皇帝の思惑は?

 「リュキア、ご機嫌斜めだね。」

 我ながら意地の悪い質問だと思う。

 「そんなこと…ありません!」

 リュキアは機嫌最悪で返答する。

挿絵(By みてみん)

 その視線の先は試合中のマルクスとアーヴェ。

 美少女格闘士とファンとの手合わせはファン感謝祭のクライマックスだ。

 アーヴェは近東圏最強と謳われた軍事強国マタパン王国の戦士貴族階級出身の格闘士奴隷だ。

 マタパン王国と西方帝国、と言うか現皇室であるアラゴニア・バルキス家の因縁は深い。

 僕の父上は青年時代に軍人として近東圏に赴任していたのだが、その時にマタパン左王家の跡取り息子と親交を結んだ。

 マタパン王国の政治制度は独特だった。

 国王の独裁を防ぐ為に左右両王家から2人の国王を並立させ、近東圏最強の戦闘民族である戦士貴族階級が補佐し、戦士貴族階級よりやや数が多い二等市民である在留外国人と10倍近い数の公有奴隷である農奴階級を支配する。

 戦士貴族階級は精強で愛国心に満ちた戦士に教育し、身体が弱かったり、気性が穏やかだったりして戦士向けでない子供は良くて追放、普通は殺して排除してしまう。

 逆に農奴階級は潜在的な敵として差別と迫害を貫く。

 他の地域の奴隷は個人所有が基本だ。

 私利私欲の為に使う分、大事な財産を潰すのは愚策、と無駄死にさせないような配慮や忠誠心を維持する為の気遣いは必須だ。

 それに対して公有奴隷はただでさえ粗末にされがちな上に、潜在敵扱いされては扱い最悪と言える。

 国内の経済は徹底的な鎖国主義と節制で最低限の動きに留める。

 800年以上前に決められたこの制度をマタパン人達は頑なに守り続けてきた。

 それでも、国体を護持出来たのは、戦士貴族階級の強さが近隣諸国に知れ渡り、侵攻は自殺行為との認識が広まってきたからだ。

 この国の歴史を見ると、改革派と呼ばれる人物は王族が多い。

 普通の戦士貴族が武勇と国体への忠誠のみを教育されるのに対して、王族は外国要人との接触や国外での祭祀への出席の機会が多いので、普通のエリート教育を受けている。

 しかし、マタパンの制度は国体護持と国王の暴走抑止を最優先に築き上げられており、改革を試みた王族はどれほど優秀な人物であれ、寧ろ優秀な人物であればあるほど徹底的に叩き潰されてきた。

 うちの父上が王朝交代戦争で勝利して思いがけず西方帝国の皇太弟になった事で、旧友だったマタパン左王は自身の温めてきた改革案を実行に移した。

 西方帝国との同盟強化、農奴の待遇改善、優秀な在留外国人を戦士貴族に組み込む、旧式化した武器体系と戦術ドクトリンを更新する…

 西方帝国人である父上や僕の目から見れば改革案としては穏当かつ妥当なものだったし、圧倒的な超大国の西方帝国皇帝の協力が見込める状況なら成功の可能性は十分に高かった。

 しかし、マタパンの守旧派は「先祖伝来の制度を壊す売国奴」と左王のライバルである右王を先頭に立ててクーデターを決行。

 折り悪く、と言うかそのタイミングを狙ったのだろうが、父上は北の脅威であるエーシル族対策に動いている最中で、盟友である左王への救援は遅れてしまった。

 辛うじて左王の遺児3人とその与党の生き残り幾らかは保護したものの、マタパンは守旧派のクーデターで元の木阿弥。

 それどころか、父上の崩御の混乱に乗じて反乱軍と共に僕に宣戦布告をしてきた。

 しかし、生き残った左王一派から彼等の内情や弱点は筒抜け。

 近東圏での僕率いる西方帝国皇帝直属軍との決戦でマタパン王国の主力軍は壊滅、本国の方も西方帝国軍と僕の扇動で反乱を起こした農奴達に挟撃されてあっという間に滅亡した。

 アーヴェはその際に捕虜になった一人だ。

 僕も左王派の生き残り、即ち西方帝国の長所を上手くマタパンに移植するべく動いていた一派とは当然交流が有ったが、アーヴェを一言で言えば彼等から聞いていた以上の脳筋だ。

 勇敢で鍛錬熱心なのは認める。

 しかし、全てが力押し思考で情報処理能力や処理した情報を基に理詰めで思考する能力が欠けているのだ。

 一兵卒として突撃する、持ち場を守るだけなら、勇気と忍耐力だけで何とかなるかもしれない。

 寧ろ、余計な事を考えずに戦闘に専念した方が良い結果を生む状況も特に近東圏の戦の定法であるファランクスでは多発するだろう。

 しかし、諸兵科の連携と小隊、大隊単位での部隊運用が常識化した近代戦で将校を任せられる器ではない。

 左王の遺児のうち、姉のパウサニアと弟のアレウスは僕が後見しており、今は皇城内が厳戒態勢と言う事で僕の母方の叔父一家に預かって貰っている。

 この2人は西方帝国貴族の視点から見ると常識的なエリート教育を受けており、頭脳と成績は悪くはない。

 アーヴェはこの姉弟の母親の姪、即ち従姉妹に当たり、武術大会の女子年少者の部での優勝経験もあるので戦士貴族内でも結構なエリートの筈だが、それでもこの程度の脳筋となると左王が改革を志したのも理解出来る。

 「レアはどう見る?この勝負?」

 レアに問いかけて見る。

 「地の身体能力や格闘技術はアーヴェの方がやや上ですが、大差は無し。試合の疲労とお酒で酔っ払っている状況を考え併せると五分五分かと。」

 僕の予想と合致している。

 マタパン王国との戦いの経験を通して考えると、マタパンの戦士貴族は精強だが、優れたスタミナと鉄の忍耐力&団結力で人類の勢力圏の半分近くを制覇した西方帝国本国人精鋭の身体能力も極端に劣っている訳では無い。

 自身の目に精霊魔法をかけて低振動域の光子を拾ってみる。

 可視振動数の光子放出が殆ど無い比較的低温の物体の温度を外側から簡易的に測定する術だ。

 アーヴェもマルクスも体温は高めとは言え常識範囲に収まっている。

 時々、運動時の体温が際立って高い人物が存在しており、そのような人間の身体能力のポテンシャルは常人と比べて極めて高い場合が多い。

 高体温に耐えられるとなると、高出力発揮時の過熱の問題が大幅に改善されるし、表面の空気の流れが同じならば物質から空気中への排熱能力も空気との温度差にほぼ比例する事が分かっているので、排熱量自体も上げる事が出来るからある意味当然と言える。

 どうも母親から遺伝する形質のようで、身近な例ではうちの母上、母上と同父同母の叔父上、僕とリヴィアの兄妹、そしてレアが該当する。

 …正直、レアと僕の身体の相性が極めて良いのも、この体質が共通しているから、と言う一面もあるだろう。

 双方の体温が常識範囲内で体格はマルクスがやや上程度、更に動きも同等に近い、となるとスペックが段違いと言う事は無さそうだ。

 「うヴぁぅ!!」

 フランケンシュタイナーでマルクスを投げようとしたアーヴェが逆にパワーボムで叩き付けられる。

 そのままカウント3。

 「どちらかが失神か戦意喪失するまで試合続行」のプロルールならばアーヴェの方に利があっただろうが、フォール決着有りのアマチュアルールならこの結果も十分に有り得る。

 「約束だから・・・ヤらせて・あ・げ・る❤」

 アーヴェが両脚を開いて事でマルクスを挑発する。

 「…!」

 「!」

 レアが少し、リュキアがあからさまに不機嫌の色を漏らす。

 リヴィアはペットを可愛がる感覚でアーヴェの事を気に入っているが、レアやリュキアはアーヴェの事を好いていない。

 第一に、名門意識が高い。

 アーヴェの従姉のパウサニアの様に自分を律する動機にするのならまだ良いのだが、アーヴェの場合、他人を見下す口実に使っているのだから性質が悪い。

 パウサニアは西方帝国の文化に理解があるせいか、相応の実績が有る平民やエリートの奴隷なら表面上は礼儀正しく接し、優秀な部分は素直に認める分別もあるのでレア達も「エリート意識が多少苦手」程度で済んでいるが、アーヴェの場合は血統の優越性を誇る上に、認める美徳は武勇と忍耐のみと来ているのだから、レア達の武勇以外の長所も理解出来ずに寧ろ蔑んでいる。

 第二に、好戦的に過ぎる。

 相手の立場も実力も加味せずに手当り次第喧嘩を売るので、困ったものだ。

 先日もレアの異父妹のローラことアウローラ、表向きはレア付きの奴隷で本人もそれを信じ切っているが、に喧嘩を売って、僕の別荘の庭で大乱闘。

 結局、アーヴェはローラにボコボコに叩きのめされ、ローラはアーヴェの挑発に乗った事をリヴィアに大目玉を食らう、と双方碌でもない結果に終わっている。

 溺愛する妹に喧嘩を売った挙句に大目玉を食らう原因となった、となるとレアのアーヴェに対する感情が悪化するのも止むを得ない。

 第三の理由が好色さだ。

 西方帝国本国人やその文化の影響が強い地域は人前で男女が愛し合うのは良い事だと考えている。

 しかし、あくまで夫婦を始めとした公認カップル同士の話。

 不倫は夫や妻の面子を潰す行為として賠償理由となるし、強姦致傷罪は殺人未遂に準じる重罪として裁かれる。

 アーヴェの様に自分の好みの異性を相手構わず誘惑し、時に強引に事に及ぶタイプは同性から嫌われる。

 嫌いなタイプに見下され、更に起こしたトラブルの尻拭い迄強いられ感謝も無しとなると、レア達がアーヴェを好かないのも仕方ないだろう。

 それでもレアの方は僅かな不快感程度に抑えているが、リュキアの方は汚物を見る様な視線を向けている。

 「マルクスの身体能力のデータ取りには最適だったな。」

 僕の言葉にレアとリュキアが不満気ながらも頷く。

 事前の予想が確認出来ただけではあるが、殺し屋に狙われている状況では是非とも確認しておきたい内容だ。

 精強を誇る西方帝国正規軍の中でもまあまあ強い、と認定出来るレベルだが、彼の命を狙っている超一流の殺し屋、其れも魔法の達人、に対しては極端な足手纏いにはならないにしても殆ど戦力外だろう。

 「リュキアには苦労を掛けるな…」

 彼を狙っている殺し屋を早く炙り出して始末しないと困った事になるな。


 問題児奴隷の尻拭いをしてしまう等、結構妹には甘いリヴィウス皇帝でした。

 召喚青年のマルクス君に対しては「得意な分野で役に立ってくれるなら厚遇する」心算なのでかなり好意的な立ち位置なのですが。


 オリジナルからエロ描写中心の節は省いているので、順番的には飛んでいる節が生じています。

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