リヴィア・バルキスその6~この世界の海戦~
リヴィウス皇帝は遠征準備、マルクス君御一行は属州赴任準備でリヴィア皇女がマルクス君に海戦の基本を伝授!!
「火薬の存在自体は知っていても、魔法で遠距離から爆発させられる事が知れ渡っているので戦闘には危なくて使えない」世界の海戦はどうなるのでしょうか?
さ、マルクス、今日はこの世界の海戦のお勉強よ。
赴任に当たって、西部皇室領建造の最新鋭艦を貸して貰えるんだからしっかり指揮をとれるようにならないとね❤
◎海戦の基本
海戦の基本は移乗戦闘と突撃よ。
火薬を武器に出来ないかって発想は此方の世界にもあるけれど、初歩の攻撃魔法とも言えないレベルの攻撃魔法<フォース・ショック>のせいで実用化されていないわ。
この魔法は健康な成人に使ったら良くて怯ませる程度の効果しかないけれど、射程が長い上に黒色火薬、ニトロセルロース、雷銀みたいに酸化剤と燃焼材が混じった爆燃物質を爆発させる効果が高いわ。
使い手も多くて、マジックアイテム化も簡単に出来るこの魔法のせいで、火薬兵器は持ち運ぶだけでもハイリスク。
普通は花火用、稀に工事用使われるぐらいね。
だから、海戦で実用的な武器は結構限られてくるわ。
先ずは主要な武器を少し解説するわね。
〇弓矢・弩
此れは陸上用の物を流用しているわ。
主に移乗戦闘を有利にする為に曲射した弓の斉射で敵船の甲板を掃射したり、弩で指揮官や操舵手、魔法使いを狙撃したりする使い方がメインね。
〇バリスタ
此れは半固定式の大型の弩で、複数人で使う以外は弩と同じよ。
射程が長い上に、火炎瓶や発煙弾と組み合わせる事も出来るから、操舵手や攻撃魔法の使い手に打ち込んで殺すか無力化する使い方がメインよ。
強力な魔法を付与した大矢を放てば、防火加工をした外装を貫徹して内部で火災を起こす事も可能よ。
〇カタパルト
バネを利用した投石器ね。
曲射弾道で甲板を攻撃するから、焼けた石とかで敵艦の上甲板を制圧するとか、重い石弾や鉄弾で甲板を貫く使い方がメインだけれど・・・バリスタと比べると鈍重な上に命中精度が悪いから前者の使い方メインかしら?
〇攻撃魔法
陸戦でも使われる<フォース・ブリッド>、<フォース・スプラッシュ>、<ファイア・ボール>、<ブリザード>は海戦でも多用されるわ。
<フォース・ブリッド>は敵艦の舷側を狙って複数の魔法使いが集中攻撃をかける、<フォース・スプラッシュ>は甲板上の敵兵を移乗直前に掃射する、<ブリザード>は中遠距離から敵を怯ませる用途に使うわ。
一番恐ろしいのは<ファイア・ボール>の使い手ね。
防火外装を採用していない船ならこれだけで炎上しかねないし、ガレーの構造上、喫水線付近に大きな空間があるからクリーンヒット一撃で撃沈する事も可能よ。
だから、<ファイア・ボール>の使い手は最優先で狙撃して始末するのが鉄則よ。
何と言っても、弓矢や弩の方が<ファイア・ボール>の魔法より有効射程が長い上に、使い手の訓練コストが低いしね。
上位の攻撃魔法使いが乗っていたら、有効射程に入る前にその艦に遠距離武器をありったけぶつけるしかないわね。
攻撃魔法を使おうとすると上甲板に出ないといけないから狙撃の絶好の的よ。
〇火炎放射器
接近戦の主力火器ね。
油を高圧空気と一緒に噴霧して火をつける事で敵艦を掃射出来るわ。
防火外装を採用していない船なら必殺、防火外装を採用していたとしても、敵艦上甲板の兵士を総崩れにさせる事も可能よ。
有効射程が短いのが難点ね。
〇電磁加速砲
此れは魔動機関を積んだ艦にしか装備出来ない決戦兵器ね。
電流が磁束を発生する性質を利用して、予め電流と垂直方向に磁束を展開する事で金属製の弾丸を加速するの。
火薬を使った武器と違って、<フォース・ショック>の魔法を受けても爆発や暴発は起こさないけれど、大規模なエネルギー源とそれを電流に変えるシステム、そして強力な磁石が無いと使えないわ。
だから、陸上戦では拠点防衛用にしか使えないし、連射数にも限りがあるから、小さくて柔軟性のある歩兵相手には使い勝手が悪いわね。
ただし、軍艦に積んだ場合は目標が大きな軍艦だし、軍艦の機動力で大きなエネルギータンクの問題は解決されるわ。
電磁加速砲は2種類が実用化されているわ。
生産数が多いのは短砲身型ね。
此れは重量6.8㎏の砲弾を初速385m/sで撃ち出す性能で、1000m先の25㎜高張力鋼鈑を貫徹可能。
※Ⅳ号戦車D型やⅢ号突撃砲E型のKwK37 75㎜24口径長砲徹甲弾と同威力です
新型かつ高価格なのは長砲身型ね。
此れは6.8㎏の砲弾を初速740m/sで撃ち出す性能で、1000m先の三重25㎜高張力鋼板を貫徹可能。
エネルギー自体は大型軍船の体当たりに匹敵するし、対地支援射撃も可能な点が特徴よ。
※Ⅳ号戦車G型やⅢ号突撃砲F型のKwK40 75㎜43口径長砲徹甲弾と同等の威力です
この電磁加速砲はとにかく高価で製造に手間がかかる兵器よ。
本体価格だけで中型軍艦2隻分以上だし、エネルギータンクや魔動機関を搭載すると、更に数倍に跳ね上がるわ。
しかも、問答無用で相手を撃ち抜く兵器だから、拿捕には向いていないし、燃料庫でも撃ち抜かない限りは火災発生効果もあまり期待できないわ。
だから、積めたとしても1門が限界、沈没するまでに10隻以上の敵艦を沈めたら割に合うけれど、その前に此方がやられたら割に合わなすぎるわ。
そもそも、製造能力の限界でそうホイホイ製造出来ないけど。
この他にも移乗戦となると槍や剣が持ち出されるわ。
特に歩兵剣は船乗りの日用品も兼ねているから、民間の商船や漁船でも普通に持っているわね。
◎艦艇の種類
次は基本中の基本、艦艇の種類よ。
此れが分からないと、指揮のしようがないから。
動力は大まかに、風、人力、魔動機関、蒸気タービンに分けられるわ。
魔動機関はマジックアイテムの一種で<天使>が充填された人間の気力を餌に動力軸を回転させるシステムよ(※構造的にはガソリンの爆発を魔力の爆発に置き換えた空冷式水平対向型ガソリンエンジン)。
大勢の人間を船に乗せないと役に立たないし、1日がかりでエネルギーチャージして1時間動かせれば良い方と言う短時間専用の補助機関と思えばいいわ。
蒸気タービンは・・・マルクスの元の世界の核分裂炉や石炭火力式の発電所で使われていたものとそれほど変わらないかしら?
ただ、ボイラーの製造技術の問題で、高温高圧化が出来ないから熱効率は悪いと思うけれど。
燃料さえ沢山積めば長時間の安定稼働も可能だけれど、その燃料代が高いのよね・・・。
結局、動力は風と人力が一般的ね。
〇帆船
内海である<緑の海>や<赤の海>、<アマゾン海>は嵐があまり起こらない代わりに、帆船の高速巡航には向いていない海域よ。
従って帆船は戦闘艦としては殆ど使い物にならないわ。
ただ、少人数で運用可能だから、輸送船としては適していて、海賊の危険性の少ない海域や武装船が護衛に付いている状況では多用されるわ。
〇カッター
細長い小型、無甲板の漕ぎ船ね。
乗船人数の割に輸送力は低いけれど、安価で信頼性も高いから近距離輸送船や漁船に使われるわ。
無論、軍用としても使われることがあるけれど、本格的な軍艦と比べると航行性能や乗員数で劣るから、沿岸部での夜襲に使われるのが普通ね。
〇ウニレーム
甲板と喫水線下の防水隔壁を持たない一人櫂式のガレーよ。
戦闘力は低いけれど、安価だから民間の商船や漁船に使われるわね。
〇ギャリオット
40tから70t程度の中型軍船で、三人櫂を片舷二段24挺備えているわ。
漕ぎ手は144人、重装歩兵40人を搭載していて機動力も高いし、上中下の三層甲板構造と防水隔壁を標準設置しているから、漕ぎ手の安全性がウニレームと比べると段違いに上がっているわ。
コストパフォーマンスと運用性が良いから、地方のパトロール艦隊では実質的な主力ね。
〇ガレアス
100tから200tの大型軍艦で、三人櫂を片舷二段60挺備えているわ。
漕ぎ手360人、重装歩兵120人と切り込み戦になった際の戦闘力は圧倒的で、多数の漕ぎ手に支えられた瞬間速度も中々の物よ。
戦闘艦としての役割の他に揚陸艦としての機能も期待されているから、揚陸戦闘でも活躍するわ。
〇ドロモーン
ギャリオットに魔動機関と電磁加速砲を搭載した艦よ。
此れまでの大型エネルギータンクと大きさの割に出力が小さい魔動機関だと中型艦に搭載は困難だったんだけれど、父上が実用化した小型高性能のエネルギータンクと小型大出力機関で問題は解決されたわ。
操舵手の腕が良ければ、漕ぎ手の質にあまり拘らず運動性を発揮出来るけれど、価格がギャリオットの数倍、下手したら10倍に跳ね上がるのが欠点ね。
新型だと排水量60t、260馬力機関2つ、新型電磁加速砲1門、傾斜甲板装甲を備えているわ。
〇カノネーア
主力中の主力、切り札と言える大型艦ね。
ガレアスをやや大型にした艦体に魔動機関と電磁加速砲を搭載した艦で、性能的には上位互換だけれど、価格が数倍に値上がりしている事は説明したわよね。
概ね、配備数は1個艦隊に1隻か2隻ってところかしら?
主要部を鋼鈑で守っている艦もあるから、艦隊旗艦や移動司令部としても用いられるわね。
新型だと排水量240t、260馬力魔動機関3つ、電磁加速砲1門、そして傾斜甲板装甲を備えているわ。
兄上の旗艦だと全鋼製620t、520馬力ギアード蒸気タービン2つ、新型電磁加速砲4門と補助用の260馬力魔動機関2基を備えて、漕ぎ手を廃止する代わりに舷側装甲を備えているけれど、燃料が貴重な上に、鋼製の船を建造出来るのが西部皇室領アラゴニアのドック1つだけだから、やっと3隻目が建造中。量産なんて夢また夢ね。
魔動機関は『人間の気力を餌にする精神生命体』が動力源だから、結局は大勢の乗組員が必要な上に、エネルギータンク容量の問題で最大戦速を出せる時間が短いから、戦闘時以外は風と漕ぎ手に頼る事になるわ。
蒸気タービンは大燃料食い。
貴重な石炭を使うか(※この世界では高品質の石炭は非常に貴重で、亜炭や泥炭を他の燃料が使えない状況で仕方なく使うという用法が主です)製鉄所との取り合いが生じる木炭を大量に積むか、さもなければそれに匹敵する軽油(※この世界の文化先進地域では原油から蒸留したり、細菌型の軽質油田から採掘したりで、石油はある程度利用されていますが、防水用アスファルトと燃料用として使い勝手が良い軽油、灯油を除くと捨てられたり、その場で燃やされたりしています)を用意しないとといけないから、燃料費が馬鹿にならなくて普段は帆走よ。
「それじゃ、機関の意味がないんじゃ?」
でもないわよ。
通常のガレーで最大戦速を上げようとすると屈強な男に十分な訓練を施さないといけないけれど、魔法適性は男女の差が無いから魔動機関は女性が乗り込んでも男性の漕ぎ手同様の最大戦速を出せるわ。
それに、電磁加速砲でアウトレンジ出来る優位は精神的にも大きな助けになるわ。
◎海戦の流れ
海戦は遠距離砲撃戦⇒中距離射撃戦⇒衝角攻撃・移乗戦の順番で進んでいくわ。
普通は被弾面積の小さい正面を向け合って横陣で突撃を行うのが基本。
逆に言うと、相手の側面を取る事が出来れば、重装歩兵同士の戦い同様に圧倒的に有利になるわ。
囮の大型艦を正面に置いて、両翼の快速艦が敵艦隊の側面を抑えようとやり合うのは陸戦で重装歩兵が正面の攻撃を受け止めて、騎兵と軽装歩兵が側面に回り込みを狙うのと似ているわね。
ガレーの最大戦速は時速15㎞程度。
だから、時速25㎞以上出る新型魔動機関搭載船は凄く速い訳だけれど、高価で数を揃える事が難しいから、下手な艦隊指揮官だと『味方を置いて突出した高価な艦がタコ殴りにされてやられました』なんて事も簡単に起こるから要注意よ。
艦隊の単位は同型艦4隻で1個戦隊、2~4個戦隊で1個艦隊よ。
〇遠距離砲撃戦
此れは1㎞から数百mでの重火器同士の戦いね。
電磁加速砲は命中精度と貫徹力が抜群に高いけれど、高価な上に、連射するとエネルギータンク容量を圧迫して最大戦速を保てる時間が短くなる。
カタパルトは散弾を撃てるから甲板制圧力に長けるけれど、命中精度は悪い。
バリスタは電磁加速砲と比べると安価で撃ち易いけれど、艦船に直接致命傷を与える事は難しい。
電磁加速砲を持った艦が居たとしても、アウトレンジで敵を数隻撃沈、若しくは脱落させる事は出来るでしょうけれど、コストが10倍になる事を考えると、10隻の従来艦を建造するのと何方が得か難しい処ね。
何よりも、遠距離砲撃戦でやられた敵艦は沈むか逃げるかになるから、鹵獲出来なくなる可能性が高いのよね。
〇中距離射撃戦
やや遠い距離では弓矢の曲射、少し近付くと弩の狙撃、更に近づくと攻撃魔法による艦体や甲板への攻撃と流れていくわ。
一般的な攻撃魔法だと<ファイア・ボール>のクリーンヒットや<フォース・ブリッド>の集中射撃でしか艦体に致命傷を負わせる事は出来ないから、あくまで甲板の敵兵を無力化する段階と考えると良いわ。
飛行型や潜水型の聖獣や魔獣を召喚して攻撃するのもこの段階が多いわね。
〇衝角攻撃
一般的な軍船の最大の攻撃が衝角による体当たりよ。
喫水線に大穴を開ける事が出来るから、防水隔壁を有さない船に対しては必殺、防水隔壁を有していたとしても大ダメージは免れないわ。
〇移乗戦闘
海戦の決定打ね。
歩兵を移乗させて、敵艦を制圧すれば勝利よ。
船自体が高価な財産だし、魔動機関や電磁加速砲を鹵獲でもしたらとんでもない価値だから、移乗戦闘時の死傷者への補償を払ったとしても、大幅な黒字になるわね。
正規軍の軍艦だと、重装歩兵が移乗戦闘の主力になるけれど、西方帝国や東方帝国では漕ぎ手も軽装歩兵として参戦するのが普通よ。
重装歩兵が先頭になって突撃を敢行して、その後を漕ぎ手兼軽装歩兵が制圧していくのが定石ね。
ただ、海中に落ちたら鎧を着て水泳を行うのは辛いし、鎧自体にコストがかかるから、重装歩兵も盾と兜だけとかの編成を採用する事も有るわ。
ダキビスタやフィルディリアでは奴隷を鎖に繋いでガレーを動かしているから、移乗戦闘時の戦闘力は低いわね。
〇航空戦力
一応、熱気球が実用化されているから、総旗艦の上に浮かせて戦況観測をすることは可能よ。
水素気球?・・・投入された記録は有るけれど<フォース・ショック>の魔法であっさり炎上したらしいわ。
他の航空戦力と言えば、グリフォンや飛行型聖獣かしら?
どちらも戦闘力は高いけれど、前者は高価、後者も召喚者が結構限られる上に消耗が大きいから気軽にホイホイ使える戦力じゃないわね。
魔力を付与した弩の集中射撃で撃墜出来ない事もないし、撃墜されたら撃墜した方もされた方も金銭的な被害が大きいから直接的な戦闘を避けて偵察や攪乱に徹するか、奇襲的に使うのがコツね。
マルクスの手元にあるのはドロモーンⅢ級1隻に、ドロモーンⅠ級1隻、ギャリオット2隻の1個戦隊よ。
規模としては典型的な地方駐在のパトロール艦隊だけれど、魔動機関搭載艦が半数を占めるから相当に装備の点では恵まれているわ。
バドリス一門が大金を叩いて購入した高価な兵器と兄上が特別に貸してくれた新鋭艦だから、使う乗組員共々大切に扱わないと駄目よ。
この世界の海戦は「ギリシャ・ローマ時代のガレー船同士の海戦に日清戦争~第二次世界大戦時代の河川砲艦(≒凌波性が低いので外洋航海には向かない)が極少数混じっている」と言う感じです。
第二次大戦前期~中期の戦車砲並みの火力の兵器も実用化はされているのですが、「超絶高価で発射弾数も限られている」ので主戦力として配備する事は不可能ですし、コスト削減の目途も立っていない状況です。
しかも、徹甲弾しか撃てず、対物破壊力は有るのですが、榴弾や焼夷弾、散弾、榴散弾が撃てずに対人制圧力は劣悪です。
「鋼の船」のアイデア自体は有るのですが、製鉄量の少なさと機材のコスト、燃料資源の不足の問題で「皇帝専用の旗艦が日清戦争時代の砲艦レベル」に留まっています。
ただし、技術先進地域の上流階級や高度専門職限定ではありますが、「曲がりなりにも現物を見たことがある」ので、地球の大砲や戦車、戦艦を見たとしても、性能に驚きはしても、理解出来ないと言う程ではありません。




