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古代帝国の闘姫達Mild  作者: cvhiryuu
第一部
3/44

マルクス・バドリスその2~皇帝陛下も楽じゃない~

 召喚されたマルクス君に早速襲い掛かる激務に喘ぐ皇帝陛下!

 美人の鬼教師!

 3日おきの皇妹殿下お手製の特別講義!

 「ふひぃ~…」

 この世界と言うか、この身体に来て一か月、転生前の生活が懐かしくなるような激しい日々だ。

 幸い、この身体の元の持ち主の頭脳のうち運動野や言語野は被害が少なかったから、身体が不自由だったり、言葉が分からない訳では無い。

 しかし、過密スケジュールには閉口している。

 午前中はリヴィウス皇帝の雑用、主に書類の整理とお茶汲み、午後はリュキアの授業、3日置きにリヴィア皇女の特別講義と休む間もない。

 ファンタジー世界、しかも人類最大の超大国の皇帝や名門貴族、となると贅沢し放題…と言うのは甘過ぎる考えだった。

 先ず、トップの皇帝からして超過重労働だ。

 この世界の暦は1日を24等分、1年を12か月360日に分けて8年に1回閏年が入る。

 皇帝の一日は早朝の鍛錬1時間と食事と身支度・休憩合計3時間の他は業務がギッシリ詰まっている。

 アストレアさんに見せて貰った先月のスケジュール帳を見て血の気が引いた。

 1か月に休みは2日、半休4日、フル勤務日24日のうち17日が14~20時間労働、合計勤務時間が月に340時間と言う超過密スケジュールだ。

 更に、此等の仕事の他に地方や傘下の諸国の有力者や帝国貴族の歓待も加わる。

 皇帝、と言ってもリヴィウス皇帝は専制君主、と言う訳では無い。

 寧ろ世襲制の大統領、と言った方が似合っている。

 「軍総司令官」「最高護民官」「神祇官筆頭」「執政官経験が有る主席元老院議員」と言う共和制の重職4つを兼ねた人間、と言うのが公の立場だ。

 無論、人口1億人超、常備軍50万人以上の総司令官となると軍事力では比肩する人間は居ないし、最高護民官と言う職権で平民階級を庇護し、神祇官筆頭として神官達、この世界ではほぼ魔法使いに等しい、の人事権を掌握し、国会に当たる元老院議員の中でも最も格上とされている人間の権力は凄まじい。

 しかし、立法を担当する元老院議員の皆が皆協力的な訳でもないし、50万人もの軍隊の面倒を見る責任も担うのも大変だし、国中の市民から嘆願書は送られてくるし、各神殿の調整を行うのも楽ではない。

 俺が雑用を任されている午前中の総司令官公務時間だけでも、全国の軍隊からの報告書の山が執務室に雪崩れ込み、各案件に的確な指示を返信しなければならないのだから超絶激務だ。

 尚悪い事に、リヴィウス皇帝は生まれながらの皇帝ではない。

 帝国貴族17家門の中でも弱小のバルキス家門の嫡出の弟の跡取り息子と言うのが彼の生誕時の身分だった。

 貴族としては下級貴族の最上層に過ぎない。

 彼の父は前王朝の実質最後の皇帝の腹心で、苛政で疲弊した属州の立て直しを長年任されていたのだが、後ろ盾だった皇帝をクーデターで抹殺され、破れかぶれで挙兵したらなんと内戦を制して皇帝になってしまったというとんでもない経歴の持ち主だ。

 赴任地で善政を敷いていたので、軍事力や経済力は強大だ。

 しかし、元々格上や同格だった貴族達からの受けは良い訳がない。

 内戦を制した先帝が生きている間は反現政権派も敵国も表立って動けなかったが、若年のリヴィウス皇帝が即位した途端、<東方帝国>と呼ばれるライバル国が国境を破って攻めてくるわ、地方軍の一部が反乱を起こすわ、皇帝が留守の帝都でクーデターが起きるわと散々だったらしい。

 反現政権派や東方帝国にとって誤算だったのは、年若い皇帝と皇妹がどちらも内戦を制した両親以上の傑物だった事だろう。

 東方帝国は決戦で軍の総大将の皇太子を生け捕られる大敗北を喫し、西方帝国有利な不可侵条約を受け入れざるを得なかったし、反乱軍は壊滅、クーデターを起こした貴族達も留守番のリヴィア皇女に一網打尽にされてしまった。

 選りすぐった超一流の殺し屋や魔法使い御一同もリヴィウス皇帝兄妹とリヴィウス皇帝の内妻のアストレアさんに軽く一蹴されてしまう始末。

 此処までなら若い皇帝の大勝利、で終わるだろうが、現実はそう甘くなかった。

 クーデター失敗で反皇帝派の主戦力は壊滅したものの、貴重な皇帝与党の元老院議員や側近達も大被害。

 生き残った反皇帝派も強過ぎるリヴィウス皇帝とリヴィア皇女を直接攻撃するのを控えて、与党の貴族や側近達を主標的に変更した。

 悪い事に、長年の地方暮らしで帝都の貴族社会にあまりコネが無い事も重なって、人材集めも難航。

その結果、リヴィウス皇帝の執務室はパンク寸前になっている。

 「僕を過労死させる作戦としか考えようがない」とリヴィウス皇帝は愚痴っているが、正にその通り。

 激務の代償に贅沢をしている、と言うのもあまり当て嵌まりそうにない。

 皇帝もその家族も、普段の食事は正規軍の基地で出されるメニューと同一。

 総司令官が自分だけ良い物を食べるわけにはいかない、との言い分だが、側近の俺も兵卒の食事と同じ物が宛がわれている。

 美食が駄目なら美女はどうだ、となるが、此方もリヴィウス皇帝の思い通りにいっていない。

 先帝からリヴィウス皇帝に宛がわれたアストレアさんは美男美女揃いのこの世界でも飛び切りの美人で尚且つ親切で誠実と個人としては理想的な女性と言える。

 皇帝の激務のスケジュール管理をするだけの実務能力もあるし、武勇に至っては単身で『蛮竜』と呼ばれる竜族のチンピラを討ち取る程だ。

 別にこの世界の竜族が弱い訳では無い。

 チンピラとは言え、象以上の体重とパワーを兼ね備え、主要部の装甲は装甲車級、飛行能力はヘリコプター並、尚且つ並の人間以上の知能と強大な魔法力すら備えている化物だ。

 その化物を倒した彼女は<屠竜妃>の異名で畏怖されている。

 唯一にして致命的な欠点として、アストレアさんは元奴隷と言うハンディキャップを持つ身分だ。

 この西方帝国では奴隷の解放と市民権獲得が制度化されていて、下級貴族迄なら奴隷上がりの女でも結婚出来る。

 元々下級貴族上層だったリヴィウス皇帝と先帝にとっては高級奴隷の娘も十分妻としてストライクゾーンだったのだが、流石に奴隷上がりの女が皇妃候補になった途端、反皇帝派どころか皇帝に協力的な貴族達迄大反対を唱和し始めたのだ。

 先帝の後ろ盾だった前王朝の皇帝が女好きで、閨閥争いが身を亡ぼすクーデターの一因になったのだから、彼等の反対も十分に筋が通っている。

 それに元奴隷では帝都の貴族社会にも地方有力者達にも人脈が無いので、政務面でも大きなハンディとなる。

 逆に先帝の嫡出の娘でリヴィウス皇帝の妹のリヴィア皇女はアストレアさんを徹底的に押している。

 亡き父のお気に入りで自らの学友と言うのも大きな理由だが、「馬鹿で弱い女を義姉として立てるのは屈辱」と実力主義の観点からは此方にも一理ある。

 仕事は激務、貴族達は反抗的、最愛の女を妻に出来ないとリヴィウス皇帝の生活はストレスに満ち溢れている。

 今日は月に4回だけの半休と言う事で、リヴィウス皇帝は珍しく寝坊をしている。

 昼からは最低限の執務だけを行って、帝都大闘技場に臨席する予定になっている。

 大闘技場は帝都のシンボルだ。

 奴隷達や猛獣、モンスターが血で血を洗う死闘を繰り広げる…と最初は想像していたが…

 「高い金を費やして訓練した闘士奴隷を簡単に死なせる訳がないでしょう…」とリュキアに呆れ顔をされてしまった。

 昨今の試合ではプロの剣闘士や格闘士の戦死は其れこそ『不幸な事故』レベル。

 剣闘士ですら9割近い生還率を記録しているそうだ。

 と言っても、俺も観戦は今日の午後が初めて。

 怖いような、興奮するような…

 「さ、マルクス殿、此処が帝都大闘技場の貴賓席、皇帝陛下とその御家族、側近、そして賓客だけの特等席です。」

 リュキアが俺を席に案内する。

 闘技場全体を見渡せる位置に豪華な屋根まで付いている正に最上席。

 「もうすぐ兄上も見えるわ」

 皇后座にはリヴィア皇女が先に座していた。

 アストレアさんの皇太子妃立后に失敗した先帝は長女のリヴィア皇女を皇后代行に指名して崩御した。

 年若い成り上がりの皇女、と侮っていた反皇帝派を一網打尽にし、クーデター未遂事件で被害を受けた帝都の復興と被災者の補償を見事にやり遂げたのだから、将帥としても政治家としても並の男性貴族とは比較にならない程の凄腕だ。

 「今日の主賓は貴方と言う事になっているから、堂々としていなさい❤」

 そしてリヴィウス皇帝が入場して来た。


挿絵(By みてみん)

 モデルはパルティアと覇権を争っていた時代、帝政初期のローマ帝国です!

 月340時間労働に有力者の接待とは秦の始皇帝に比肩するかもしれない重労働を課せられている皇帝陛下でした!

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