プロローグ~冥王の執務室にて~
ミッドナイトノベル連載中の「古代帝国の闘姫達」のマイルド版です。
魂を破壊される魔法で暗殺された貴族を蘇生する為にその脳に召喚された異世界の青年と、1500年前に神族の復活計画の副産物として生まれ、超大国の皇帝になってしまった青年のダブル主人公です。
「此処まで粉砕された魂を復元するとは…流石<冥王>とでもいうべきでしょうか。」
闇が支配する宮殿で<風龍王>セシリアル、正確には人間でいうとその目、声帯、そして利き手部分の機能を兼ね備えた端末が友人に語り掛けた。
2人が観ている映像は一人の人間の娘を中心としたものだ。
艶のある黒髪に見事な美貌。
身に纏うのは装身具とサンダル、真紅の幅広の腰布一枚のみ。
裸の上半身は極めて良質な筋肉に絶妙なバランスで鎧われている。
「魂の復元、と言うのは私にとっても重労働、しかも妻の魂の<魔力容量>は私とほぼ同格。復元する魂の千倍を軽く超える<魔力容量>を誇る貴殿の助力が無ければとても無理な作業だが。」
<冥王>ウェドラルシアが苦笑を漏らす。
ちょっと目には青白い顔の美青年としか映らないこの男が、この近隣の次元界の神族で最強の実力者とは一見には信じられないであろう。
「元々はうちの姉のせいですから。」
セシリアルが肩をすくめる。
「姉に喧嘩を売った神王殿はまだしも、父君の暴挙を止めに来た貴方のお妃の魂まで砕いてしまったのはうちの両親もやり過ぎと認定しています。」
此方は黒髪の中性的な青年といった容貌だ。
しかし、本性は<神殺しの龍王>と呼ばれる龍神族のオリジナル直系上位種。
一族の頂点に立つ外祖父母<白金の龍皇>と<真珠の龍后>、それに比肩する実力者である<五色の龍帝>と比べれば格下であるものの、戦闘力とパワーの面では神族の大国を単騎で粉砕出来る程の力を秘めている。
事の始まりは1500年前に遡る。
この近隣の星系を数十の次元に渡って支配していた神族の国が有った。
<神族>。
外見は美しい人間とほぼ変わらず、種族としても交配が出来るほど近縁であるが、その魔力は人間の比ではない。
強大な個体となると惑星の環境を制御し、大陸を形成したり、適当な元素を集めて生物を合成したり出来る程だ。
ただし、人間が健康維持にビタミンを必要とする程度には知的生物、特に自身と近縁な人間の精神エネルギーを必要としている。
基本的には惑星を人間に住み易い環境に制御する代わりに、信仰と言う形で精神エネルギーの供給を受ける共生関係を築いている。
先代である父を弑逆し、<冥界の守護者>の任についていた兄を闇の世界に封じ込めた神族の王<神王>はこの近隣の神族の諸国の覇権を握るほどの権勢を誇っていた。
しかし、絶大な覇権を手にした彼にも唯一目障りな存在があった。
遥か昔にこの銀河の億の星系を数千の次元に渡って蹂躙した<龍神族>である。
<龍神族>。
普段は人間や神族と変わらない姿をしているが、それは人間の目や声帯、利き手に当たるごく一部で、本性は神々をも粉砕する巨大な龍である。
彼等はその出生数の少なさから種族としては極めて脆弱である反面、個体としての能力は絶大無比である。
基本的に好戦的な種族では無いが、先代神王も絶対に彼等を刺激しないように細心の注意を払っていた。
野心家である当代の神王は龍神族に対抗する為に入念な準備を重ね、完全に油断をしていた彼等の上位種のうちの一体、<水龍王>リネイシアに奇襲をかけたのだが…
結果は最悪だった。
神王必殺の攻撃は水龍王にとっては「不意打ちで受ければ手痛いが、臨戦態勢なら十分に防げる」程度の威力でしかなかったのだ。
中途半端な攻撃は水龍王を激怒させた。
「人間相手に核分裂弾を連射出来る攻撃力とそれを受けても継戦する防御力を兼ね備えた戦艦が攻めて来たようなもの」
冥界の守護者を担っていたが故に巻き込まれずに済んだウェドラルシアは後日、この戦いをそう評した。
戦いとも言えない一方的な殺戮は<五色の龍帝>のうちの2体、即ちリネイシアとセシリアルの両親である<天龍帝>と<地龍帝>が制止した事で辛うじて終了した。
2人は戦後処理の為に子供達の中でも穏健派であるセシリアルを送り込んだ。
辛うじて殲滅こそ免れたと言え、神族の一大強国は戦死者多数の半壊状態。
災難としか言えないのはウェドラルシアの愛妻であった。
神王の娘の中でも最上位クラスの実力者であった彼女は父の暴挙を止める為に冥界から神族の都に赴き…見事巻き添えで魂まで粉砕されてしまった。
冥王ウェドラルシアの仕事は魂の輪廻転生の守護である。
普通に死んだ魂は力を蓄え直した際に、手頃な器が有れば転生するが、魂まで砕かれると転生も復活も普通は不可能である。
人間クラスの魂ですら、神族としては最強クラスのウェドラルシアをして重労働の末に失敗したらそれきりのワンチャンス作業で復元出来るかどうかと言ったところ。
ましてや自身と同等に近い魂を有する妻の魂の完全復活となると魔力容量不足で不可能な筈だった。
ウェドラルシアにとって幸運だったのは戦後処理役として送り込まれたセシリアルが姉と比べると温和な性格で、巻き添えで魂まで砕かれたウェドラルシアの妻に同情し、協力を申し出てくれた点だ。
「砕かれた魂を人間に転生させて、魂の輪廻転生と血の流れを利用して収束させる…神族の魂を操る技術には感嘆しますね。」
個体としての戦闘力は龍神族が圧倒的に上回るが、魂を扱う技術に関しては神族、特にその道の達人と言われるウェドラルシアの方が勝っている。
「セシリアル殿のお陰で99.99%は妻の魂を復元出来たし、神族への転生に耐えられるだけの器も用意した。」
「確か彼女の父親が火王の魂85%、母親が獣王の魂95%、兄が陽王の魂92%…粉砕された魂をよくぞ此処まで再結集させて復元したものですね。」
人間の輪廻転生と血の流れを利用して、魂を復元したとしてもそれだけでは神族の完全復活は不可能だ。
人間から神族への転生に耐え切る強靭な肉体と意志力が無ければ完膚なきまでに魂が砕けてしまい、二度と復元は不可能になってしまう。
その為の器作りの為に砕かれた他の神族の魂を復元し、何とか及第点の肉体を用意する事が出来た。
そして、共に高め合う親友兼ライバルとして肉体こそ破壊されたものの、魂は無事だった高位神族である星姫アストレアの魂を半神の肉体に転生させた。
此方は元々魂のダメージが少なかった上に、生き残った神族の中で特に血統の良い種で人間を孕ませて生まれた父親に母系から受け継がれる神族の卵子と『父親より強大な子を産む』運命を持って生まれた<神王殺し>の子宮を併せ持つ母親を抱かせて形成した『限りなく神族に近い人間』の肉体を与えたので、僅かな切掛けが有れば容易に神族として完全覚醒するだろう。
「私の魂の欠片を転生させた分身に接触させる事にも成功した。後は最後の仕上げだけだな。」
「確か、東方帝国の皇子でしたっけ?ま、僕達も一夫一妻の傾向が強いですから、お気持ちは分かります。」
魂の一部を人間として転生させたウェドラルシアは本体と分身を再融合させない限り、本来の力の半分も出せない状況だ。
大々的な他の神族の国からの侵略はセシリアルが抑止力となっているが、疲労と妻の復活への労力集中で小さなトラブルは頻発している。
元々、自国神族の大物は壊滅状態。
冥界に居たウェドラルシアは無事だったが、他の幹部クラスは戦王アーレウス達数体が生き残ったものの敗戦で痛撃を受けて好調とは言い難い。
魂がほぼ無事だったアストレアに人間を通して肉体を与えたのも、人手不足の現況を何とかしたいと言う思惑も幾らか存在する。
「どうしました?」
セシリアルが友人の表情の変化の理由を問う。
「別の銀河の異界から魂が召喚された。しかも妻の身近に。」
余計な魂が勢力圏内に入ってこないようにするのもウェドラルシアの役割の一つ。
しかし、この状況では大物の侵入は辛うじて防げても、比較的小物の召喚は守りの網の目をすり抜けてしまう。
「ま、高位神族の魂が宿った人間を如何こう出来る程の力は無さそうでしょう?」
セシリアルの言葉にウェドラルシアは苦笑する。
「魂の守護者と言う面倒な仕事を長年勤めていると…小物と思っていた人間がとんでもない爆発力を発揮する例も見るのだよ…」
極力H描写や残酷描写を削ったマイルド版として再編し直す方向で書いていきますが、話の流れとしてはミッドナイトノベル版(https://novel18.syosetu.com/n5426gx/)と同様です。
この世界をテリトリーとする神族、特に魂の転生を管轄する冥王の力が半減してしまったが故に召喚が成功してしまったという裏話でした。
主人公やヒロイン陣は未だ直接は登場せず、ほんの少し雲の上・・・では無く冥界の執務室でちょっと話題に出た程度です。