できました♪
数分後、アサガオ全滅部屋から、スタジオに戻ってくると、
「そうそう、これを渡すのを忘れていました」
ディレクターが茶色の封筒を渡してくる。
さっそく中身を確認する私。
おお、リアルマネーじゃないですか♪
ディレクターへの好感度が、「一万円分」だけ上昇する。
「スタジオにないもので、宿題をするために必要なものがあれば、その予算で購入してください」
「もしも、予算をオーバーしたら?」
「当然、自己負担です」
「じゃあ、逆に予算が余ったら?」
「番組収録のあとで、好きに使っていいですよ」
ただし、それは宿題を全部終わらせた場合の話。終わらなかった場合は、残金を没収するという。
私は急いで現在の時刻を確認した。
九時十五分になっている。のんびりしていると、のちのち苦しくなるかも。
『アサガオの観察日記』(タネからスタート)
『漢字ドリルと計算ドリル』(小学一年生レベル)
『自由研究(工作)』
『夏休みの絵日記』
『読書感想文』
この五つの中で最難関なのは、『アサガオの観察日記』だろう。タネからスタートという、とんでもないハンデを背負っている。
まずは、これに手をつけてみて、無理そうだと感じたら、後回しにしよう。
そんなわけで、さっそく最初の宿題に取りかかる私。
一ページ目。アサガオのタネを大きく描く。
二ページ目。植木鉢にアサガオのタネを埋める。
三ページ目。じょうろで水をかける。
以上。ノートに記入するのと並行して、同じ作業をした。
なので、私の前には現在、アサガオのタネを埋めた植木鉢がある。ここまでにかかった時間は十五分だ。
「できました♪」
笑顔で言うと、ディレクターがいきなりシャドーボクシングを始めた。
すかさずアシスタントの子が私に近づいてきて、そっと耳打ちしてくる。
「十五ページは必要です」
そういうことは、もっと早く言って欲しいものだ。
じゃあ、あと十二ページ水増ししないと。
私はアシスタントの子に、コピー機の場所を尋ねる。
「今から三ページ目を、必要な数だけコピーしてくるんで」
じょうろで水をかける場面なら、何ページあってもいいだろう。