十八歳以上はたぶん、あなたの味方です
ディレクターに促されて、私はおそるおそるドアノブを回す。
部屋の中を見た瞬間、戸惑うしかなかった。
「これって、ひょっとして・・・・・・」
「全部アサガオです。どれも枯れちゃっていますけど」
部屋の中に置いてある植木鉢は、二十を下らないだろう。
そのすべてで、アサガオが枯れていた。
番組では今回の企画のために、育ち具合の違うアサガオを、ちゃんと用意していたそうだ。本来なら、この部屋のアサガオを使って、観察日記をつくらせる予定だったらしい。
「ところが」
ディレクターが顔を曇らせる。
「三日前までは元気だったんですけど、臨時で入ったアシスタントの子が、この部屋の温度設定をうっかり間違えちゃって」
その結果が、目の前にある光景だ。アサガオの全滅。
「そういう事情により、企画内容を一部変更することになりました。この際、多くは求めません。夏休みの最後に、アサガオのタネからスタートするという逆境。それに立ち向かう姿を、お茶の間に届けることにします」
どうりで、さっきからカメラマンが、私の横に張りついているわけだ。カメラは撮影中の状態になっているし、ここでの映像を番組内で使う気らしい。
「事情が事情なので、ある程度の形になっていたら、この宿題に関しては、完成したものとみなします」
なぬっ? ある程度でいいのか?
ディレクターからの素敵な提案に、私は内心で喜んだ。それでいいなら、この宿題は不可能じゃない。テキトーでいいんだ、テキトーで。
「ある程度って、小学一年生レベルでオーケーってことですか?」
さらにハードルを下げようとする私。
しかし、ディレクターは甘くなかった。
「何を言ってるんですか。あなたは小学生じゃないんだから、大人レベルに決まっているでしょ。全国の大人代表として、がんばってください。十八歳以上はたぶん、あなたの味方です」