尋ね人
いつもの昼下がり。
近寄る者はほとんどいないと言われている屋敷には、
若い主人がいます。
天才科学者の瀬戸ナイト様。
ナイト様は、今日も夜更かしのせいで昼寝中です。
こういう時は、いつものように起こして差し上げなくては。
「ナイト様、あなたを心から愛しております。わたしの想いは全てナイト様だけのものでございますので私のことを好きに使ってほしいです。それとも、わたしからあなたの大切なものを頂いてしまいますよ。わたしの愛をいっぱい伝えたくて、もうどうしようもないんです。あなたを愛しています。あなたを愛しています。あなたを愛しています。あなたを愛しています。あなたを愛しています。あなたを愛しています。あなたを愛しています。あなたを愛しています。あなたを愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛してーーー」
「ーーーいや、想いが重すぎるんだがな。
この起こし方もうやめない?」
精一杯の愛を伝えてくる頭のおかしいのは、
メイドAIのマリアだ。
メイドが欲しくて作ったはずがなぜか愛を囁いてくるとんでもメイドへと変貌してしまった。
ほんと、どうしてこうなってしまったのやら。
「起きていただけてよかったです。また夜更かししていると身体を壊しますよ」
「マリアがいない時はいつもこうだったんだから大した問題ではないだろう」
「またそうやって昔を振り返るんですから、わたしはいつだってあなたの記憶にある、恥ずかしい思い出を世界の果てまで流出させる事だってできるんですからね」
「それだけはやめてください。この通りです」
自分で作ったはずのメイドにソッコーで土下座をすることになるとは世も末なのかもしれない。
「冗談ですよ。そんなことしたら二人だけの秘密が減ってしまうではないですか。さあ、お昼にしますので下へ降りてきてください」
「ああ、わかったよ」
メイドAIのマリアに言われるがまま俺は下にある食堂へ向かうところへ...
リーンリーンカラーン
この屋敷特有チャイムが鳴り響いた。
こんなところに客人が来るなんて滅多にないことだ。
「いったい誰がきたんだろうか?」
「私が見てまいります」
マリアは玄関の前でなにやら立ち話を始めたようだ。すると、
「ナイト様、こちらは依頼人でございますゆえに客室へご案内いたしますがよろしいでしょうか」
「ああ、構わないが...」
誰だろうと尋ねようかと思ったが客人は何やらここで話をすることに躊躇っているようだった。
黒いフードを纏った怪しげな男という印象だ。
(これは相当訳ありな可能性が高いな)
「マリア、客人は俺から部屋へ案内するから紅茶や筆記の用意を頼むよ」
「かしこまりました」
マリアに準備を任せつつ、俺は部屋へ依頼人を連れて行く。
ーーーこうして依頼人が来る事はほとんどない。つまり、とんでもない事件に巻き込まれているのは間違いなかった。正直面倒くさいと思っているが、久々の来客なので少し気持ちが昂っているのは俺だけだろう。かくして俺は客室へ依頼人を招き入れるのだった。