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第8話 宝玉(ジュエル)

リーファの精霊術を食らった俺は、風で切り裂くというより、風圧……爆風で吹き飛ばされた。

へぇ……風の精霊術って便利だなぁ……そんなことを考えながら俺は吹き飛んでいった……。


……もはや定番になりつつある「ふっ飛ばされ」から回復した俺は、荒い息で俺を睨みつけるリーファを横目に、急いでマインのもとへ行く。

するとリーファも心配そうに、俺の後ろから覗きこんできた。


「うん、大丈夫だ。マインの容体は落ち着いてる」

マインの柔らかいたわわな胸はゆっくりと上下し、落ち着いた呼吸であることがうかがえる。

しばらくして薄っすらと目を開いたマインは、俺の姿を視界に入れて微笑んだ。


改めて、マインが生み出した光を見てみる。

そうしていると、光の中の球体は、最初は強く辺りに光を放っていたものの、次第に淡い光へと鎮まり、やがてその姿を現したのであった。


「……やっぱりたまごに見えるわね」

……おいおい……さっきと言ってることがちがうぞ。


「……うーん、改めて見ると……たまごというよりは石……宝石?……いや、宝玉のように見えないか?とてつもなく美しい宝玉だぞこれ」

美しいマインから生みだされたから……という訳ではないが、その宝石のような玉は、とてもつるつるとした球体で、まるでマインの水精霊のように、碧く美しく、そして艶やかに煌めいていた。

……そして何だろう……マインから生みだされたせいもあってか、若干ぬめりを帯びてエロチシズムすら感じる・・・。


「アーツちょっと目が怖い……変態っぽい。というか変態そのもの」

リーファが後ずさりながら言う。


「……くっ!?どうしたんだ俺は?宝玉から目が離せない!」

リーファの言葉は聞こえているものの、そんな事よりマインの宝石から目が離せない!

どうした……なんだか引っ張られるような、不思議な感覚が俺を離さない!


すると、何かに気づいたのかリーファが叫ぶ。

「アーツ!そっち!光ってる!」


リーファが指さした方へ目を向けると……ブックが光ってる!


光るブックを目にした瞬間、またしても俺は目が離せなくなり……ふらふらと歩み寄っていく……そして俺は、いつの間にかブックを手にしていた。


「アーツ!光ってる!」


「あ、ああ……本はさっきから光ってるぞ」


「違う!今度はアーツも一緒に!」


「ん?な!?光ってる!?……俺まで!?」

ブックを手にした俺は、自分も光に包まれていることを感じ、そして更に俺の中へと流れてくるブックの意思のようなものを感じた。


俺は……操られるようにマインのもとへと向かい、美しく濡れ光る宝玉ジュエルブックの幾つかある窪みにはめ込んだ。

何かこう……自分自身がこうする事が当たり前のように……身体が動いてしまっていた。


宝玉ジュエルブックの窪みにピッタリと収まった瞬間、俺の身体中の全てに鳥肌が立ち、凄まじい絶頂感・射精感が俺を襲った!


どこか遠いところから自分を見ているような感覚だった……。

あまりの衝撃と高揚感でふわふわした意識のなか、俺は本を片手にだらんと自然体になり、光を放ちながら床から浮いていた。

俺の身体から宝玉ジュエルと同じ碧く美しい光が優しく放たれている……。


マインはそんな俺の姿を愛おしそうに見ている。

そしてリーファもまた、俺を見つめていた。


そうしているうちに、浮いていた身体がゆっくりと床に降り立ち、俺を包んでいた光も名残惜しそうに消え、普段と変わらない俺がそこにいた。


「アーツ様?いったい何が?……」

自分の身体を確かめている俺、その姿を眺めていたマインが、おずおずと聞いてくる。


「ああ」

落ち着いて応える俺。

見た目はいつもと変わらぬ俺であった……だがしかし、俺の内部では劇的な変化を引き起こしていた。


俺は静かに右手を胸の前まで上げて、手のひらを上に向けて開く。

俺は薄っすらと目を開き、手のひらに意識を向ける。


「アーツ様!それは!……水精霊!?」

マインとリーファが驚きで目を見ひらく。


そこに水が生まれていた……静かにたたずむ俺の手のひらで凄まじいエネルギーが渦巻いていた。


手の中で暴れる莫大なエネルギーを秘めた水球……見た目はまるで小さなスライム玉のようだが、その中にナイアガラ瀑布を閉じ込めたような凝縮された圧倒的パワーを感じる。

凄まじい爆流が渦巻いている!……凄い!何だこの万能感は!?

俺は自分自身の中から湧き出る圧倒的な力に興奮せずにはいられなかった。


そしてその力にはまだまだ限界が感じられず、まだまだ力をこめられそうな気がする。

しかしさすがに爆発するとマズいので、ゆっくりと息を吐きながら、手のひらの力を緩め、水の爆流を小川の流れ程度まで弱めた。

最後は手のひらに残ったひと掬いの水で顔を洗う。


驚きで声が出ない二人に、顔を洗ってさっぱりした俺は声をかける。


「どうやら水を操れるようになったみたいだ。とてつもない水の精霊力を感じるよ」

マインが生み出してくれたのは、俺たちの子供ではなかった。

俺とこの世界の精霊力を繋げる宝玉ジュエルだったのだろう。

そしてマインが水の精霊使いであったため、宝玉ジュエルは水の属性を持ち、圧倒的な水の精霊力を俺から引き出した。

……と現段階で自分が感じていることを二人に話す。


「そうなんですね。わたしはアーツ様のお役に立てて幸せです。そして精霊界への第一歩も踏み出せたように思います」

優しい笑顔で俺に答えてくれるマイン。

「でも……これからもアーツ様をわたしの中にくださいね♡」

元に戻った大きさのお腹を優しく撫でながらマインが流し目をしてくる。


はい!これからも精(精力)一杯頑張らさせていただきます!……俺は心に誓うのであった。


「それにしてもアーツ」

俺たちの横で考え事をしていたリーファがふと話し出す。

「お母さんが水の精霊使いだから宝玉ジュエルも水の力を持ったってことは……」

この先は言いにくそうなので、続いて俺が口にする。


「ああ。おそらく俺とブックはエルフとの間に宝玉ジュエルを生み出すことができる……そしてその属性はエルフの精霊属性に左右される……」

今のところ、マインとの関係だけなので、何とも言えないが、ひとつの予想としては充分に考えられることだ。


「だよね……母さんだから水の精霊……なら風の精霊力を開放するには……」

リーファは言いにくそうに話しだす。


そう、新たな精霊力を得るためには、恐らく新たな精霊属性を持つエルフとの交わりが必要だろう……でもだからといって……。


「リーファ、俺はそこまで考えていない 無理しなくていいんだそ」

……察した俺は、気遣いながら声をかける。


「リーファ」

何故かマインは満足し、得心した顔でリーファを優しく見つめながらリーファを促す。


リーファはマインを見たあと、目を閉じ自分自身の想いを確かめるように小さくうなずく。

そして俺を見つめながら言った。

「わたしは……うん!わたしは良いわよ!……別にアーツの事を嫌ってる訳じゃないし……」

思いきって言い放ったリーファは吹っ切れたのか、目元を赤らめた笑顔で俺に宣言する。

「こんなに若くて綺麗なエルフを好きにしていいんだから、アーツは死ぬまで感謝しなさい!」


「まあ!リーファったら照れちゃって可愛い……でもわたしも負けないわよ♡」

おいマイン……何故そこで娘に宣戦布告……そして何故煽る?

無防備天然エルフママは相変わらず暴走中みたいだ……。


「お、お母さんっ!?」母からの宣戦布告にぎょっとするリーファ。


そろそろリーファに助け舟だな……そして暴走中のマインを我に返すべく、俺は質問する。

「マイン、エルフの使う水の精霊術は、皆あれくらいの力が出せるのか?」


「いいえ、あれほどの力はありません。アーツ様はケタ違い……別次元の力です……まるで御伽話に出てくるような力……」

暴走から無事帰ってきてくれたマインが真面目に答えてくれる。


そうか、やっぱり規格外の力か……俺はブックの情報から、エルフたちの精霊術の力を確認していた。

それと比べてみても、どうやら俺の精霊力は破格らしい……これはもしかすると世界の精霊力を元に戻すカギになるのかもしれないな……。


俺がそんな事を考えていると、いつの間にかリーファが俺の前に仁王立ちしていた。


「……で、これからどうするの?……私は……私はいつでも準備オッケーよ!」

顔を真っ赤にしたリーファが叫ぶ。


いやいや、それ全然準備オッケーじゃないだろ……。

俺はテンパるリーファを落ち着かせ言った。


「とりあえずだ……この宿にも長居したからな そろそろ出発もしたいし……まあ リーファが言ってくれている事については嬉しいけれど 旅の中でお互いの気持ちが高まったら。それからで大丈夫だ」


「そ、そう?」

ホッとするような、残念そうな、よく分からない気持ちが渦巻く顔でリーファは返事する。


「うふふ」

笑顔のマイン。


……これ以上、放っておいたらマインがまた暴走しそうなので、俺は二人を促し、宿を出る準備をした。


そして準備を終えた俺たちは、いろいろ世話になった女将にお礼を伝え、街を出た……。


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