返信 陸なるみさんへ……
私があなたを想う時
吐く息の白さに涙を埋める
行き交う人々の影に
あなたを見た
あなたは何を思うだろう……
いつもの通り道に
あなたの足音がする…
冬の気配が追い越してゆく……
見慣れたはずの風景に
呼ばれるように
顔を上げる
冷たい空気が肺を白くする……
吐くほどに冷える手は
私ひとり……
置いてきぼりにされた季節の中に
私がいる……
時間のずれた空間に
取り残され
巻き戻らない腕時計は
狂ったままの時を刻む
時計台の針が忙しく回る
足早に流れゆく人々
たぐり寄せたその先に
誰かが待っているのだろうか……
巻き取った糸が手元に残る
確かにあの時は繋がっていたその先が
ダラリとぶら下がる……
ほんの7344000秒先にいたはずのあなた……
かけ離れて
7344000秒先にいる私…
わずかな秒を刻む秒針に
病身のあなたは刻まれた
刻一刻と色褪せる一秒の重さに削り取られる
為す術も無く削り取られるあなた……と私の繋がり
命の鎖が腐りゆく……
私に重くのしかかる……
何も言わないでほしい
何もしないでほしい
ただあなたと私の時間だけが蝕まれる
いや
何ものも蝕むことの出来なかった
ふたりだけの時間……
記憶のクリスタルに閉じ込めて……
そんなことを想い
時計台の下を歩く
待ち合わせには早く
いつかの時間を追い越そうとする
早めの冬支度……でもなく
私に余された時間だけが
ゆっくりと過ぎてゆく……
年に一度きりの街は忙しなく……
昼時のオープンテラスのぬくもりがあたたかく
日の光の隙間から眼差しを向ける
心配そうに覗き込む友達の顔が
あなたと重なり合う……
隣にはいつもいた……
あなたが早めに気を利かせてくれた
真新しいブーツを手に取る……
今必要だからって……
君に似合いそうなのを
選んだよ……
そっと届けてくれた……
愛してるからって……
愛してるからって……
…
忘れるはずのない記憶
薄れるはずのない記憶
いないはずのない記憶
確かな記憶……
を辿って……
癒されるはずのない記憶
癒されたくはない記憶
いたはずのいない記憶
確かな記憶……
を辿って……
私が生きる証は
あなたが生きた証
私の記憶の中に
誰よりも濃い残像を残し
秋の空に消える
閉じ込めておいたはずのあなたとの想い出のクリスタル
日の光があたり
あなたの残像が浮かぶ…
光の残像は
暗闇でも光るあなたの影
そっと
胸の内に閉まっておいたクリスタル……
取り出して……
今日も光の向こうに
あなたが浮かぶ……
今日も暗闇の向こうに
あなたが浮かぶ……
想い出は光のなか
想い出は闇のなか
想い出は私のなか
だけにある
確かな残像……
を手繰り寄せ
いつかの日の
あなたと繋がる……
いつかの日の
私と繋がる……
今と
いつかが
繋がる……
私と
あなたが
繋がる……
手繰り寄せたその先にある
あなたの未来の影
私が摑む
あなたの未来
その先にある
あなたと
私…