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Rush Up  作者: 秋山如雪
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Stage.8 二人

 結果として、音楽コンテストの優勝は軽音楽部に決まった。


 俺たちは、審議扱いとなり、その後すぐに体育教師と生活指導担当の教師によって、職員室に呼び出された。


 そこには、放送部の紺野の姿もあった。

 どうやら体育教師には、最初から俺と紺野が怪しいと読まれていたらしく、メールの送信履歴から証拠が挙がり、俺たちは失格扱いになり、連帯責任でメンバー全員と、放送部の紺野が自宅謹慎の上で、三日間の停学処分となった。


 さらに言うと、あまりにも騒ぎ過ぎた為、近隣の住民からクレームが来たのも決め手になったらしい。何事もやりすぎはよくないと言うところか。


「みんな、本当にごめん!」

 職員室から出た後、何度も頭を下げて謝る俺に対し、

「楽しかったですから、いいですよー」

 と白戸先輩が、いつもと変わらない屈託のない笑顔を向ける。


「私も最高に楽しかったよ。赤坂くん、気にしないで」

 と金山さんも、少しも邪気のない笑顔だ。


「今さらどうこう言ったところで仕方がないし、私も十分楽しんだしな」

 といつもは厳しい黒田先輩も、照れ臭そうに笑みを見せる。


 そして、リーダーの麻弥姉は、

「これこそロックじゃん! ノープロブレム!」

 と、むしろ大喜びで、右手の親指を立てて、俺に突き出すのだった。ちなみにもちろん、紺野も笑って許してくれたのだが。



 一方、軽音楽部との勝負はどうなったかというと。


 職員室からの帰り道、廊下で偶然、軽音部の連中三人と鉢合わせたが、黄瀬を始め、メンバー全員がどこか浮かない表情をしていた。


 そして、

「すまん。あの約束はもういい。取り消す」

 と黄瀬の方から一方的に申し出てきたのには驚いた。


 だが、考えてみれば、どちらがより盛り上がったかは一目瞭然だった。


 さすがに彼らも、この状態でデートを強行すれば、周りの生徒から何を言われるかわかったのだろう。俺たちはあの演奏だけで、一躍校内で有名人になっていたからな。


 実際、優勝した軽音部よりも、はるかにインパクトがあったから、演奏が終わった直後から既に俺たちは校内で噂に上っていた。


 結果的に、俺たちは勝負には負けたが、演奏の内容では勝ったわけだ。


 そんな軽音部の連中の背を見送りながら、麻弥姉は、

「意外と根性のない連中ね」

 と言い、黒田先輩は、

「まあ、どうせデートしたところで、私が全員ぶっ飛ばしてたけどな」

 と吐き捨てるように言い放ち、メンバーの笑いを誘っていた。ていうか、この人は本当にそういうことをやりかねない。



 そして、4日後。

 停学明けの最初の登校日の放課後。


 俺は麻弥姉と久しぶりに、二人だけで一緒に下校していた。


 その帰り道。

 彼女がたまには多摩川の河川敷を歩いて帰りたいと言うので、俺たちは最寄り駅の一歩手前の駅で降りて、夕闇迫る多摩川の土手を並んで歩いていた。


 彼女の機嫌はすっかりよくなっていた。もちろん、それは彼女の両親が音楽コンテストを見に来たからであり、離婚の話も取り止めになったからだ。


 俺の隣を歩く足取りが軽い。

「なあ、麻弥姉」

「なあに?」

「お前、ご両親に一体何て言ったんだ?」


 何故、頑なだった彼女の両親が、音楽コンテストの直前になって、急に学校に来て、彼女を見に来ることを決意したのか。俺はそれがどうしても気になっていた。


 すると、彼女は少しいたずらっ子っぽく、その猫のような口に不敵な笑みを浮かべ、こう言ったのだった。


「知りたい? 実はね、何回説得しても、どうしても見に行かないって言うからさ」

「言うから、何だよ?」


 その先を促すと、彼女は突然、両手を腰の後ろで組み、そのまま小走りで俺より少し前に歩いて行き、振り返って、満面の笑顔を浮かべた。


「もし、来てくれなかったら、家出して男のところに駆け落ちしてやるって言ったの」


 その瞬間、俺の顔は恐らくゆでだこみたいに赤くなっていただろう。


「なっ、お前なあ」

「だって本当のことでしょ。あたしと駆け落ちしてくれるって言ったじゃん」

「そこまでは言ってない!」

「同じことよ。男なら最後まで責任取ってよね」


 彼女は俺の顔を覗き込みながら、会心の笑顔を見せた。


 その笑顔は、西日に照らされて心なしかピンク色に染まっているように見えたが、俺が今まで見たことのない、最高に可愛いらしい表情だった。

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