かかし駅
目が覚め気が付いた時には、見知らぬ駅に着いていた。辺りはもうすでに暗く、周りに人影もいなかった。私は慌てて電車から降り、今いる駅の名を確認した。
『○×駅』
「……あ~。10駅も通りすぎちゃったか……。この時間、まだ電車はあるかな……」
電車が来る時間を時刻表で調べている時だった。この生ぬるい空気の中、なぜか異様な空気が流れてくることに気がついた。この駅から外に出てはいけない。どこからともなく聞こえて来た声が一層恐怖をにじませた。
「……何、さっきの声?」
得体の知れない恐怖を感じた私は思わず駅構内から出た。だが、駅の外は真っ暗で何も見えなかった。町の中なら見えるはずのビルらしきものも見えない。スマホで照らして見えた先には、かろうじて田んぼが見えただけだった。
(確か、○×駅って、街中にあるはず……。どうして田んぼが……)
気味が悪くなった私は、駅構内に戻ることにし、後ろを振り返った。
「ぎゃっ」
振り返ると、さっきまで何もなかったはずなのに、目の前にかかしが立っていた。へのへのもへじの顔をし、麦わら帽子をかぶったかかしが私の目の前に立っていたのだった。いきなりのことだったので、私は思わず尻もちをついてしまった。
「……か、かかし……」
あまりの不気味さに言葉を失った。知らないうちに背後にかかしが立つなんてことがあるだろうか?
「き、気のせいっ。さっきまで気がつかなかっただけっ」
言葉にしてみたものの、気の動転は収まらなかった。そのせいもあってか、足が何度ももつれ、よろけそうになりながら駅に戻った。
「……えっ、何、どういう、こと……?」
ありえないことに、駅から出ていったときにはなかったはずなのに、駅の周りをかかしが埋め尽くしていた。かかしは、私を駅に入れさせまいとしているようだった。無機物のはずのかかしにまるで意思が宿っているかのよう……。
けれど、私はいつまでもここにいるつもりはさらさらなかった。明日も会社に行かなければならないし、かかしだらけの場所にいつまでもいたくなかったのだ。ただ、帰ったとしてもアパートで一人暮らしなため、誰も私の帰りを待つものはいない。けど、それ以上に見知らぬ場所でかかしに囲まれながら夜を明かしたくなかったのだ。かかしにいく先をふさがれようとも、何としても帰ってやる。
私は意を決し、かかしの間をすり抜けて改札口に入ろうとした。が、そのとき、不思議なことが起きた。私が退けたはずのかかしが、また同じ場所に移動したのだ。辺りを見渡しても、私以外にいるのはかかしだけだ。誰かが隠れて動かすようなスペースもない。さらに言えばかかしはロボットのようには見えない。
「う、動いたっ? ま、まさか……」
不気味に思いながらも、私はまたかかしをのけようとした。しかし、またしてもかかしは元通りの位置に戻るのだった。けど、いつまでもこうしてはいられない。私は覚悟を決め、かかしを押し倒して突っ切ることにした。
「どけー!」
思いきってかかしに突っ込んだ、まではよかった。けれど、かかしの次の動きに私は対処できなかった。私がかかしに突っ込んだと同時に、かかしが私に向って襲いかかってきたのだ。かなりの数のかかしに襲われたため、私は後ろに吹っ飛んでしまった。
「いたた……」
立ち上がろうとした時、腕に鋭い痛みが走った。肘を擦り向いたのか、と思って腕を見たとき愕然とした。動かないはずのかかしの手が私の腕を抑え込んでいたのだった。しかも、一体だけではない。何体ものかかしが私の体をとり押さえに来たのだ。足でけろうとしても、かかしのほうが力が強く、すぐさま足までも取り押さえられてしまった。私は、身動きが取れないまま、かかしに覆いかぶさられてしまった。
「だ、誰かっ、助けっ……、うぐっ」
声を上げようとしたが、口までも押えられてしまった。かなりの力だ。このままでは窒息死してしまう。私は何度ももがいた。けれど、もがけばもがくほど形勢は不利になっていった。かかしの、私の体を押さえつける力がどんどん強くなっていく……。私は、目の前が真っ暗になるのを感じた。
意識が途切れようとした時、誰かの声がかすかに聞こえた。
「……浮遊霊の捕獲に成功したっ、三途の川に連れてくぞ……」
スーツを着た男性がフラフラになりながら歩いている。会社を出た後、何処かの店で何杯も飲んだようで、足取りがとても危うい。が、なんとか倒れずに歩いているようだった。しかし、あまり周りを見て歩いていなかったせいか、踏み切り辺りで誰かにぶつかってしまった。
「ぁあっ?! 誰だよ、てめぇっ! ぶつかっておきながら無言かっ? 謝れよ!!」
誰かにぶつかってしまったらしい男性は酒のせいもあってか、自分からぶつかったにもかかわらず、相手に謝らせようと食ってかかった。かなり勢い良く相手の胸ぐらをつかんだ男性は、相手の顔を見るなり後ろにのけぞってしまった。
「ひ、ひぃっ」
恐怖におののきのけぞった男性は酔いがさめたように、相手のほうを振り返りもせず駆け足で逃げ去った。
男性が絡んだ相手は、かかしだった。しかも、女性の頭部がかかしの一部として使われていたのだ。口や、斬られた首から血を流し、顔には満面の笑みが張り付き、男性の後ろ姿をいつまでも笑顔で眺めていた。
「……次は、あなただからね」