病院みたいな待合室にて
頭痛がした。とてもひどい痛みだ。ズキズキと頭に流れる血を感じるような痛みだった。
その痛みを感じると共に視界が開けた。視界が開けた?つまり先ほどまでは暗闇だったのか?それはわからないが、とりあえず前が見えるのだ。
「ここは…?」
拓けた先にあるの待合室のような場所だった。リノリウムの床に簡素なソファがあり、並べられたソファの先に受付と思われる事務机と椅子の組み合わせが並べられた場所だった。
「僕はなぜこんな場所に?たしか僕は…」
なぜ自分がこんな場所いるのだろう?どこから行く途中だったのかと考え気がついた。
「えーっと…」
言葉が繋げられない。なぜか?なにもわからないからである。現状を理解できないのももちろん、自分が何者かなにをしようとしていたのか、そしてなぜここに来たのかを思い出せないのである。
「とりあえず、スマホとサイフを確認しよう」
と両手でポケットを確認しようとした。が、
「サイフは持ってないな。落としたのかな?スマホは?スマホっと」
サイフは無いことを確認して、同様にスマホを探そうとして
「あれ?スマホってなんだっけ?」
口が覚えている単語を発したが、それを知っている体と脳が乖離してる。口に出しても、それが何かわからないのだ。探しても仕方がない。わからないのだから。スマホとはなんだったのだろう?しかし、とりあえず何も持っていない事だけはわかった。
「ん?ポケットの奥になんか紙が」
ポケットを探ってるうちに奥の方に、くしゃくしゃになったゴミのような紙が出てきた。
紙には
「あ、あま国案内局?」
と書かれていた。さらに紙には受付番号13という文字も付してあった。
「なんじゃこりゃ?」
こんなものを持っていたことも、これがなにであるかも当然覚えていない。
「と、とりあえず誰かに聞かなきゃな。えっと人は?」
と誰かいないかと周りを探していると
天井に付けられたスピーカーから無機質な音声で
「受付番号13番の方3番窓口までお越し下さい」
と流れて来た。
僕はどうすべきわからなかったが、呼ばれたのは自分の番号であるし行ってみれば何かわかるかもしれないと思った。
先ほどまの簡素なソファの先にある事務机と椅子の組み合わせにそれぞれ左から1番2番と番号が振られている。
右に視線を送ると果てしない数の事務机と椅子があり、何組あるのかわからない。何組あるか興味を惹かれるが到底歩いて行って帰ってこれる距離にはなさそうである。
それに3番は目の前だ。早く行こう。
3番の事務机と椅子には誰も座っていない。
番号札(と思われるもの)を机に置きながら
「あれ?おかしいな。呼ばれたから来たのに。すみませーん。13番です。誰かいませんか?ここがどこだかわかり…」
「大変お待たせいたしました。13番でお待ちの方ですね?どうぞお座り下さい。」
どこだかわかりませんか?と尋ねようとした。その瞬間、目の前に女性がいた。
その女性はとても綺麗な顔立ちをしていた。とても美しく、スリムな身体をしていた。
ハッキリとした顔立ちでやや目がきれ長で初対面の相手にキツい印象を与えるかもしれないが、そのキツい印象を凌駕するほど美しい女性だった。
髪は黒髪で腰にかかるくらいの長さであった。服装は上は白のブラウス、下は黒髪、顔立ちには合わないパステルカラーの水色のプリーツスカートを履いていた。
「あ、あ、あ。」
言葉が続かない。こんな美人を見たことがなく、声が出てこなかった。
それを察してか女性が
「どうか落ち着いて。とりあえずお座り下さい。」
と再度言ってきた。
僕はとりあえず言われるように座ることにした。
座ると女性が
「私は13番様を担当させて頂く櫛田姫那と申します。お手続き完了までよろしくお願い致します。」
「よ、よろしくお願いします。それでここは?」
「はい。こちらはあま国案内局です。ここではいらしたお客様の今後の案内をさせていただいております。」
と櫛田と名乗る女性が説明してきた。
「今後?」
「はい。誤解や齟齬を回避するために率直に申し上げます。13番様。いえ」
と、そこで言葉を切り櫛田は何もなかった机から突然現れたファイル(事務用と思われる分厚いファイル)を繰りながら言葉を続ける。
「小出一朗様、貴方様はお亡くなりになりました。」