掃除と発見
私たちは、まずこの部屋を掃除してから、掃除用具を持って部屋を出た。
「結構、キレイだね。」
「そうですね。埃は積もっていますが、荒れていません。」
私たちは少し拍子抜けしながらも掃除を進めた。
しかし、どの部屋も埃が積もっているだけで、ものが散乱していることも風化していることもなかった。私たちとしては掃除の手間が省けるので良いのだが、やはり疑問は残る。
「どうして整理整頓された状態のままなのでしょうか。」
私ははたきで上の方の埃を落としながら疑問を口にした。
「どういうこと?」
ほうきで床を掃きながらマルがこちらを見てくる。
「私は100年間も眠っていたのですから、ここも長い間使われていないでしょう。それに、埃も積もっていますし。ですから、普通は少しくらい欠けたり錆びたり壊れたりするはずなのです。」
「ああ、なるほどね。でもね、僕は僕たちがいた部屋の方がおかしいなって思ってたんだ。」
「どういうことですか?」
「だって、荒れてたのはあの部屋だけでしょ?他の部屋は全部そんなことなかったから、おかしいのはあの部屋の方かなって。」
「そういう事でしたか。」
だったら、不思議なのはこの研究所の全てだろう。何故だろうか、目覚めたときから不思議に思うことが増えた。前までは博士の口癖だけが不思議だったはずなのに。
「よし、キレイになったね。じゃあキウ、次の部屋に行こう。やっと最後だよ!」
「はい、マル。」
私たちは最後の部屋につながる扉を開けた。すると、その部屋にあったのは
「鏡・・・」
「うん?どうしたのキウ。」
真正面に大きな鏡。そこにはマルが映っていて、マルの隣にはAIロボットが映っていた。金髪碧眼でマルより30cmほど高い身長を持っているロボットだ。そんな彼は、不思議そうな表情でこちらを見つめている。
なんだろうか。何か、思い出せそうな気がする。
「キウ?」
ああ、そうだ。
「マル、ここは私の部屋です。」
私は鏡の中のロボットを見つめながらそう言った。
この部屋は、博士が私にくださった部屋だ。そのとき、博士は
『この鏡に移る人物が誰なのか、考えてごらん。』
と言っていたではないか。そして、目の前の彼とは毎日目を合わせていたではないか。いつも、何かわかりそうでわからない、不思議だ、と思っていたではないか。私はそんなことまで忘れていたのか。
「キウ、キウ。」
マルに呼びかけられて、鏡に向かっていた視線をマルに送る。
「キウ、大丈夫?鏡見て固まってたけど。」
マルに心配をかけてしまった。謝らなければ。
「すみませんでした、私は大丈夫ですよ。少し驚いただけです。」
「そっか、良かった。また眠っちゃうかと思ったよ。」
そう言って、マルは眉尻を下げて微笑んだ。安心してくれたのだろうか。
「大丈夫です。せっかく起きたのだから眠りませんよ。さあ、掃除を始めましょう。」
「うんわかった。頑張るよ。」
私たちは掃除を再開した。
・
掃除が一段落ついたところで、マルが口を開いた。
「キウ、そこの大きな窓の外から何か聞こえる。」
マルが指をさしたところは、バルコニーにつながるガラス張りの扉だった。そういえば、あそこには確か博士がつくった機会が置いてあったはずだ。今は触らないでね、と言われていたが、
「あそこはバルコニーです。行ってみますか?」
様子を見るくらいはいいだろう。
「うん。ちょっと怖いけど・・・」
私たちはおそるおそる扉を開け、バルコニーに足を踏み入れた。するとそこには、案の定大きな機械が置いてあった。機械からはジ・・・ジジ・・・という音が聞こえる。
「キウ、なんだろうねこれ。」
「博士がつくったものだということはわかります。」
「うーん、そっかあ。」
私たちがじっと機械を観察していると、機械から一際大きいノイズ音と共に、人の声が聞こえてきた。
「「!!」」
『あ・・・あーあー、聞こえるか?』