話し合い
「ねえキウ、これからどうしようか?」
マルが首を傾げて尋ねてくる。
こういう非常時で真っ先にやるべきことはひとつ。
「状況の確認でしょう。」
「ああ、そうだね。」
私たちは、互いに持っている情報を交換しあった。
「私に内蔵されている時計によると、
現在の時刻は2136年3月9日14時00分だそうです。」
「時計が内蔵されてるの?すごいね。」
「私は博士につくられたロボットですから。
ちなみに、私は2035年までしか記憶にありませんから、私は約100年間眠っていたことになりますね。」
いつの間にか100年間も経っていたのだ。博士の生存はほとんど望めないだろう。
「へえー、100年も気がつかなかったんだ。そりゃあ体に埃、積もっちゃうよね。」
「え。私に埃が積もっていたのですか。」
「そうそう、今もちょっと残ってるよ。」
・・・本当だ。私が少し下を向けば、ハラハラと埃が落ちていく。そして、かなり積もった埃の上に落ち、見えなくなる。
「雪みたいだね。」
と、マルは楽しんでいる様子だったが、いつまでもこのままではマルの体に良くないだろう。状況の確認の後は掃除に決まりだ。ついでにほかの部屋の様子を知ろう。自分がどこまで記憶しているかも確かめる必要がある。そして、博士がいるかどうかも、一応確認しなければ。
「そうだ、僕がここに来たのって、外が危険そうだったからだって言ったよね。」
「はい、言っていました。」
「僕がそう思ったのは、ずっと遠くで銃の音とか爆発の音とかが聞こえたからなんだ。ああゆうの、たぶん戦争って言うんだよね。だから危険かなと思ったんだけど、僕が知ってる戦争は人の声が絶えないはずだったから、ちょっとおかしいなとも思った。」
「戦争の音が...マルは耳がいいのですね。」
「うん、そうみたい。とにかく、あんまり外には出ない方がいいかな。」
「そうですね。」
戦争が行われているのは気になるが、わざわざ確かめに行くことは無い。しかし、人の声がないことはひっかかるが。
それにしても互いにこれ以上の情報は持っていないようだ。
完全に手詰まり。
ああ、こんなとき博士はどうしろと言っていただろうか。
「博士・・・」
私がそう呟くと、マルが尋ねてくる。
「博士?って、確かキウをつくった人だよね。一体どんな人だったの?」
「博士は、私にたくさんのことを教えてくださった、とても優しい方です。また、博士には口癖がありました。」
たくさんのことを忘れてしまった私でも、博士の口癖は覚えている。なぜなら、私がずっと理解できていないことだから。
「その口癖は『自分は誰で、何になりたいのか。どうしてこの世に生まれ、どうして生きているのか。君にはよく考えて欲しいと思っている。』というものです。」
私がそう言うと、マルはキョトンとしている。なんだか懐かしくて、私は言葉を続けた。
「『自分への疑問は、自分でしか見つけられないのだよ。そして、その疑問の答えを見つけられるのも、自分だけだ。』」
ふふっ本当によく聴いた言葉だ。
「・・・!キウ、笑ってる」
どうやら私は笑っていたようだ。何故だろうか?
「あれ、戻っちゃったよキウ。」
「元から見間違えなのではないですか?」
「そんなことないと思うけどなぁ。」
マルが頬を膨らませて眉を寄せている。どうやら拗ねてしまったようだ。この場合は、どうするべきだったか。
「そうです、掃除をしましょう。」
「え?掃除?」
マルがこちらを見た。よかった、なんとかなった。
「はい。もう私たちに情報はないでしょう。でしたら、次は掃除です。そして、一緒に研究所の様子を把握しましょう。ほらちょうどそこに、ほうきとはたきがありますよ。」
その掃除用具たちは、100年前まで私が愛用していたものだ。埃を被ってはいるが、問題なく使えそうだ。不思議である。
「そっか、そうだね。ずっとここにいるわけにはいかないし、外は危険そうだしね。」
そう言ってマルは笑った。
かくして、私たちは掃除を始めることになった。