ずっと一緒にいよう 食
僕の好きな人には、彼氏がいる。
僕が注目しているのは、誰よりも可愛くて、清楚で、可憐でとっても美人な人。
その人の隣にはいつも、彼女にお似合いの、非の打ちどころのない好青年がいる。
僕はきっと、そんな人物には、逆立ちしたって敵わないだろう。
どんなに捜してみても、一つでも彼に勝さる長所が存在しないのだから。
僕は運動もできないし、勉強もできない。真面目な所も、誠実な所もない。
まるまると太った体に、道化の様な不細工な顔。見た目も、良い所なんてまったくない。
一体誰がこんな僕を好きになってくれるのだろう。
ただの人間ですら振り向いてくれないのだから、可憐な彼女が僕に目を向けてくれるはずがなかった。
でも、幸いな事に悪知恵だけは働くんだ。
あの子を奪って僕の物にする。
そして永遠にずっと一緒にいられるようにするんだ。
だから、僕は暗闇で彼女を待ち伏せして、攫った。
誰がイジワルしても、引き裂かれないために、完全に一つになろう。
彼女の身を包む、余分な物は全てはいで。
汚れも綺麗に落として、あとは下ごしらえ。
美味しくさせるために、調味料には気を使わないと。
メニューを考えていると、台所の鍋がふきこぼれる音がした。
いけないいけない。
きちんと火加減を見ておかないと。
そうだ、食器も出しておかないとね。
彼女にふさわしい、可愛い食器を買ってきたんだ。
さて、準備はととのった。
さあ、僕は彼女を台所に連れてきて、幸せな未来に酔いしれた。
時間をかけてつくりあげて完成品を前にして、手をあわせた。
「いただきます」そして「ごちそうさま」
ご飯を食べた後に、ぽっこりふくらんだお腹に喋りかけた。
これで僕達はずっと一緒だよ。
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