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その4

あさひが、とてもまぶしい。

 もう、さくばんの、おおかぜがうそのようだ。

 あさのたいようがまぶしく、ぼくたちをてらしている。

 でも、おおかぜによって、たくさんの、ひがいがでた。

  ぼくのほうはそれほどではなかったけれども

 トラジローのほうは、かたてのでんせんが、きれてしまったんだ。

 きれたでんせんが、ブランブランと、たれさがっていた。

 トラジローのそばにおまわりさんが、

 きいろいテープをまきつけて、こどもたちが、なかにはいらないようにしていたんだ。

 「ねえ、たいちょうは、どう?」

 ぼくはトラジローのくつうにみちたかおに、たずねた。

 「うん・・・なんとかね」

 「そのて、たいへんだね?」

 「うん。でも、たぶんこれから、かいしゃのひとがやってきて、しゅうりしてくれるさ」

 やがて、とおりにがっこうへゆくこどもたちのすがたや、かいしゃへゆく、おとなたちのすがたが

みえるころ、ぼくはさくばんの、おおかぜを、おもいだして、いたんだ。

もうからだがたてなくて、ダメだとおもって、いしきがもうろうとなったとき、

 とつぜん、あたりが、しいんと、しずまりかえって、

 いきなりなにがおこったのか、わからなくなって、

 ああ、もう、ぼくは、しんでしまったんだと、おもったとき

 そらから、やわらかいこえで、

 「こんばんわ」

 と、きこえたんだ。

 みあげると、それはまんまるい、おつきさまだったんだ。

 ぼくも、ぼうっとしていたけれども、

 「こんばんわ。でも、もう、おおかぜは、いってしまったの?おつきさま、あなたはしってる?」

 「うーん、まあはんぶんだね。まだはんぶんあるから、もうすぐ、おおかぜは、ふたたび、つよくなるだろうね」

 そのとおりだったんだ。

 まもなく、おつきさまはふたたび、くものなかに、かくれてしまい、ソヨソヨとカゼがなびいてきたら

 ふたたび、おおかぜが、ぼくたちを、おおっていったんだ。

 それから、ぼくは、おおかぜのなかで、いしきがうすれていったけど、

 きがついたときには、ぼくの、かたての、でんせんに、

 ヒヨドリのふうふが、つくねんと、していたんだ。

 「キラリちゃん、だいじょうぶ?」

 キラリちゃんも、イシコロくんもぶじだったので、よかった。

 ふたりは、しっかりと、からだを、ささえあって、おおかぜから、

 みを、まもったんだ。

 ほんとうに、よかった。




 ・・・ナオヒコのヒの文字をとればナオコになる・・・退屈な英語の授業中、黒板のスペルを写しながらぼんやりと考えて

いたら、ふっと頭に浮かんだ。

 あたらしいブンチョウの名前はもはやこれ以外にありえないような気がした。

 ナオコ・・・は、園田菜穂子と同じだからだ。

 この事実を発見したとき、何となくココロが熱くなるような気がした。

 グランドで1年生がサッカーの練習をしている音がこだましてくる。ときどきホイッスルの響く音と、滝野先生の野太い声で

生徒に指示する声がまざりあっている。

 グランドのこだまする音と、木村先生の単調な英文解説の音をぼんやり聞き分けながら、僕の席より4つ前でノートにじっと

視線を固定させている園田菜穂子の後ろ姿を見つめていた。

 その視線は彼女の生真面目な雰囲気そのものだった。

 ときどきシャープペンシルの手を休めて、じっと黒板を見つめるとき、ほんの少し目を細める癖があったけれども、それが却

って彼女が真剣に授業に取り組んでいることの現われのように思えた。実際、彼女は成績は優秀だった。

 そんな成績優秀な園田菜穂子のご芳名を我が家のブンチョウに名づけるなんて甚だ失礼極まりないような気がした。仮にもつ

い先日まではオスとして認識され、しかもオスのように振舞っていて誰もその性別を疑わなかったのに、一夜にして一個のタマ

ゴでもって、メスになってしまったのだ。そんなブンチョウに彼女の名前をつけるなんて・・・、

 でも、やっぱりありなような気もする。

 彼女は無口だったけれども、それは気が弱い無口というよりは、何か信念からくる無口さだと思う。

 たぶん、彼女は相当芯がある女の子なのかもしれない。

 でもちがうような気もする。

 彼女はあんまり友達がいるわけではなかった。成績は優秀だったけれども、よく、クラスの成績の優秀な連中が自然と親しい

グループを形成しているようなことがあるが、彼女はそういうのには属せないような雰囲気があった。

 実際、彼女はお昼休みには図書室でひとり静かに、小説を読んでいた。

 どうして僕は彼女のことを好きになってしまったのだろう・・・

 彼女の容姿か、それとも雰囲気か、あるいは優しさだろうか・・・わかるようで、わからないのが、正直な気持ちだ。

 別にもしかしたら理由なんてないのかもしれない。

 でも、彼女のほうは僕に対する認識なんてちっともないのにちがいない。

 そう考えると少し悲しくなった。

 

 

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