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テラスとの混浴

 しばらくはギルドの宿で寝泊まりさせてもらえるようだ。

 やっと自由な時間を過ごせるようになった気がする。

 それにしても一日の間にイベントがありすぎる、もっと人生にまんべんなく振り分けてほしい。


 渡させた鍵の部屋へと向かう前にお風呂にでも入ろうか。

 なんとここには銭湯の施設もあるらしい、流石に何でもありすぎだろと思う。


「ふっふ~ん、それはね。施設がギルドと隣接することによって常に冒険者が居る安全な状況を作るためよ。ギルドの中だけで生活するギルドチルドレンなんて人たちも居るぐらいよ」

 メイラはここぞと自慢げに知識をひけらかす。


「いきなり現れてお役立ち情報を教えてくれるな。ナビキャラかよ」

「人々を導くのが女神だから仕方なく致し方なく教えてやってんのよ、感謝なさい」

「カンカンカンカン、なんだ電車か――――ハッ!違うカンシャだ!」

「頭おかしいんじゃないの?」よしうまくけむに巻けたようだ「まあ、いっか。そんなことより、今からお風呂入るんでしょ、一緒に入りましょうよ!」

 片腕を離さないようギチっと両腕で掴み胸を押し付けてくる。


「なんで俺がお前と二人で風呂に入らにゃーならんのだ。お前には泉があるだろ」

「泉って水じゃない、お湯に入りたいの。それに勘違いしないでよね私はテラスちゃんの体と入りたいの。あなたは湯気みたいなものよ、テラス汁だけ提供してればいいの」

 メイラとお風呂に入ってはいけないと俺の中のテラスが首をブンブン横に振って訴えかけている。


 よし、一汗かいてからお風呂に入ろう。

 ランニングしよう、女神のようなものを振り切るぐらいの速さの。


「よーし、メイラー、走るぞー」

「――――?いきなり!なんでぇ?」

「お前がくっついてるからだ」

「そっかー。んぎゃぁぁぁ」(ぶんぶんぶんぶんぶんぶん)(ドカァ)「ぶへぇ」

 背中を盛大に打ち付けていたような気がするがメイラなら大丈夫そうだから大丈夫だ。大丈夫じゃないのは頭の出来ぐらいだろ。

 あれからメイラが追ってくる様子もなく無事にお風呂へと着くことが出来た。

 脱衣場がないな。そっか服がないから要らないのか。

 タオルは用意されていたので一つ借りて肩にかける。

 そこである重大なことに気が付いた。


 違和感がなくなってきたから気づかなかったが俺は今、女の子ということになっている。つまりは女風呂に入ることになるのか!

 本来なら一緒に入ろうと誘われたときに気付くべきだがメイラを変態おじさんとしか認識していなかったため見落としていた!


 人が多い時間ではないので誰も居なければいいのだが。

 不審にならない程度に浴槽を覗く。

 幸い人の気配はない、手短に事を済まそう。

 毎日こそこそしているようでは不便なので明日からは何か別の方法を考えなければいけないな。


 服を脱ぐという行為をスキップしたことに違和感を抱きつつも浴室に足を踏み入れる。

 銭湯のマナーとして最初はかけ湯だな、大抵は入ってすぐのところにスペースがある。注意点として人の出入りがあるので他の人にかけてしまわないよう勢い良くお湯をかけないことだ。ちゃんと周りを確認しようね。

 かけ湯をしたらすぐに湯船に入りたいと思う人がいるだろうが先に体全体を洗うのもマナーだ。

 沢山の人間が使用するため湯舟を汚さないように努めなければならない。そのためタオルも浴槽につけてはいけない。


「なるほど、もしかしてと思ったがこういった形で()()()()()()()()()()


 誰もいなかったはずの浴槽には見知った女の子――()()()が入浴していた。


「――――体を洗ってからでいいか」

「いいとも、好きにすればいいさ」


 なんかいた。テラスいた。

 シャワーを浴びながら精神を安定させる。


 なんでテラスがここにいるんだ。テラスは元の世界で俺の体にいて、この世界では俺がテラスの体に入っているはずだろ。幻覚か?それとも湯船に反射した姿を見ただけか?


 鏡で自分の顔を見つめてみる。

 鏡面に映った驚愕の表情は冴えない青年――()() ()()()()()()()()()


 体が戻ってる!思えば目線が高いような気がする。

 体も洗い、タオルを腰に巻いて大切なところを隠しながらテラスの前に出た。


 テラスは湯船に浸かったまま言った。

「初めましてといった感覚ではないが一応初対面なのだから初めましてと言っておくよ」

「ああ、そうだな。どうも風向(かざむき) 亮太(りょうた)だ」

「知ってる。どうもテラス・カウントだ」

「俺も知ってる」

 本当に初対面だというのにお互いを知っている。

 ()()()()()()()()()()()()()


「それよりも体がまた入れ替わっているぞどういうことだ!」

「やっと気が付いたかリョウタ。体が入れ替わったことぐらいもっと早くに気づくだろう。正しく言うと体が入れ替わったのではなく()()()()()()()()()()()()()だ」

 幽体離脱みたいな魂だけの状態なら正常な姿になるのは理解できるがいまいち納得がいかない。


「足がついてるしリアルな感覚もある、精神だけとは思えないぞ」

「たしかにリアルだが私はリョウタの家の小さな風呂に入っていたはずがこんな大きな風呂に入っている。何らかの方法で別の場所に移動したのは明らかだ」眉を上げて得意げに続けた「それに世界を隔てて存在している私たちが同じ空間に存在しているのは不自然だろ」


 1つの世界に同じ存在は1つだけというルールがあるかは知らないがそのほうが自然だとは思える。

 ドッペルゲンガーと出会うと死んでしまうように全く同じ存在は別の場所にいたほうがいい。


「それで精神だけになったと仮説したわけか、対に存在している俺たちだからつながりが出来ていてもおかしくはないな」

「そういうことだ。分かったなら恥ずかしがってないで風呂に入ったらどうだ」

「恥ずかしくないがぁ」


 タオルを湯船につけるのはいかがなものかと思うが恥部を見せるわけにはいけないので腰に巻いて隠したまま浴槽に入った。

 決して恥ずかしいわけではない。


「あはは、そういうところが分かりやすい、お前は。いや、私でもあるのか」

 見れば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 クッ、沈まれ自分。この世界に来てからずっと裸を見てたじゃないか、テラスだけが特別じゃない。


 そんな心の中の葛藤を知ってか知らずかテラスが挑発して来た。

「そうかそうか、ちょっと意識しちゃってるのか。異性と風呂に入る、こういうのが好きなんだろ」

「やいやい、違うやい。テラスも俺の記憶を覗いたと思うがまだまだ分かってないようだな」

 テラスはない胸を張り上げて自慢げに言った。


「私は全部見たぞ、バブバブ言って泣いている時からコンビニの道中で襲われる時までな。リョウタのことは何でも知っているつもりだよ」


 自分が分からなくなるような記憶の閲覧をテラスは全部見たと――自分を保ちながら言っている。

 1()8()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「記憶を見て危険じゃないのか…………少なくとも俺は自己を持っていかれそうになったぞ」

「平気だよ。私は私だし、リョウタではない。ブレない自分さえあれば自分を見失うことはない」

「テラスはすごいな。一本の筋が通っている、俺にはそんなことできない」

「なに弱気なことを言ってるのさ。()()()()()()()()()、世界だって救ってしまう実力があるんだぜ。私の記憶を見たとしても自分を保てると信じているよ」


 テラスの自信には過去の積み重ねがある、そんな自信を俺が持つには人生が薄っぺら過ぎる。

 テラスがすごいから俺もすごいなんて方程式はイコールで結べない。

「そう深く考え込むな悪い癖だぞ、簡単に考えろ、その方が分かりやすい」


 テラスは大切なところを隠したままザバっと湯船から立ち上がる。

「のぼせてしまった。私は上がらせてもらうよ。続きはまたの機会にでも話そうじゃないか、きっとまた会えるはずさ」


 まだまだ話し足りないことがある、今目の前にある問題、魔王のことでだ。

「なあ、一つだけ聞いてもいいか。魔王が復活した、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「それは冗談のつもりか。何の話だ、魔王は首を落として土に返したぞ。間違えはないそんなことはあってはいけない。()()()5()()()()()()()()()、カイザス、ニーチャ、ベティ、サンジェルマ。殺せてなければ報われない」

 テラスしか生き残らなかった魔王討伐。生きていたと伝えることは無意味だと知らせるということ、そんなことを知らされれば怒りがあるだろう、殴り掛かられないだけ理性的だ。


「……すまない」

 不謹慎だった、テラスのことを考えていなかった。

「いや、悪意があってのことではない。分かっている……気を立ててしまった私が悪い、ただこの話をするのはよしてくれ」

 怒りの矛先を無関係な人に振るわないのだ、テラスは俺を責めない。


 落ち着きを取り戻し冷静にテラスは言葉を紡ぎ出した。

「恐らく、魔王と近しい者――等しい実力を持つ者だ。だと考えると今のリョウタには荷が重いかもしれん、だが私の体には倒せるだけの実力が備わっている、後は引き出し方だけだ、しばらく慣らし運転として依頼をこなしてみてみろ」


 それだけ言うとひらひらと手を振ってお風呂場から出て行ってしまった。


 一人湯船に残され、張り続けていた気持ちがやわらぎやっとくつろげる。

 腰に巻いていたタオルを外し、湯を絞って瞳に乗せる。


「ふぅ~、めっちゃかわいかったぁぁぁぁ」

 体の力を抜き寝転ぶように湯船に浮く。

 そもそも泉に映り込んだ顔だけで一目ぼれなのだ。          

 それがああも楽しそうに話している、殺す気か。

 風呂の度に出てくるのではあるまいな。もしそうならいつか死ぬ、心臓の鼓動が激しすぎて破裂して死ぬ。 

 

 落ち着け俺、落ち着け。明日は言われた通り依頼を受けてみよう――

 ――興奮で寝付けなかったら明後日にしよう。


 テラスがガバっと扉を開け顔を覗かせる。

「ああ、リョウタ忘れてたが――」

「「キャッ」」

「あはは、すまん。別に驚かすつもりでは」

「テラスさんのえっちぃー」


 あれ?立場逆じゃね。

ストックが底を着きました。週一更新となります。



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