テラスとステラ
兄としては妹が欲しかった。
布団を乱暴にゆすられて少しイラつきながら目覚めたとしても、『お兄ちゃん朝だよ』とでも言われればその日は祭日のような気分になるはずだ。
妹が、妹が欲しい。
実際には萌え萌えなイベントはなく、ただうざいだけだとも聞いたことがあるがきっと日本国外のことだろう。
望み願い続け、そして叶った、
妹ができました。
「どうぞ、お茶です」
「ああ、ありがとう」
一口だけ頂く。うまい。
ただ今、ギルドの奥の応接間でくつろがせてもらっている。
妹のステラとは会話が弾まない。
ふかふかのソファーも弾まないが俺を優しく包んでくれる。
って!何をしているんだ! テラスとして怪しまれないような自然な行動をしなければ。姉妹なのだから少しの違いでも正体を見破られてしまう。
「姉様は少し会わない間に随分とお変わりになりましたね」
「そ、そうか。やっぱり世界救っちゃったしなー。覇気というかオーラというかそういうの纏っちゃてるぅ」
きょどりすぎだー!ステラにドン引きされちゃってるよ。
「そうではなくて、昔は話してもくれなかったから」
そうだったのか!メイラがあんなにも会わせようとするからてっきり仲がいいものだと思っていた。
「確かにそうだったかもな」
曖昧な言葉でお茶を濁す。
俺だって弟とは不仲だ。
昔、家族でキャンプした時に弟を怪我させてしまったことがある。
少し草むらから飛び出して脅かしてやろうかと思っただけだった。
それだけだったのに。
驚いた弟は駆け出し、崖から落ちてしまった。
幸いなことに崖は3メートル程の高さで怪我も右腕の骨折と擦り傷。後遺症は残らなかった。
しかし近くには20メートルほどある崖もあった。
それからというもの弟との接し方を忘れてしまった。
きっとテラスもそうなのだ。
「姉様、あの時のことは……」
あの時ってどの時だよ。
そんなウルウルとした瞳を向けられても……
「あの時な。あの時は私が悪かった」
デタラメに言ってみたがこれでいけるか?
「いえ!あの時は私がいけなかったのですッ!――――」
テラスとステラの間でも何らかの確執があるのだ。
姉と他人行儀な話し方をする妹などそれだけで異常。おかしかった。
「――――私がワガママで泉に行きたいと言わなければ良かったのに」
「何かが起こると分かれば行かなかったのだろ。それさえ分かっていれば十分さ」
「やっぱり姉様は変わりました。別人みたいに」
……ギクッ。
「昔と比べたら強くなったからね。今ならどんな魔物だってちょちょいのちょいだ」
「昔は加護もなかったですから。姉様がいきなり強くなったあの時、魔物からどうやって助けてくれたのですか?」
わかんねぇ。心の中で頭を抱える。
でも分かるはずだ。
テラスの体は知っている。
またぼやけた記憶の一つが晴れていく。
元々一話で書く予定の話でしたが長かったので三話に分けました。
今回短かった分、次回は長めになります。